11:45 〜 12:00
[S06-08] 堆積層基盤PS変換波にもとづくS-net観測点下の堆積層厚さ分布
日本・千島海溝域に展開されたケーブル式リアルタイム海底地震観測網「日本海溝海底地震津波観測網(S-net,防災科学技術研究所)」の運用が2016年に開始され,海域で発生する巨大地震・津波の早期検知による防災面や地震活動の実態把握など科学面での発展が期待される.一方で,海底下の表層には低地震波速度の未固結堆積層が不均質な厚さで存在するため,海底地震計記録を用いた解析にはこの表層堆積層による走時遅れを適切に補正する必要がある.そこで本研究では,堆積層基盤でP波からS波に変換する波(PS変換波)とP波初動との走時差をS-net観測点において読み取ることで,日本・千島海溝域の表層堆積層厚さの空間分布を推定した.
地震波形の読み取りにあたり,傾斜面に設置されたS-net観測点のセンサーの姿勢と方位を決め地震波形記録を上下・水平動成分に分離する必要がある.ここではTakagi et al. (under review) において加速度波形の重力加速度と遠地地震表面波の振動軌跡から求めたセンサーの姿勢と方位を用い,速度波形を上下・東西・南北成分に変換した.次に,2017年1月から2018年9月までに東日本で発生した太平洋スラブ内の地震30個(Mjma = 3.9–6.2,深さ4–98 km)についてP波初動を験測し,それらの到達時刻で時間軸を揃え震央距離で並べたギャザーを観測点ごとに作成した.地震波速度が非常に遅いため堆積層中では波線は鉛直に近く、観測点直下の堆積層基盤でのPS変換波はP波と同じ見かけ速度で水平動記録にあらわれるため,観測点ギャザー上で震央距離によらず一定の走時差で振幅の増大が顕著な相を堆積層基盤変換波とみなし,それよりも早い時刻にも振幅の増大する相がある場合には候補として験測した.
S-net全150点の観測点ごとにPS-P走時差の平均値を求めた結果,太平洋プレート上では~1.1–1.7秒程度であったが,陸側斜面では~1.5–3.3秒程度と分布の幅が広く,海溝軸の内外で大局的に異なることがわかった.さらに太平洋プレート上であっても日本海溝沿いの観測点で1.3–1.5秒,千島海溝側で1.6–1.7秒,海溝会合部で約1.1秒と走時差が領域ごとに変化した.一方,陸側斜面上に注目すると,斜面下部と海岸近く(~2秒以下)に対して斜面中部(~2秒以上)では相対的に走時差が大きい.加えて,斜面中部の水深1,000~3,000mの範囲では,海底面の斜度の緩やかな日高トラフ(~2.5–3.3秒)から斜度の増加する三陸沖から房総沖に向かって1.8秒程度まで減少し,島弧沿いに大きく変化した.PS-P走時差に対して堆積層内のP波速度を2 km/s,S波速度を陸側斜面で0.6 km/s(Yamamoto et al., 2006)・海側斜面で0.25 km/s(Fujie et al., 2016)と仮定し推定した堆積層厚さ分布は人工地震探査(例えば,Tsuru et al., 2002; Fujie et al, 2016; Azuma et al., 2018)の結果と整合的である上,基盤の深くなっている場所は,日高トラフや十勝沖での発達した海盆の存在を示す低重力異常(Basset et al., 2016)ともよく対応する.したがって,本研究により堆積層の基盤の深さが太平洋プレート上と陸側斜面の上部・下部で浅く,陸側斜面中部では日高トラフと三陸沖以南とで異なる様子を捉えられたとえいる.
本研究のPS-P走時差分布は上野・他(2019)の推定値とも概ね一致するが,日高トラフや房総沖の観測点にはPS-P験測値のばらつき(±0.06–0.17秒程度)を上回って異なる傾向があり,同定した相が上野・他と異なる可能性がある.そこで,各地震の水平動2成分の波形から4つの周波数帯(1–2,2–4,4–8,8–16 Hz)でエンベロープ波形を求め重合したものを観測点ごとに作成し,本研究および上野・他による験測値と比較した.その結果,走時差の一致がよい福島沖〜三陸沖の観測点ではPS変換波の験測時刻において2–8 Hz帯域のエンベロープ振幅が顕著に増大するのに対し,不一致の大きい房総沖〜茨城沖の観測点では複数の時刻で段階的に振幅が増加,日高トラフでは全帯域で特徴的な振幅増加を持たない傾向があった.一般的に,P波からS波への変換効率は上下層間の地震波速度コントラストの大きさに依存する.すなわち,PS変換波の振幅の明瞭さが,堆積層-基盤岩間の速度コントラストや堆積層内構造の情報になりうる.したがって,変換波の明瞭さの異なる日高トラフ,三陸沖〜福島沖,房総沖とでは異なる過程で未固結堆積層が形成されたと考えられる.
