第34回大阪府理学療法学術大会

講演情報

口述 一般演題

事前公開

[O-08] 一般演題(脳卒中③)

2022年7月3日(日) 14:10 〜 15:10 会場3 (10階 1008会議室)

座長:壹岐 伸弥(川口脳神経外科リハビリクリニック)

14:50 〜 15:00

[O-08-5] 片麻痺患者の股関節周囲筋活動に着目して介入し、歩行距離の向上を認めた一症例

吉川 直輝, 松本 浩希 (地方独立行政法人市立吹田市民病院リハビリテーション科)

キーワード:脳梗塞、歩行距離

【症例紹介】X日にアテローム血栓性脳梗塞を発症し、右片麻痺を呈した50歳代男性。X+22日に当院へ転院した。X+110日まで神経筋再教育、歩行練習を中心に介入し、下肢運動麻痺は上田式12段階グレード(以下、上田式)で10、筋力が徒手筋力計(右kgf/左kgf)で膝関節伸展17.9/28.7、股関節外転20.2/26.3、10m歩行テストが1本杖で速歩16歩/8.0秒、6分間歩行テスト(以下、6MWT)が375mと自宅退院可能な状態まで改善した。本症例は復職に際し、更なる歩行距離の延長が求められた。先行研究では、片麻痺患者の歩行安定性・効率の向上には麻痺側の股関節周囲筋機能が重要とされており、股関節周囲筋に着目し介入内容を修正した。

【評価とリーズニング】股関節周囲筋の評価には、表面筋電図を用いた。測定筋は大腿筋膜張筋、中殿筋、大殿筋上部線維(以下、大殿筋)とした。測定動作は至適歩行及び横歩きとし、右下肢を支持脚とした横歩き時の右股関節内旋位、中間位、外旋位の筋活動を調査した。横歩きは簡便で、閉鎖運動連鎖かつ股関節外転筋群に介入可能で、股関節の回旋により、筋活動に変化を出せると考え実施した。至適歩行時の筋活動は、平均振幅(立脚期μV/遊脚期μV)が大腿筋膜張筋139 /298、中殿筋37/42、大殿筋113/78であった。健常者の筋波形と目視で比較すると、大殿筋の活動が踵接地時に乏しく、立脚後期には過活動となり、大腿筋膜張筋、中殿筋は遊脚期に過活動となっていた。これは歩行効率を低下させる一因と考えた。横歩きは股関節内旋位が、立脚時の中殿筋及び大殿筋の活動を促せ、遊脚時の中殿筋及び大腿筋膜張筋の活動を抑えられた。

【介入と結果】評価結果より、介入は右股関節内旋位での横歩きとし、15分/1日、3週間実施した。加えて、一般的な理学療法として膝立ち歩き、下肢筋力増強運動、歩行練習を実施した。再評価時(X+141日)、運動麻痺は上田式で10、筋力は膝関節伸展21.1/29.8、股関節外転23.1/27、10m歩行テストが速歩16歩/7.9秒、6MWTが407mであった。至適歩行時の筋活動は、大腿筋膜張筋176/158、中殿筋50/35、大殿筋92/152であった。筋波形は、大殿筋が踵接地時、遊脚終期に向上し、大腿筋膜張筋、中殿筋は遊脚時の活動が低下していた。

【結論】介入により、分離運動、筋力、歩行速度に著変なかったが股関節周囲筋の筋活動の変化と、6MWTでの向上を認めた。これは立脚時筋活動の向上と遊脚時の大腿筋膜張筋、中殿筋の活動抑制が歩行効率向上に繋がったものと考えた。股関節内旋位で横歩きを行うことで、大腿筋膜張筋の活動が抑えられ、大殿筋の活動が促通されたことが筋活動の変化に寄与したと考える。本症例を通し、発症後の期間が長い症例であっても機能変化を促せる可能性を追求する重要性を再認識できた。今回、心肺機能に対する評価はできていないため、心肺機能の変化が影響を与えていたかどうかまでは追及できない。