日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

S01P

2019年9月16日(月) 17:15 〜 18:45 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

17:15 〜 18:45

[S01P-04] 差分法を用いたスカラー波のweak localizationのシミュレーション

*佐藤 雅将1、河原 純1 (1. 茨城大学大学院理工学研究科)

はじめに

地球の地殻のランダムな短波長不均質構造は地震波を散乱し、近地地震のコーダ波生成の原因となっている。多くの場合、散乱された地震波はインコヒーレントと見なされ、コーダ波エンベロープを輻射伝達理論によってエネルギー論的に記述することが一般に行われている。

一方で、波源と観測点が一致している場合、2回以上散乱して観測点に戻ってくる波に対して、同じ経路を逆向きに伝わる波が必ず存在する。この一組の波は位相が同じであり、経路の詳細にかかわらず建設的に干渉する。このような波の組は時間とともに増加し、干渉の効果は顕著化する。この現象は、光学や音響学の分野でweak localization(以下、WL)またはコヒーレント後方散乱として知られているが、地震学の分野での研究例は少ない。Margerin et al. (2001)は、点震源から放射されるスカラー波のWLを理論的に解析し、WLによる波動エネルギーの増幅が震源でちょうど2倍であること、増幅が見られる領域の直径が入射波長程度であること、増幅が始まる経過時間は散乱の平均自由時間で規定されること、これらの現象は非弾性減衰に左右されないことなどを示した。Larose et al. (2004)は、ハンマーによる地面の加振を用いた野外観測によって地震波のWL現象を初めて観測し、レイリー波散乱の平均自由行程の推定に成功した。しかし、数値波動シミュレーションに基づく地震波のWL現象の研究例は見当たらない。

そこで本研究では、2次元スカラー波の差分法シミュレーションによるWL現象の再現を試みた。また、モデルパラメータを変えることで、WL現象の現れ方がどのように変化するかを調べた。



シミュレーションの概要

本研究では、スタガード格子と速度-応力スキームを用いた差分法(Virieux, 1984)を採用し、乱数を用いてκ次フォンカルマン型ランダム媒質を作成した。媒質のパラメータのうち、スカラー波速度の平均を17.3、相対的な速度揺らぎの標準偏差を10%に固定し、揺らぎの相関距離と次数κを変化させた複数のケースを検討した。それぞれのケースについて、乱数列を変えることにより、3000通りのランダム媒質を作成した。

シミュレーションでは、それぞれの媒質の計算領域の中心部に、軸対称形のリッカー波(卓越波長約400)を初期波形として与えることで、スカラー波を等方輻射させた。波源の中心を通る直線上に観測点を等間隔に並べ、各時間ステップで観測点ごとに波の振幅を二乗した。最後に、3000通りのランダム媒質について自乗振幅値のアンサンブル平均を取った。この値を、震源から十分に遠くWLの効果が現れないと思われる観測点における値で規格化した(以下、エネルギー比率と呼ぶ)。この手法はLarose et al. (2004)による観測データの解析手順に則っている。ピーク幅やWL現象が現れる時間は今のところ目視で測定を行った。



結果と考察
図はκ = 0.5、相関距離200のケースにおける、ある一定時間経過後(直達波の影響が見られなくなる時点)のエネルギー比率を波源の中心からの距離でプロットしたものである。ここで横軸の原点は波源の中心に相当し、横軸の値が-825の観測点での値で規格化している。図では震源付近に2に近いピークが見られ、WL現象が再現できたと考えられる。ピーク幅は入力波の卓越波長の2倍弱程度で、予想より大きい。ただしピークの値と幅は経過時間とともにかなり揺らぐため、今のところ定量的な評価は十分にできていない。WLの出現時間についても、経過時間70程度からピークの出現が見られたものの、時間的な揺らぎのために精度良い推定に至っていない。他のケースについても同様な結果が得られたが、定性的には相関距離が長く次数κが大きい(短波長不均質が相対的に弱い)ほど、WLの出現時間が延びる傾向が見られた。今後の課題として、ピークの幅と出現時間の定量的な測定方法を検討し、理論的に推定される散乱の平均自由行程との比較を行う。