地震波形の読み取りにあたり,傾斜面に設置されたS-net観測点のセンサーの姿勢と方位を決め地震波形記録を上下・水平動成分に分離する必要がある.ここではTakagi et al. (under review) において加速度波形の重力加速度と遠地地震表面波の振動軌跡から求めたセンサーの姿勢と方位を用い,速度波形を上下・東西・南北成分に変換した.次に,2017年1月から2018年9月までに東日本で発生した太平洋スラブ内の地震30個(Mjma = 3.9–6.2,深さ4–98 km)についてP波初動を験測し,それらの到達時刻で時間軸を揃え震央距離で並べたギャザーを観測点ごとに作成した.地震波速度が非常に遅いため堆積層中では波線は鉛直に近く、観測点直下の堆積層基盤でのPS変換波はP波と同じ見かけ速度で水平動記録にあらわれるため,観測点ギャザー上で震央距離によらず一定の走時差で振幅の増大が顕著な相を堆積層基盤変換波とみなし,それよりも早い時刻にも振幅の増大する相がある場合には候補として験測した.
S-net全150点の観測点ごとにPS-P走時差の平均値を求めた結果,太平洋プレート上では~1.1–1.7秒程度であったが,陸側斜面では~1.5–3.3秒程度と分布の幅が広く,海溝軸の内外で大局的に異なることがわかった.さらに太平洋プレート上であっても日本海溝沿いの観測点で1.3–1.5秒,千島海溝側で1.6–1.7秒,海溝会合部で約1.1秒と走時差が領域ごとに変化した.一方,陸側斜面上に注目すると,斜面下部と海岸近く(~2秒以下)に対して斜面中部(~2秒以上)では相対的に走時差が大きい.加えて,斜面中部の水深1,000~3,000mの範囲では,海底面の斜度の緩やかな日高トラフ(~2.5–3.3秒)から斜度の増加する三陸沖から房総沖に向かって1.8秒程度まで減少し,島弧沿いに大きく変化した.PS-P走時差に対して堆積層内のP波速度を2 km/s,S波速度を陸側斜面で0.6 km/s(Yamamoto et al., 2006)・海側斜面で0.25 km/s(Fujie et al., 2016)と仮定し推定した堆積層厚さ分布は人工地震探査(例えば,Tsuru et al., 2002; Fujie et al, 2016; Azuma et al., 2018)の結果と整合的である上,基盤の深くなっている場所は,日高トラフや十勝沖での発達した海盆の存在を示す低重力異常(Basset et al., 2016)ともよく対応する.したがって,本研究により堆積層の基盤の深さが太平洋プレート上と陸側斜面の上部・下部で浅く,陸側斜面中部では日高トラフと三陸沖以南とで異なる様子を捉えられたとえいる.
本研究のPS-P走時差分布は上野・他(2019)の推定値とも概ね一致するが,日高トラフや房総沖の観測点にはPS-P験測値のばらつき(±0.06–0.17秒程度)を上回って異なる傾向があり,同定した相が上野・他と異なる可能性がある.そこで,各地震の水平動2成分の波形から4つの周波数帯(1–2,2–4,4–8,8–16 Hz)でエンベロープ波形を求め重合したものを観測点ごとに作成し,本研究および上野・他による験測値と比較した.その結果,走時差の一致がよい福島沖〜三陸沖の観測点ではPS変換波の験測時刻において2–8 Hz帯域のエンベロープ振幅が顕著に増大するのに対し,不一致の大きい房総沖〜茨城沖の観測点では複数の時刻で段階的に振幅が増加,日高トラフでは全帯域で特徴的な振幅増加を持たない傾向があった.一般的に,P波からS波への変換効率は上下層間の地震波速度コントラストの大きさに依存する.すなわち,PS変換波の振幅の明瞭さが,堆積層-基盤岩間の速度コントラストや堆積層内構造の情報になりうる.したがって,変換波の明瞭さの異なる日高トラフ,三陸沖〜福島沖,房総沖とでは異なる過程で未固結堆積層が形成されたと考えられる.