第34回大阪府理学療法学術大会

講演情報

口述 一般演題

事前公開

[O-17] 一般演題(運動器⑥)

2022年7月3日(日) 16:00 〜 16:45 会場4 (10階 1009会議室)

座長:川村 知史(JCHO星ヶ丘医療センター)

16:00 〜 16:10

[O-17-1] 股・膝関節を中心とした筋力増強運動によりロフストランド杖歩行を獲得した転移性仙骨腫瘍術後の1症例~残存する筋力低下の考察を踏まえて~

林 佳佑1, 佐藤 久友1, 佐浦 隆一2 (1.大阪医科薬科大学病院リハビリテーション科, 2.大阪医科薬科大学医学部 総合医学講座 リハビリテーション医学教室)

キーワード:仙骨転移、ロフストランド杖

【症例紹介】
 50代男性。腎癌の仙骨転移に対して、腫瘍摘出(矢状面はL5/S椎間板からS2前仙骨孔、前額面は仙腸関節外側から仙骨正中付近)と自家骨移植を併用した第5腰椎~両側腸骨後方固定術が行われた(第5腰髄(L5)、第1仙髄(S1)神経根は温存、傍脊柱筋は切離)。本邦ではこれまで仙骨腫瘍摘出後(仙髄神経温存)の歩行や機能改善など経過に関する報告はない。今回、術後のリハビリテーション治療を実施した症例を報告する。
【評価と解釈】
 初期評価時(術後3週)のMMTは体幹2、左股関節周囲筋1~2、膝関節以遠3(足関節背屈0)であり、仙骨神経叢と大腿神経の障害が疑われた。歩行器歩行時はオルトップ®を装用したが、立脚期には両側Trendelenburg徴候(T徴候)と左の膝折れを認め、左遊脚期では内転方向へ振り出していた。Short Physical Performance Battery(SPPB)は9点(歩行3点)であった。
 T徴候は踵接地直後に反対側骨盤の下方傾斜を抑制する傍脊柱筋や中殿筋の筋力低下、膝折れは大腿四頭筋の筋力低下、内転方向への振り出しは腸腰筋の筋力低下による内転筋群の代償動作と推察した。
【治療と結果】
 体幹筋群は術創部痛のため筋力増強運動ができなかった。そこで、立脚期の安定性改善のため、中殿筋、大腿四頭筋はOKCでの運動から始め、体幹筋群の収縮も得られるCKCでの運動へ移行した。また、振り出しの改善には、OKCでの腸腰筋収縮による股関節屈曲運動と歩行を併用して2~4METsの強度で40分、週5回の頻度で44日間の運動療法を行った。
 最終評価時(術後53日)のMMT(R/L)は股関節屈曲4/4、伸展4/4、外転4/2、外旋4/3、内旋4/3、膝関節伸展5/5、体幹屈曲5、伸展4と改善したが、左下肢には1、2趾の感覚障害などの坐骨神経障害は残存していた。また、右下肢の仙骨神経叢麻痺と廃用性筋萎縮も改善していなかった。歩容は左T徴候は認めたが、ロフストランド杖で骨盤の傾きを制御でき、膝折れと下肢の振り出しは軽減した。その結果、片側ロフストランド杖歩行が可能となり、SPPBは12点(歩行5点)となった。
【結論】
 今回、左股関節外転筋力低下は残存したが、中殿筋の補助作用を持つ股関節伸展、外旋、内旋筋力は改善した。これらの短外旋筋群や小殿筋が片脚立位の安定性に寄与するばかりでなく、手術で切離された傍脊柱筋の筋力も改善したことで、左立脚期のT徴候が軽減した。また、左坐骨神経麻痺は残存したが、腰神経叢支配の腸腰筋と大腿神経支配の大腿四頭筋は手術の影響が少なかったので、歩行時の膝折れや下肢の振り出しは経時的に改善したと考えた。
 特異性の原則を意識した筋力増強運動や装具と歩行介助機器を用いた積極的な歩行練習が、術後の機能回復に効果的であり、最終評価時のロフストランド杖歩行獲得の一助になった。術後の歩行練習は漫然と行わず、歩行の運動学や筋の代償作用を考慮して、早期から積極的に実施することが重要である。