第34回大阪府理学療法学術大会

講演情報

口述 一般演題

事前公開

[O-04] 一般演題(脳卒中①)

2022年7月3日(日) 12:35 〜 13:20 会場7 (12階 1202会議室)

座長:三好 卓宏(医真会八尾総合病院)

12:55 〜 13:05

[O-04-3] 右前頭葉出血により注意障害,左半側空間無視を呈した症例に対するVR介入の試み

奥野 博史1,2, 桑原 裕也1,2 (1.医療法人えいしん会岸和田リハビリテーション病院リハビリテーションセンター, 2.医療法人えいしん会岸和田リハビリテーション病院脳卒中リハビリテーション研究所)

キーワード:回復期脳卒中、注意障害

【背景と目的】
 注意障害に対する介入として,視覚性抹消課題などの机上課題が行われることが多く,注意機能の改善が報告されている.しかし,情報量の調節に限界があり,日常生活に汎化が得られにくい欠点がある.本症例は,全般性注意障害,Unilateral Spatial Neglect(以下:USN)を認めていた.注意障害に対して視覚性抹消課題などの机上課題を実施していたが,選択性,転導性,分配性注意の改善がみられず,日常生活での注意障害を評価するBehavioral Assessment of Attentional Disturbance(以下:BAAD)は12点であった.近年では,視覚情報量の調節が可能であるVirtual Reality(以下:VR)を用いた運動療法が注目されている.本研究のVRを用いた運動療法は,座位でHead Mounted Display(以下:HMD)を装着し,両手にコントローラーを把持し,VR内に出現した目標物をリーチし消去するものである.利点として,消去時に音などのフィードバックや背景の無地化による視覚的情報量の調節,任意の場所やタイミングで目標物を出現させることができ,注意障害やUSNに対して治療効果が期待される.VRを用いた運動療法の先行研究では,注意機能,USNの改善を認めているが,回復期脳卒中患者や注意障害,左半側空間無視など複合した病態を呈した症例に対する報告は見当たらず,効果は明らかになっていない.そのため,注意障害,USNの改善を目的にVRを用いた運動療法を試みた.
【方法】
 対象は,病日69日目の右前頭葉皮下出血を呈した80歳代女性であった.介入は3週間,週3回,1回20分とし,言語療法介入中に実施した.VRはmedi VRカグラ(株式会社medi VR社製)を使用した.課題内容は,座位でHMDを装着し,VR上に出現した目標物を手に握ったコントローラーでリーチし消去するものである.難易度は,背景を無地とし,目標物を左右各0度,45度,90度にランダムに出現させ,反応が乏しい際には声かけでリーチを促した.評価は,注意能力をTrail Making Test(以下:TMT),BAADで評価し,USNはCatherine Bergego Scale(以下:CBS)で評価し前後比較した.
【結果】
 TMT-PartAは,介入前が367秒,介入後が200秒,TMT-PartBは,介入前が実施困難,介入後も実施困難であったが「か」まで実施可能となった.BAADは介入前が12点,介入後が8点となった.CBSは介入前の自己評価が1.3点,観察評価が4.2点,介入後は自己評価が1.3点,観察評価が1.3点となった.VR課題では,初回は左側0度,45度の目標物に促しが必要であったが,最終介入時は促しなく実施可能となった.
【結論】
 机上課題では選択性,転導性,分配性注意障害やUSNの改善がみられなかった症例に対しして,VRを用いた運動療法を実施し,TMT-PartA,BAAD,CBSの他者評価に改善を認めた.VRを用いた運動療法による視覚情報量の調節や目標物を対象者に応じた場所やタイミングで出現させる消去課題が注意障害,USNに効果的であったことが考えられる.