17:15 〜 18:45
[S01P-06] 地殻構造のランダム不均質の揺らぎの大きさと地震波振幅のばらつき ‐地震動シミュレーションによる評価‐
1.はじめに
高周波数(1 Hz以上)の地震波の振幅は,地殻構造のランダム不均質性による地震波散乱で大きくばらつく(以下,ばらつき).このばらつきは,強震動予測における予測精度に影響を及ぼすため(佐藤・翠川 2016),その特徴の定量的な評価が求められている.先行研究(Yoshimoto et al. 2015 EPS)により,スカラー波の物理モデルでは,点震源から輻射され,一様なランダム不均質媒質中を伝播する波のばらつきの大きさが,ランダム不均質の揺らぎの大きさに比例することが示されている.本研究では,この予測の妥当性を検証するために,ランダム不均質な地殻構造モデルとダブルカップル型点震源を用いた地震動シミュレーションに基づいて,P波とS波の振幅のばらつきの特徴を評価した.
2.地震動シミュレーション
3次元差分法による地震動シミュレーションでは,204.8×204.8×204.8 km3の空間領域を0.05 km間隔で離散化し,2.5 msのタイムステップで波動伝播を評価した.均質な背景構造(P波速度6.0 km/s,S波速度3.5 km/s)に一様なランダム不均質性を重畳した構造モデルを作成し,その中心部に横ずれ断層を模擬したダブルカップル型点震源を配置した.測定点は同じ深さに格子状に2 km間隔で分布させた.ランダム不均質性の表現には指数関数型モデルを採用し,Birch則を仮定した.相関距離は,1,2,および3 km,揺らぎの大きさは,0.01,0.02,0.03,0.04,および0.05に設定した.ランダム不均質モデルのシード数は5とした.
3.解析方法
計算速度波形にバンドパスフィルタ(周波数1-2,2-4,および4-8 Hz)を適用し,P波とS波の3成分合成最大振幅を測定した.測定には初動から1 sと5 sの時間窓を使用した.本研究のシミュレーション条件では,P波とS波の震源輻射係数は方位角に対して4象限型の対称性を持つので,測定値を90゚毎に重合して解析できる.このことから,9(方位角:0-10, 10-20, …, 80-90゚)×9(震源距離:10-15, 15-20, …, 50-55 km)×4(周波数:1-2,2-4,および4-8 Hz)の324区分を設定し,測定値の方位角変化・震源距離変化・周波数変化を調べた.また本解析では,地震波散乱による振幅のばらつきに着目するため、幾何減衰・散乱減衰の補正を行った.具体的には,各震源距離区分で,各測定値を震源輻射係数0.8以上を満たす3成分合成最大振幅の平均値を用いて規格化し,P波振幅およびS波振幅とした.
4.結果・議論
P波振幅とS波振幅のばらつきは一定の震源距離(相関距離,揺らぎの大きさ,および周波数で変化)までは距離とともに大きくなる.その距離変化率は高周波数ほど大きい.方位角・震源距離・周波数を固定して,ランダム不均質の揺らぎの大きさとばらつきの関係を調べると,P波とS波について,前述の一定の震源距離内において比例関係が成り立つことが確認された.この関係は,自然対数振幅のばらつきの標準偏差が0.4程度以下において見られた.以上の結果は,P波だけでなくS波についても,ランダム不均質の揺らぎの大きさを用いてばらつきの大きさを評価できる可能性を示すものである.
吉本・武村(2018 地震学会)の指摘のように,本解析の規格化処理によって,P波振幅とS波振幅はそれぞれの震源輻射係数のまわりにばらつくことが示される.ばらつきの大きさは震源輻射係数の大きさに比例する.この結果は,地震波の伝播が点震源からスポーク状であるとみなすと,ばらつきを引き起こすランダム不均質性による地震波散乱の効果は,各スポーク(波線)の周りに限定されることを示唆している.このことは,数%程度のランダム不均質性をもつ媒質について震源付近の振幅のばらつきを評価する場合,近似的には波線追跡した地震波の振幅に地震波散乱の効果を付け加えれば良いことを意味する.
