09:30 〜 09:45
[S03-01] 地震間の測地データから示唆される千島海溝南部の火山弧と背弧の地殻の変形しやすさ
北海道東部の第四紀火山列とその周囲からなる火山弧域では,GNSS観測により地震間に短縮ひずみが集中していることが知られてきた.火山弧域における高い地殻熱流量,地震波速度構造や減衰構造からは,火山弧域の地殻が前弧や典型的な大陸地殻より変形しやすいことが期待される.千島海溝では2003年十勝沖地震(Mw 8.0)等のM8-9級プレート境界型地震が繰り返し発生してきており,地震間にはそれらの震源域が固着していることが知られてきた.したがって,観測された地震間の短縮ひずみの集中は,プレート境界の固着による圧縮力により火山弧沿いに変形が集中した結果と考えられる.そこで本研究では,地震間における地殻の力学的挙動を,変形しやすさを表すパラメタとして地殻の厚さと剛性率に着目してモデル化する.その上で,地震間のGNSSデータから,これらのパラメタの水平不均質分布を求めた.
本研究では有限要素法を用いて単純化した沈み込み帯の3次元地下構造モデルを構築した.海溝付近のマントルウェッジの一部で,弾性的に振る舞うCold Noseよりも陸側の弾性地殻の底面の深さ(25 km)と剛性率(48 GPa)が前弧から背弧まで一様である「標準モデル」を構築した.マントルウェッジと海洋マントルにはBurgers Rheologyを仮定し,そのMaxwell粘性率はそれぞれ1.0×1019 Pa s,1.0×1020 Pa sとし,Maxwell粘弾性体の剛性率は64GPaとした.地震間の地殻変動として,海溝から深さ40kmまでのプレート境界をプレート収束速度(8 cm/年)で500年間固着させた場合の粘弾性変形を計算した.標準モデルを用いた場合の計算結果を,1998年3月から2003年9月のGEONET F3解から計算した地震間の地殻変動速度と比較したところ,前弧側の観測点では計算値が観測値よりも顕著に小さかった.その一方で,背弧の観測点では変動が概ね説明された.また,深さ70kmまで完全に固着させた場合も前弧の残差は改善しなかった.このことは,地殻の底面の深さや剛性率を一様とする仮定に問題がある可能性を示唆している.そこで,スラブ上面の深さを基準にCold Noseよりも陸側の地殻を前弧域・火山弧域・背弧域に分割し,火山弧域・背弧域の地殻の底面の深さや剛性率を標準モデルから小さく設定したモデル計算を実施し,観測データと比較した.その際,それぞれのパラメタの影響を検討するために,底面の深さ(すなわち地殻の厚さ)と剛性率を別々に変化させた.火山弧域のパラメタのみを小さくした場合,背弧域の計算値が観測値より著しく小さくなった.これは,火山弧域の地殻が緩衝材のように振る舞うためと考えられる.そこで,火山弧域と背弧域の両方が変形しやすい,すなわち底面の深さや剛性率が標準モデルより小さく設定したところ,前弧から背弧までの観測データを十分説明することができた.具体的には,底面の深さか剛性率のどちらか一方を火山弧域と背弧域でそれぞれ標準モデルの10%と40%程度とした場合に観測データを説明する.しかし,どちらのパラメタを変化させた場合もモデル計算された地表変動パターンが似ていたため,地震間のGNSSデータのみからどちらのパラメタが変化しているかを区別することはできないことがわかった.そこで,各モデルの構造を用いて2003年十勝沖地震時の弾性応答を計算し,観測データと比較したところ,底面の深さを変化させたモデルや標準モデルと比べ,剛性率を変化させたモデルでは火山弧付近での計算値が観測値と整合的ではなかった.したがって,火山弧の剛性率が10%まで低いことは現実的でないと考えられる.最後に,前弧と背弧のパラメタを固定し,火山弧の地殻の剛性率と厚さを同時に変化させた.その結果,火山弧の剛性率と厚さの積が標準モデルの10%程度のとき同等のモデル計算値が得られた.パラメタ間のトレードオフを考えると,地震間と地震時のGNSSデータのみから剛性率と厚さの分布を一意に決定することは不可能であるが,例えば,火山弧の地殻の底面の深さが7.5 km(標準モデルの30%)で,剛性率が16 GPa(標準モデルの1/3 ~ 33%)であるモデルは,90%の地殻内地震が発生する深さ下限(D90)と調和的である.このモデルでは火山弧の下部地殻が地震間に粘弾性的に変形することを示しており,Hasegawa et al. (2005, Tectonophysics)による火山弧の変形モデルと調和的である.
