1:40 PM - 1:50 PM
[O-06-3] 長期ギプス固定を施行した踵骨骨折症例の歩行獲得に向けた介入経験~足部アライメントに着目して~
Keywords:踵骨骨折、歩行
【症例紹介】
右踵骨骨折を受傷した90歳代女性. 6週間のギプス固定と部分荷重期を経て9週目に全荷重となった.症例は疼痛はなかったが,長期間のギプス固定と荷重により足部のアライメントに変化を認め,歩行能力が低下していた.今回,足部アライメントに着目した介入により,歩行能力の向上を認めたため報告する.
【評価とリーズニング】
受傷後9週目のROMは右足関節背屈10°,底屈50°,内返し15°,外返し5°であり,MMTは右足関節背屈3,底屈3であった.感覚障害および疼痛は認めず,足趾の運動感覚機能は良好であった.筋緊張は,安静時から右足趾屈筋群が高く,荷重時には右足関節底屈筋群の過剰な筋収縮を認めていた. Berg Balance Scale(BBS)は40点,10m歩行(10MWT)は杖歩行にて25.0秒,40歩と歩行速度が低下し,歩幅も減少していた.歩容は,右立脚中期(MSt)から立脚後期(TSt)にかけて股関節が外転外旋位となり小趾側へと荷重しfore foot rocker(FR)機能が低下していた.前方への重心移動の代償として,骨盤右回旋や体幹前傾が生じ,「踵が上がる時に痛くなりそうで怖い」と内省があった.
症例は長期ギプス固定および固定下での荷重により,踵骨の回外が助長され,立位時から足部が内反し,内側縦アーチが上昇していた.このアライメントにより,後足部から前足部への重心移動が停滞し,右TStの母趾側への荷重が不十分となったことで,足趾の伸展に伴うFR機能が破綻し,歩行能力が低下していると考えた.よって,歩行能力の向上には,前足部への適切な重心移動の改善が必要ではないかと仮説を立てた.
【介入と結果】
介入はFR機能の獲得を目的に実施した. 右TStを想定し右下肢を後方としたステップ肢位で,右踵部下に厚さ1cmの板を置き,1枚,3枚,5枚の3段階で高さの識別課題を行った. 介入内容は,板の枚数に伴いMP関節の伸展角度が増大し,前足部への荷重量が増大する課題設定とし,前足部への荷重量と重心移動の変化についてを問う課題を実施した. 9週目より40分間の介入を4日間実施した.
10週目のROMやMMTに著明な変化は認めなかった.BBSは45点,10MWTは20.7秒,33歩に向上した.歩容は母趾側への荷重が可能となりFR機能の改善を認め,歩行能力が向上し代償動作は軽減した.
【結論】
症例の歩行における前方への重心移動の停滞は,右立脚期の足部内反に伴う内側縦アーチの上昇により,小趾側優位の荷重となったことが一要因であると考えた.立脚期における足底の荷重変化の知覚が可能となったことで,前方への円滑な重心移動およびFR機能に改善を認め,歩行能力が向上した.本症例を通じて,踵骨骨折症例に対する足部アライメントに着目した立脚期への介入は,歩行能力改善の一助となることが示唆された.
右踵骨骨折を受傷した90歳代女性. 6週間のギプス固定と部分荷重期を経て9週目に全荷重となった.症例は疼痛はなかったが,長期間のギプス固定と荷重により足部のアライメントに変化を認め,歩行能力が低下していた.今回,足部アライメントに着目した介入により,歩行能力の向上を認めたため報告する.
【評価とリーズニング】
受傷後9週目のROMは右足関節背屈10°,底屈50°,内返し15°,外返し5°であり,MMTは右足関節背屈3,底屈3であった.感覚障害および疼痛は認めず,足趾の運動感覚機能は良好であった.筋緊張は,安静時から右足趾屈筋群が高く,荷重時には右足関節底屈筋群の過剰な筋収縮を認めていた. Berg Balance Scale(BBS)は40点,10m歩行(10MWT)は杖歩行にて25.0秒,40歩と歩行速度が低下し,歩幅も減少していた.歩容は,右立脚中期(MSt)から立脚後期(TSt)にかけて股関節が外転外旋位となり小趾側へと荷重しfore foot rocker(FR)機能が低下していた.前方への重心移動の代償として,骨盤右回旋や体幹前傾が生じ,「踵が上がる時に痛くなりそうで怖い」と内省があった.
症例は長期ギプス固定および固定下での荷重により,踵骨の回外が助長され,立位時から足部が内反し,内側縦アーチが上昇していた.このアライメントにより,後足部から前足部への重心移動が停滞し,右TStの母趾側への荷重が不十分となったことで,足趾の伸展に伴うFR機能が破綻し,歩行能力が低下していると考えた.よって,歩行能力の向上には,前足部への適切な重心移動の改善が必要ではないかと仮説を立てた.
【介入と結果】
介入はFR機能の獲得を目的に実施した. 右TStを想定し右下肢を後方としたステップ肢位で,右踵部下に厚さ1cmの板を置き,1枚,3枚,5枚の3段階で高さの識別課題を行った. 介入内容は,板の枚数に伴いMP関節の伸展角度が増大し,前足部への荷重量が増大する課題設定とし,前足部への荷重量と重心移動の変化についてを問う課題を実施した. 9週目より40分間の介入を4日間実施した.
10週目のROMやMMTに著明な変化は認めなかった.BBSは45点,10MWTは20.7秒,33歩に向上した.歩容は母趾側への荷重が可能となりFR機能の改善を認め,歩行能力が向上し代償動作は軽減した.
【結論】
症例の歩行における前方への重心移動の停滞は,右立脚期の足部内反に伴う内側縦アーチの上昇により,小趾側優位の荷重となったことが一要因であると考えた.立脚期における足底の荷重変化の知覚が可能となったことで,前方への円滑な重心移動およびFR機能に改善を認め,歩行能力が向上した.本症例を通じて,踵骨骨折症例に対する足部アライメントに着目した立脚期への介入は,歩行能力改善の一助となることが示唆された.