謝辞
地震動シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを利用しました.本研究は,JSPS科研費18K03786の助成を受けています.
高周波数(1 Hz以上)の地震波の振幅は,地殻構造のランダム不均質性による地震波散乱で大きくばらつく(以下,ばらつき).このばらつきは,強震動予測における予測精度に影響を及ぼすため(佐藤・翠川 2016),その特徴の定量的な評価が求められている.先行研究(Yoshimoto et al. 2015 EPS)により,スカラー波の物理モデルでは,点震源から輻射され,一様なランダム不均質媒質中を伝播する波のばらつきの大きさが,ランダム不均質の揺らぎの大きさに比例することが示されている.本研究では,この予測の妥当性を検証するために,ランダム不均質な地殻構造モデルとダブルカップル型点震源を用いた地震動シミュレーションに基づいて,P波とS波の振幅のばらつきの特徴を評価した.
2.地震動シミュレーション
3次元差分法による地震動シミュレーションでは,204.8×204.8×204.8 km3の空間領域を0.05 km間隔で離散化し,2.5 msのタイムステップで波動伝播を評価した.均質な背景構造(P波速度6.0 km/s,S波速度3.5 km/s)に一様なランダム不均質性を重畳した構造モデルを作成し,その中心部に横ずれ断層を模擬したダブルカップル型点震源を配置した.測定点は同じ深さに格子状に2 km間隔で分布させた.ランダム不均質性の表現には指数関数型モデルを採用し,Birch則を仮定した.相関距離は,1,2,および3 km,揺らぎの大きさは,0.01,0.02,0.03,0.04,および0.05に設定した.ランダム不均質モデルのシード数は5とした.
3.解析方法
計算速度波形にバンドパスフィルタ(周波数1-2,2-4,および4-8 Hz)を適用し,P波とS波の3成分合成最大振幅を測定した.測定には初動から1 sと5 sの時間窓を使用した.本研究のシミュレーション条件では,P波とS波の震源輻射係数は方位角に対して4象限型の対称性を持つので,測定値を90゚毎に重合して解析できる.このことから,9(方位角:0-10, 10-20, …, 80-90゚)×9(震源距離:10-15, 15-20, …, 50-55 km)×4(周波数:1-2,2-4,および4-8 Hz)の324区分を設定し,測定値の方位角変化・震源距離変化・周波数変化を調べた.また本解析では,地震波散乱による振幅のばらつきに着目するため、幾何減衰・散乱減衰の補正を行った.具体的には,各震源距離区分で,各測定値を震源輻射係数0.8以上を満たす3成分合成最大振幅の平均値を用いて規格化し,P波振幅およびS波振幅とした.
4.結果・議論
P波振幅とS波振幅のばらつきは一定の震源距離(相関距離,揺らぎの大きさ,および周波数で変化)までは距離とともに大きくなる.その距離変化率は高周波数ほど大きい.方位角・震源距離・周波数を固定して,ランダム不均質の揺らぎの大きさとばらつきの関係を調べると,P波とS波について,前述の一定の震源距離内において比例関係が成り立つことが確認された.この関係は,自然対数振幅のばらつきの標準偏差が0.4程度以下において見られた.以上の結果は,P波だけでなくS波についても,ランダム不均質の揺らぎの大きさを用いてばらつきの大きさを評価できる可能性を示すものである.
吉本・武村(2018 地震学会)の指摘のように,本解析の規格化処理によって,P波振幅とS波振幅はそれぞれの震源輻射係数のまわりにばらつくことが示される.ばらつきの大きさは震源輻射係数の大きさに比例する.この結果は,地震波の伝播が点震源からスポーク状であるとみなすと,ばらつきを引き起こすランダム不均質性による地震波散乱の効果は,各スポーク(波線)の周りに限定されることを示唆している.このことは,数%程度のランダム不均質性をもつ媒質について震源付近の振幅のばらつきを評価する場合,近似的には波線追跡した地震波の振幅に地震波散乱の効果を付け加えれば良いことを意味する.
謝辞
地震動シミュレーションには海洋研究開発機構の地球シミュレータを利用しました.本研究は,JSPS科研費18K03786の助成を受けています.