本研究では有限要素法を用いて単純化した沈み込み帯の3次元地下構造モデルを構築した.海溝付近のマントルウェッジの一部で,弾性的に振る舞うCold Noseよりも陸側の弾性地殻の底面の深さ(25 km)と剛性率(48 GPa)が前弧から背弧まで一様である「標準モデル」を構築した.マントルウェッジと海洋マントルにはBurgers Rheologyを仮定し,そのMaxwell粘性率はそれぞれ1.0×1019 Pa s,1.0×1020 Pa sとし,Maxwell粘弾性体の剛性率は64GPaとした.地震間の地殻変動として,海溝から深さ40kmまでのプレート境界をプレート収束速度(8 cm/年)で500年間固着させた場合の粘弾性変形を計算した.標準モデルを用いた場合の計算結果を,1998年3月から2003年9月のGEONET F3解から計算した地震間の地殻変動速度と比較したところ,前弧側の観測点では計算値が観測値よりも顕著に小さかった.その一方で,背弧の観測点では変動が概ね説明された.また,深さ70kmまで完全に固着させた場合も前弧の残差は改善しなかった.このことは,地殻の底面の深さや剛性率を一様とする仮定に問題がある可能性を示唆している.そこで,スラブ上面の深さを基準にCold Noseよりも陸側の地殻を前弧域・火山弧域・背弧域に分割し,火山弧域・背弧域の地殻の底面の深さや剛性率を標準モデルから小さく設定したモデル計算を実施し,観測データと比較した.その際,それぞれのパラメタの影響を検討するために,底面の深さ(すなわち地殻の厚さ)と剛性率を別々に変化させた.火山弧域のパラメタのみを小さくした場合,背弧域の計算値が観測値より著しく小さくなった.これは,火山弧域の地殻が緩衝材のように振る舞うためと考えられる.そこで,火山弧域と背弧域の両方が変形しやすい,すなわち底面の深さや剛性率が標準モデルより小さく設定したところ,前弧から背弧までの観測データを十分説明することができた.具体的には,底面の深さか剛性率のどちらか一方を火山弧域と背弧域でそれぞれ標準モデルの10%と40%程度とした場合に観測データを説明する.しかし,どちらのパラメタを変化させた場合もモデル計算された地表変動パターンが似ていたため,地震間のGNSSデータのみからどちらのパラメタが変化しているかを区別することはできないことがわかった.そこで,各モデルの構造を用いて2003年十勝沖地震時の弾性応答を計算し,観測データと比較したところ,底面の深さを変化させたモデルや標準モデルと比べ,剛性率を変化させたモデルでは火山弧付近での計算値が観測値と整合的ではなかった.したがって,火山弧の剛性率が10%まで低いことは現実的でないと考えられる.最後に,前弧と背弧のパラメタを固定し,火山弧の地殻の剛性率と厚さを同時に変化させた.その結果,火山弧の剛性率と厚さの積が標準モデルの10%程度のとき同等のモデル計算値が得られた.パラメタ間のトレードオフを考えると,地震間と地震時のGNSSデータのみから剛性率と厚さの分布を一意に決定することは不可能であるが,例えば,火山弧の地殻の底面の深さが7.5 km(標準モデルの30%)で,剛性率が16 GPa(標準モデルの1/3 ~ 33%)であるモデルは,90%の地殻内地震が発生する深さ下限(D90)と調和的である.このモデルでは火山弧の下部地殻が地震間に粘弾性的に変形することを示しており,Hasegawa et al. (2005, Tectonophysics)による火山弧の変形モデルと調和的である.