17:15 〜 18:45
[S01P-07] 遠地地震のS波入射に対する関東堆積盆地の応答
−直達波および後続波エネルギーの空間分布−
はじめに
大規模な堆積盆地では,中規模以上の浅発地震によって周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が発達することが知られている.長周期地震動の卓越周期や振幅の地域変化の特徴は,堆積盆地構造と密接に関係しており[例えば,Yoshimoto & Takemura (2014)],大型建造物の被害推定などにおいて重要である.これまで,関東堆積盆地については,周囲で発生した浅発地震を解析対象とし,堆積盆地構造や長周期地震動の発生メカニズムに関する研究が行われてきたが,発震機構解や地殻構造モデルの不確定性の影響について検討する必要があった.そこで本研究では,遠地地震を解析対象とし,ほぼ鉛直下方から入射するS波に対する関東堆積盆地の応答に関する研究を行った.
観測波形とその特徴
関東堆積盆地から震央距離30°〜100°で発生した遠地地震を解析対象とした.この震央距離では,実体波は主にマントル内を伝播し,多くの波相が時間軸上で適度に分離して観測される.F-net およびMeSO-net で記録された2018年1月23日(JST)のアラスカ沖地震(Mw 7.9)の周期5〜50秒のS波(速度波形)に注目したところ,関東堆積盆地内ではその直後に顕著な後続波が見られた.関東堆積盆地外のF-net TSKFと同盆地内のMeSO-net観測点の波形の振幅を比較すると,同盆地内で記録されたS波および後続波の振幅のほうが有意に大きく,堆積盆地による増幅の効果が確認された.
地震動シミュレーション:手法
関東堆積盆地への遠地地震のS波入射を模擬した地震動シミュレーションを実施した.関東堆積盆地を含む375×375×250 km3の領域を0.25 kmの空間格子で離散化した.Koketsu et al. (2012)による3次元地下構造モデルを採用し,OpenSWPC[Maeda et al. (2017)]を用いて,鉛直下方から平面S波を入射させた.このとき,堆積盆地構造(堆積層)のあるモデル(モデルA)とないモデル(モデルB)2種類を使用した.
関東堆積盆地の応答の評価では,基準観測点をF-net TSKFに設定した.応答の指標値として速度振幅の2乗を時間積分した値を用いた.時間積分の範囲は,①S波の到着10秒前から60秒間(直逹波),②S波の到着50秒後から50秒間(後続波)とし,直逹波と後続波のエネルギーを求めた.これらの値について基準観測点とその他の観測点の比(以下,地震動エネルギーの増幅率)を求め,その空間変化について調べた.
地震動シミュレーション:結果
モデルAでは,堆積層の厚い(地震基盤の深い)観測点でのみS波直後に振幅の大きい後続波が確認できた.一方で,モデルBではそのような空間変化は見られず,どの観測点の計算波形もほぼ同じであった.これらの結果は,遠地地震のS波直後に見られた大振幅の後続波は,関東堆積盆地の堆積層によって励起されたことを示唆している.モデルAについて地震動エネルギーの増幅率を評価したところ,堆積層の厚さに対応し,どちらの時間窓(①と②)の増幅率も5〜20倍程度の値を示すことがわかった.このような増幅率の空間変化の特徴は,2018年1月23日のアラスカ沖地震の観測波形においても同様に確認できる.
今後の研究では,MeSO-netの稠密な観測点で記録された他の遠地地震の波形についても解析し,S波直後に見られる後続波と関東堆積盆地の構造(地震波速度構造)との関係を明らかにしたい.
謝辞
防災科学技術研究所のF-netおよびMeSO-netの地震波形記録を使用しました.地震動シミュレーションには東京大学地震研究所地震火山情報センターの計算機システムを利用しました.
大規模な堆積盆地では,中規模以上の浅発地震によって周期数秒以上のやや長周期地震動(以下,長周期地震動)が発達することが知られている.長周期地震動の卓越周期や振幅の地域変化の特徴は,堆積盆地構造と密接に関係しており[例えば,Yoshimoto & Takemura (2014)],大型建造物の被害推定などにおいて重要である.これまで,関東堆積盆地については,周囲で発生した浅発地震を解析対象とし,堆積盆地構造や長周期地震動の発生メカニズムに関する研究が行われてきたが,発震機構解や地殻構造モデルの不確定性の影響について検討する必要があった.そこで本研究では,遠地地震を解析対象とし,ほぼ鉛直下方から入射するS波に対する関東堆積盆地の応答に関する研究を行った.
観測波形とその特徴
関東堆積盆地から震央距離30°〜100°で発生した遠地地震を解析対象とした.この震央距離では,実体波は主にマントル内を伝播し,多くの波相が時間軸上で適度に分離して観測される.F-net およびMeSO-net で記録された2018年1月23日(JST)のアラスカ沖地震(Mw 7.9)の周期5〜50秒のS波(速度波形)に注目したところ,関東堆積盆地内ではその直後に顕著な後続波が見られた.関東堆積盆地外のF-net TSKFと同盆地内のMeSO-net観測点の波形の振幅を比較すると,同盆地内で記録されたS波および後続波の振幅のほうが有意に大きく,堆積盆地による増幅の効果が確認された.
地震動シミュレーション:手法
関東堆積盆地への遠地地震のS波入射を模擬した地震動シミュレーションを実施した.関東堆積盆地を含む375×375×250 km3の領域を0.25 kmの空間格子で離散化した.Koketsu et al. (2012)による3次元地下構造モデルを採用し,OpenSWPC[Maeda et al. (2017)]を用いて,鉛直下方から平面S波を入射させた.このとき,堆積盆地構造(堆積層)のあるモデル(モデルA)とないモデル(モデルB)2種類を使用した.
関東堆積盆地の応答の評価では,基準観測点をF-net TSKFに設定した.応答の指標値として速度振幅の2乗を時間積分した値を用いた.時間積分の範囲は,①S波の到着10秒前から60秒間(直逹波),②S波の到着50秒後から50秒間(後続波)とし,直逹波と後続波のエネルギーを求めた.これらの値について基準観測点とその他の観測点の比(以下,地震動エネルギーの増幅率)を求め,その空間変化について調べた.
地震動シミュレーション:結果
モデルAでは,堆積層の厚い(地震基盤の深い)観測点でのみS波直後に振幅の大きい後続波が確認できた.一方で,モデルBではそのような空間変化は見られず,どの観測点の計算波形もほぼ同じであった.これらの結果は,遠地地震のS波直後に見られた大振幅の後続波は,関東堆積盆地の堆積層によって励起されたことを示唆している.モデルAについて地震動エネルギーの増幅率を評価したところ,堆積層の厚さに対応し,どちらの時間窓(①と②)の増幅率も5〜20倍程度の値を示すことがわかった.このような増幅率の空間変化の特徴は,2018年1月23日のアラスカ沖地震の観測波形においても同様に確認できる.
今後の研究では,MeSO-netの稠密な観測点で記録された他の遠地地震の波形についても解析し,S波直後に見られる後続波と関東堆積盆地の構造(地震波速度構造)との関係を明らかにしたい.
謝辞
防災科学技術研究所のF-netおよびMeSO-netの地震波形記録を使用しました.地震動シミュレーションには東京大学地震研究所地震火山情報センターの計算機システムを利用しました.