[P-15-04] 傍腫瘍随伴症候群により運動失調症状を呈した症例の理学療法経過
【症例紹介】
患者は70歳代男性.コミュニケーションは良好.独居であり病前ADLは自立.現病歴は眩暈,呂律困難,ふらつきが生じ近院に受診.小脳疾患を疑い頭部検査されるが明らかな所見はなく転院となる.その後,呼吸状態が悪化しCT検査にて肺小細胞肺癌が疑われ,緩和照射によって腫瘍の縮小を認めた.血液検査では,抗VGCC抗体陽性となり傍腫瘍性神経症候群(Paraneoplastic neurological syndrome,PNS)の診断となった.運動失調症状が残存し,ADLの低下によりリハビリテーション(以下リハ)目的にて発症約1か月後に当院へ転院となった.
【評価とリーズニング】
理学療法評価としてScale for the assessment and rating of ataxia(SARA)は29点,感覚は表在,深部感覚ともに正常.等尺性膝関節伸展筋力(右/左)は13/11.5(kgf)であった.Functional Balance Scale(FBS)は4点,ADLではFIMが合計42点(運動項目25点,認知項目17点)であった.端座位保持や移乗などの基本動作は,体幹や下肢の失調により中等度介助が必要であった.
【介入と結果】
課題指向型練習として主に端坐位保持,立位保持,起立,移乗,歩行練習を行った.難易度調整として座面の高さや支持物を変更して,口頭指示による修正を促して反復した.下肢の失調に対しては台の上に下肢の接地位置をマーキングし,ステップ練習を行った.難易度調整として台の高さ,支持物,下肢の接地位置のマーキング範囲を動作の改善に伴い変更した.入院約30日目で起立,端坐位保持は見守り,入院約60日目には移乗動作は支持物を使用して見守り,平行棒内歩行が見守りにて可能となった.入院約90日目には歩行器歩行が軽介助レベルとなった.退院時では,SARAは22点,等尺性膝伸展筋力は15.9/15.9(kgf)であった.FBSは8点,FIMは合計76点(運動項目56点,認知項目20点)であった.基本動作は全般的に見守りにて可能になり,介護老人保健施設への退院となった.
【結論】
入院当初から課題指向型練習を行い運動失調症状は残存したもののADLの改善が得られた.先行研究では,PNSに対して化学療法に加えて通常理学療法を行いADLが改善した症例が報告されている.本症例では入院中には癌に対して積極的な治療は行っておらず,ADLの改善が認められた.このことから,PNSにより運動失調症を呈した症例においても,課題指向型練習がADLの改善に有効であると考えられる.本症例は自宅退院希望であったが,退院時点では自立した移動が困難であった.石川らは回復期病棟の運動失調患者に対して,歩行自立のカットオフ値をSARAで18.5点と報告している.本症例の入院時のSARAは29点であり,病態は異なるがその報告の帰結予測と一致する.PNSにより運動失調症を呈した患者に対して課題指向型練習は,ADLの改善に寄与すると考えられる.
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表に際し,症例に十分な説明と同意を得た.
患者は70歳代男性.コミュニケーションは良好.独居であり病前ADLは自立.現病歴は眩暈,呂律困難,ふらつきが生じ近院に受診.小脳疾患を疑い頭部検査されるが明らかな所見はなく転院となる.その後,呼吸状態が悪化しCT検査にて肺小細胞肺癌が疑われ,緩和照射によって腫瘍の縮小を認めた.血液検査では,抗VGCC抗体陽性となり傍腫瘍性神経症候群(Paraneoplastic neurological syndrome,PNS)の診断となった.運動失調症状が残存し,ADLの低下によりリハビリテーション(以下リハ)目的にて発症約1か月後に当院へ転院となった.
【評価とリーズニング】
理学療法評価としてScale for the assessment and rating of ataxia(SARA)は29点,感覚は表在,深部感覚ともに正常.等尺性膝関節伸展筋力(右/左)は13/11.5(kgf)であった.Functional Balance Scale(FBS)は4点,ADLではFIMが合計42点(運動項目25点,認知項目17点)であった.端座位保持や移乗などの基本動作は,体幹や下肢の失調により中等度介助が必要であった.
【介入と結果】
課題指向型練習として主に端坐位保持,立位保持,起立,移乗,歩行練習を行った.難易度調整として座面の高さや支持物を変更して,口頭指示による修正を促して反復した.下肢の失調に対しては台の上に下肢の接地位置をマーキングし,ステップ練習を行った.難易度調整として台の高さ,支持物,下肢の接地位置のマーキング範囲を動作の改善に伴い変更した.入院約30日目で起立,端坐位保持は見守り,入院約60日目には移乗動作は支持物を使用して見守り,平行棒内歩行が見守りにて可能となった.入院約90日目には歩行器歩行が軽介助レベルとなった.退院時では,SARAは22点,等尺性膝伸展筋力は15.9/15.9(kgf)であった.FBSは8点,FIMは合計76点(運動項目56点,認知項目20点)であった.基本動作は全般的に見守りにて可能になり,介護老人保健施設への退院となった.
【結論】
入院当初から課題指向型練習を行い運動失調症状は残存したもののADLの改善が得られた.先行研究では,PNSに対して化学療法に加えて通常理学療法を行いADLが改善した症例が報告されている.本症例では入院中には癌に対して積極的な治療は行っておらず,ADLの改善が認められた.このことから,PNSにより運動失調症を呈した症例においても,課題指向型練習がADLの改善に有効であると考えられる.本症例は自宅退院希望であったが,退院時点では自立した移動が困難であった.石川らは回復期病棟の運動失調患者に対して,歩行自立のカットオフ値をSARAで18.5点と報告している.本症例の入院時のSARAは29点であり,病態は異なるがその報告の帰結予測と一致する.PNSにより運動失調症を呈した患者に対して課題指向型練習は,ADLの改善に寄与すると考えられる.
【倫理的配慮,説明と同意】
本発表に際し,症例に十分な説明と同意を得た.
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