[P-1-05] 大腿骨頸部骨折後に視床出血を合併し術前からTilt tableを用いて起立を試みた一例
【症例紹介】
60歳代の男性。自転車運転中に転倒し右大腿骨頸部骨折(Garden stageⅣ)を受傷、人工骨頭置換術(以下、BHA)が予定された。第2病日、左視床出血(CT分類GradeⅢb)を発症し、BHAは2週間延期となった。理学療法は第3病日より開始した。
【評価とリーズニング】
第3病日の評価はJCS20、失語症、半側空間無視、嚥下障害、感覚障害、運動麻痺(下肢FMA0点)を認め、NIHSS17点であった。非麻痺側下肢筋力はMMT5、SCP6点、Hoffer座位能力分類(以下、Hoffer)3、Ability for Basic Movement Scale-Ⅱ(以下、ABMSⅡ)11点で基本動作は全介助であった。大腿骨頚部骨折に対する治療の原則は、早期手術・早期離床である。本症例は脳卒中発症に伴い手術待機期間が延長し、医学的管理上、長期の安静臥床が想定された。過去の研究で安静臥床は循環血液量減少や圧受容器反射の感受性低下を引き起こし、脳卒中患者においては麻痺側下肢のみならず非麻痺側下肢の廃用性筋力低下を招くことが報告されている。本症例においては大腿骨頸部骨折に対するBHA延期による安静臥床期間が廃用症候群をもたらし、脳卒中に伴う重度の神経学的症状が機能的予後を不良にする可能性が高かった。そのため、BHA術前から起立練習を実施し身体へ重力負荷を与え、起立性低血圧や非麻痺側の廃用性筋力低下を予防することが重要と考えた。一方、BHA術前の起立練習は骨転位を来す可能性があり、さらに本症例は視床下部や中脳に及ぶ血腫伸展により自動調節能破綻が危惧され血圧依存性に脳血流量を変動させる可能性があった。そのため、患肢免荷が可能で起立負荷を段階的に調節できるTilt tableを用いて起立練習を開始した。
【介入と結果】
第7病日、Tilt tableを使用し患肢完全免荷で起立練習を開始し、JCS3に改善したが起立性低血圧を認めた。第10病日、立位練習ならびに非麻痺側下肢の筋力増強練習を開始した。第14病日、立位時の起立性低血圧は消失した。その後、尿路感染症と誤嚥性肺炎を発症しBHAは再延期となった。第28病日、右大腿骨頸部の骨転位は認めず全身状態も安定し、BHAが施行された。第29病日から立位練習、第30病日から歩行練習を開始した。
第42病日の評価ではJCS3、失語症、半側空間無視、嚥下障害、感覚障害、運動麻痺(下肢FMA14点)を認め、NIHSS16点であった。麻痺側股関節屈曲可動域100°、非麻痺側下肢MMT5、SCP1.5点、Hoffer1、ABMSⅡ16点となり、起立動作は手すりを使用して最小介助、立位は監視下で可能となった。
【結論】
本症例は大腿骨頸部骨折後に重症視床出血を合併した重複疾患症例であり、医学的管理から長期の安静臥床が想定された。このような症例に対してTilt tableを用いて発症早期から安全に起立負荷を与えることは、廃用症候群を予防し、基本動作改善に繋がる。
【倫理的配慮、説明と同意】
本発表に際し、当院倫理審査委員会で承認(承認番号20-114号)を得た。
60歳代の男性。自転車運転中に転倒し右大腿骨頸部骨折(Garden stageⅣ)を受傷、人工骨頭置換術(以下、BHA)が予定された。第2病日、左視床出血(CT分類GradeⅢb)を発症し、BHAは2週間延期となった。理学療法は第3病日より開始した。
【評価とリーズニング】
第3病日の評価はJCS20、失語症、半側空間無視、嚥下障害、感覚障害、運動麻痺(下肢FMA0点)を認め、NIHSS17点であった。非麻痺側下肢筋力はMMT5、SCP6点、Hoffer座位能力分類(以下、Hoffer)3、Ability for Basic Movement Scale-Ⅱ(以下、ABMSⅡ)11点で基本動作は全介助であった。大腿骨頚部骨折に対する治療の原則は、早期手術・早期離床である。本症例は脳卒中発症に伴い手術待機期間が延長し、医学的管理上、長期の安静臥床が想定された。過去の研究で安静臥床は循環血液量減少や圧受容器反射の感受性低下を引き起こし、脳卒中患者においては麻痺側下肢のみならず非麻痺側下肢の廃用性筋力低下を招くことが報告されている。本症例においては大腿骨頸部骨折に対するBHA延期による安静臥床期間が廃用症候群をもたらし、脳卒中に伴う重度の神経学的症状が機能的予後を不良にする可能性が高かった。そのため、BHA術前から起立練習を実施し身体へ重力負荷を与え、起立性低血圧や非麻痺側の廃用性筋力低下を予防することが重要と考えた。一方、BHA術前の起立練習は骨転位を来す可能性があり、さらに本症例は視床下部や中脳に及ぶ血腫伸展により自動調節能破綻が危惧され血圧依存性に脳血流量を変動させる可能性があった。そのため、患肢免荷が可能で起立負荷を段階的に調節できるTilt tableを用いて起立練習を開始した。
【介入と結果】
第7病日、Tilt tableを使用し患肢完全免荷で起立練習を開始し、JCS3に改善したが起立性低血圧を認めた。第10病日、立位練習ならびに非麻痺側下肢の筋力増強練習を開始した。第14病日、立位時の起立性低血圧は消失した。その後、尿路感染症と誤嚥性肺炎を発症しBHAは再延期となった。第28病日、右大腿骨頸部の骨転位は認めず全身状態も安定し、BHAが施行された。第29病日から立位練習、第30病日から歩行練習を開始した。
第42病日の評価ではJCS3、失語症、半側空間無視、嚥下障害、感覚障害、運動麻痺(下肢FMA14点)を認め、NIHSS16点であった。麻痺側股関節屈曲可動域100°、非麻痺側下肢MMT5、SCP1.5点、Hoffer1、ABMSⅡ16点となり、起立動作は手すりを使用して最小介助、立位は監視下で可能となった。
【結論】
本症例は大腿骨頸部骨折後に重症視床出血を合併した重複疾患症例であり、医学的管理から長期の安静臥床が想定された。このような症例に対してTilt tableを用いて発症早期から安全に起立負荷を与えることは、廃用症候群を予防し、基本動作改善に繋がる。
【倫理的配慮、説明と同意】
本発表に際し、当院倫理審査委員会で承認(承認番号20-114号)を得た。
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