1:50 PM - 2:00 PM
[O-06-4] 歩行時の右鼠径部痛の改善に難渋した両股関節臼蓋形成不全症の診断を受けた一症例
Keywords:股関節臼蓋形成不全症、仙腸関節
【症例紹介】
56歳女性。主婦。1日40分の犬の散歩が日課。約10年前から歩行時の右鼠径部痛を自覚し増悪と寛解を繰り返す。令和3年4月、症状が増悪し当院受診、両股関節臼蓋形成不全症の診断で当日より理学療法開始となった。既往歴には腰部痛(仙腸関節周囲)を有する。
【評価とリーズニング】
初期評価では、立位姿勢は骨盤前傾・腰椎過前弯。歩行観察より前額面では右立脚中期にてDuchenne徴候、矢状面では、右立脚後期にて右股関節伸展不足と骨盤前傾・殿部後退による代償を認めた。理学療法評価では歩行時に右鼠径部痛NRS7、腸腰筋への圧痛、MMT股関節伸展4-/4・外転3+/4、ROM股関節屈曲90°にて右鼠径部痛、股関節伸展5/10、Active SLR(以下:ASLR)テストでは、右下肢挙上時に、右鼠径部痛・下肢重量感、腹横筋機能低下を認めた。これらより、骨頭被覆低下に対する骨盤過前傾の代償により、腸腰筋の過剰収縮を誘発し、鼠径部痛を生じていると考察した。
【介入と結果】
理学療法プログラムでは骨盤過前傾の改善を目的に股関節前面筋ストレッチや腹筋群・大殿筋・中殿筋筋力強化を実施した。実施直後は歩行時の鼠径部痛NRS0となるが,犬の散歩ではNRS4で症状が持続した。
そこでさらなる疼痛改善を目指し、再評価を行い、ASLRテストに着目した。初期評価では腹横筋の弱化による鼠径部痛、下肢重量感と考察したが、再評価では動作に着目し、右下肢挙上時、右寛骨の後方回旋低下を認めた。また、既往歴に右腰部痛を有していたことから、骨盤帯周囲へのさらなる評価の必要性を考え、中でも疼痛誘発動作や疼痛部位から仙腸関節の機能不全の関与が考えられた。仙腸関節疼痛誘発テストは陰性だが、荷重伝達(Stork・Gillet)テストは右で陽性、立位体幹回旋運動は右回旋で可動域制限を認め、荷重下において仙骨に対して寛骨前方回旋位であることが示唆された。さらに、それらの要因を探り、骨盤帯周囲の筋を触診すると、梨状筋に強い圧痛を認めた。そのため、治療内容には初期評価での内容に、梨状筋への介入を追加した。その結果、犬の散歩での鼠径部痛はNRS2となり改善を認めた。
【結論】
歩行時に右鼠径部痛を有する股関節臼蓋形成不全症の診断を受けた症例に対し、仙腸関節に着目し梨状筋への介入を行うことで鼠径部痛の改善を図れた。Leeは、梨状筋の過緊張は、仙骨に対する寛骨後方回旋を制限し、それに伴い大腿骨頭を前方変位させ、鼠径部痛や股関節周囲痛を生じることを述べている。
一方、鼠径部痛はNRS2で残存した。今回、仙腸関節に対しては疼痛誘発・安定性テストを実施したが、関節自体の可動性評価は行えていない。鼠径部痛のさらなる改善にはそれらの評価も有用なのかもしれない。今後は、股関節疾患においても腰椎・骨盤帯の機能も把握し、治療の優先順位を明確化し介入することが重要であると考える。
56歳女性。主婦。1日40分の犬の散歩が日課。約10年前から歩行時の右鼠径部痛を自覚し増悪と寛解を繰り返す。令和3年4月、症状が増悪し当院受診、両股関節臼蓋形成不全症の診断で当日より理学療法開始となった。既往歴には腰部痛(仙腸関節周囲)を有する。
【評価とリーズニング】
初期評価では、立位姿勢は骨盤前傾・腰椎過前弯。歩行観察より前額面では右立脚中期にてDuchenne徴候、矢状面では、右立脚後期にて右股関節伸展不足と骨盤前傾・殿部後退による代償を認めた。理学療法評価では歩行時に右鼠径部痛NRS7、腸腰筋への圧痛、MMT股関節伸展4-/4・外転3+/4、ROM股関節屈曲90°にて右鼠径部痛、股関節伸展5/10、Active SLR(以下:ASLR)テストでは、右下肢挙上時に、右鼠径部痛・下肢重量感、腹横筋機能低下を認めた。これらより、骨頭被覆低下に対する骨盤過前傾の代償により、腸腰筋の過剰収縮を誘発し、鼠径部痛を生じていると考察した。
【介入と結果】
理学療法プログラムでは骨盤過前傾の改善を目的に股関節前面筋ストレッチや腹筋群・大殿筋・中殿筋筋力強化を実施した。実施直後は歩行時の鼠径部痛NRS0となるが,犬の散歩ではNRS4で症状が持続した。
そこでさらなる疼痛改善を目指し、再評価を行い、ASLRテストに着目した。初期評価では腹横筋の弱化による鼠径部痛、下肢重量感と考察したが、再評価では動作に着目し、右下肢挙上時、右寛骨の後方回旋低下を認めた。また、既往歴に右腰部痛を有していたことから、骨盤帯周囲へのさらなる評価の必要性を考え、中でも疼痛誘発動作や疼痛部位から仙腸関節の機能不全の関与が考えられた。仙腸関節疼痛誘発テストは陰性だが、荷重伝達(Stork・Gillet)テストは右で陽性、立位体幹回旋運動は右回旋で可動域制限を認め、荷重下において仙骨に対して寛骨前方回旋位であることが示唆された。さらに、それらの要因を探り、骨盤帯周囲の筋を触診すると、梨状筋に強い圧痛を認めた。そのため、治療内容には初期評価での内容に、梨状筋への介入を追加した。その結果、犬の散歩での鼠径部痛はNRS2となり改善を認めた。
【結論】
歩行時に右鼠径部痛を有する股関節臼蓋形成不全症の診断を受けた症例に対し、仙腸関節に着目し梨状筋への介入を行うことで鼠径部痛の改善を図れた。Leeは、梨状筋の過緊張は、仙骨に対する寛骨後方回旋を制限し、それに伴い大腿骨頭を前方変位させ、鼠径部痛や股関節周囲痛を生じることを述べている。
一方、鼠径部痛はNRS2で残存した。今回、仙腸関節に対しては疼痛誘発・安定性テストを実施したが、関節自体の可動性評価は行えていない。鼠径部痛のさらなる改善にはそれらの評価も有用なのかもしれない。今後は、股関節疾患においても腰椎・骨盤帯の機能も把握し、治療の優先順位を明確化し介入することが重要であると考える。