10:45 AM - 11:00 AM
[S03-05] Direct detection of postseismic slip heterogeneity after the 2011 Tohoku Earthquake by using direct path ranging
2011年東北地方太平洋沖地震 (東北沖地震) の余効変動は,粘弾性緩和が卓越していることが,複数の研究から明らかになった.例えば,海底測地観測の一つであるGNSS-音響結合方式 (GNSS-Acoustic) では,測地観測による粘弾性緩和の直接検出に成功し,特に,地震時変動の大きかった宮城県沖で粘弾性緩和が支配的であることを明らかにした(例えば,Sun et al., 2014; Watanabe et al., 2014; Tomita et al., 2017).一方で,浅部余効すべりについては,海底測地観測網が海溝軸近傍まで及んでいないため,これまで実測ができなかった.
本研究では,海底間音響測距 (Direct Path Ranging; 以下DPR) という手法を用いて,東北沖地震の浅部余効すべりの実測を目指した.これは海底に設置した2つの音響トランスポンダ間で音波の送受信を行い,その往復時間と海中音速との積を計算することで基線長を求める手法である.海中音速は,温度,圧力,塩分を変数とする経験式で表されるが,深海においては温度と圧力の変動の影響が大きいため,これらも測距と同時に計測する.また,1脚型の機器の場合は海流によって,また3脚型の場合は堆積物中に徐々に沈み込むことによって,機器の姿勢変化が生じる.この傾斜変化の影響を,機器に搭載された傾斜計と方位計を用いて幾何的に補正する.DPRは,海底の局所的変動を精密かつ連続的に捉えることに長けている.例えば1 km程度の基線ならばミリメートルオーダーの精度で計測ができる(McGuire and Collins, 2013; Yamamoto et al., 2019).このような高精度の観測を実現するには上述の各種補正が不可欠である.
観測は,地震時すべりが卓越していた宮城県沖と,顕著な余効すべりが示唆されている福島県沖の2箇所で,それぞれ2013–2016年 (2013, 2014–2015, 2015–2016年の計3回に分けて実施) と2017–2018年に行われた.宮城県沖の海溝軸を跨ぐ基線に関して変位レートを計算したところ,いずれの観測期間中においても顕著な短縮は認められず,少なくとも本観測期間中は浅部余効すべりに起因する短縮はなかったと見られる.一方の福島県沖における観測では,27.0±5.5 mm/yrという有意な基線長の短縮が認められた.基線が海溝軸となす角度を考慮すると,31.4±6.4 mm/yrで海溝に沈み込んでいることになる.
海溝軸近傍は複数の断層が存在しており,そのどこで収束を賄っているかは不明である.我々はまず,反射法地震探査のデータから,本観測の基線がそれらを跨いでいるかを調べた.宮城県沖に関しては,海溝軸近傍の堆積層内に逆断層が認められる一方で,下部陸側斜面下の堆積層内には逆断層と解釈できる顕著な反射面が見られないことから,本DPR観測の基線が,この海域でのプレート境界断層のほぼすべてを跨いでいる可能性が高いことがわかった.従って,本観測期間中には顕著な浅部余効すべりは起きていなかったと言って良いだろう.一方の福島県沖は,海溝軸も含めて堆積層内に明瞭な反射面が見られない場所が多く,どこにプレート境界断層が出てきているかが現時点では不明である.従って,本観測がこの海域における浅部余効すべりの全てを捉えているかどうかはまだ不確定であり,もし本観測の基線が跨いでいない断層でさらなる収縮が生じていれば,実際の短縮レートは本観測で推定された値以上である可能性もある.また福島県沖では,海底地形に音響パスが阻まれて,DPR観測が行えなかった基線が多くある.そこで,DPR観測と並行して,海底局の中間に海中に漂うノードを置き,これを中継させることで音響パスを通す間接音響測距 (Indirect Path Ranging) を実施した.これを併用することで,今後,福島県沖の浅部余効すべりの解明が期待される.
本研究では,海底間音響測距 (Direct Path Ranging; 以下DPR) という手法を用いて,東北沖地震の浅部余効すべりの実測を目指した.これは海底に設置した2つの音響トランスポンダ間で音波の送受信を行い,その往復時間と海中音速との積を計算することで基線長を求める手法である.海中音速は,温度,圧力,塩分を変数とする経験式で表されるが,深海においては温度と圧力の変動の影響が大きいため,これらも測距と同時に計測する.また,1脚型の機器の場合は海流によって,また3脚型の場合は堆積物中に徐々に沈み込むことによって,機器の姿勢変化が生じる.この傾斜変化の影響を,機器に搭載された傾斜計と方位計を用いて幾何的に補正する.DPRは,海底の局所的変動を精密かつ連続的に捉えることに長けている.例えば1 km程度の基線ならばミリメートルオーダーの精度で計測ができる(McGuire and Collins, 2013; Yamamoto et al., 2019).このような高精度の観測を実現するには上述の各種補正が不可欠である.
観測は,地震時すべりが卓越していた宮城県沖と,顕著な余効すべりが示唆されている福島県沖の2箇所で,それぞれ2013–2016年 (2013, 2014–2015, 2015–2016年の計3回に分けて実施) と2017–2018年に行われた.宮城県沖の海溝軸を跨ぐ基線に関して変位レートを計算したところ,いずれの観測期間中においても顕著な短縮は認められず,少なくとも本観測期間中は浅部余効すべりに起因する短縮はなかったと見られる.一方の福島県沖における観測では,27.0±5.5 mm/yrという有意な基線長の短縮が認められた.基線が海溝軸となす角度を考慮すると,31.4±6.4 mm/yrで海溝に沈み込んでいることになる.
海溝軸近傍は複数の断層が存在しており,そのどこで収束を賄っているかは不明である.我々はまず,反射法地震探査のデータから,本観測の基線がそれらを跨いでいるかを調べた.宮城県沖に関しては,海溝軸近傍の堆積層内に逆断層が認められる一方で,下部陸側斜面下の堆積層内には逆断層と解釈できる顕著な反射面が見られないことから,本DPR観測の基線が,この海域でのプレート境界断層のほぼすべてを跨いでいる可能性が高いことがわかった.従って,本観測期間中には顕著な浅部余効すべりは起きていなかったと言って良いだろう.一方の福島県沖は,海溝軸も含めて堆積層内に明瞭な反射面が見られない場所が多く,どこにプレート境界断層が出てきているかが現時点では不明である.従って,本観測がこの海域における浅部余効すべりの全てを捉えているかどうかはまだ不確定であり,もし本観測の基線が跨いでいない断層でさらなる収縮が生じていれば,実際の短縮レートは本観測で推定された値以上である可能性もある.また福島県沖では,海底地形に音響パスが阻まれて,DPR観測が行えなかった基線が多くある.そこで,DPR観測と並行して,海底局の中間に海中に漂うノードを置き,これを中継させることで音響パスを通す間接音響測距 (Indirect Path Ranging) を実施した.これを併用することで,今後,福島県沖の浅部余効すべりの解明が期待される.