日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

B会場

一般セッション » S06. 地殻構造

[S06]PM-2

2019年9月17日(火) 15:15 〜 17:00 B会場 (国際科学イノベーション棟シンポジウムホール)

座長:石山 達也(東京大学地震研究所)、利根川 貴志(海洋研究開発機構)、小松 正直(岡山大学大学院自然科学研究科)

15:30 〜 15:45

[S06-17] 「ちきゅう」掘削中の海底常時振動記録を用いた南海トラフ付加体の地震波速度構造モニタリング

*利根川 貴志1、木村 俊則1、白石 和也1、荒木 英一郎1、木下 正高2、真田 佳典1、三浦 誠一1、中村 恭之1、小平 秀一1 (1. 国立研究開発法人海洋研究開発機構、2. 東京大学地震研究所)

2018年10月から2019年3月にかけて、地球深部探査船「ちきゅう」によって南海トラフC0002孔の掘削が行われた(国際深海科学掘削計画(IODP)第358次研究航海)。この掘削中の海底地震計記録を用いて付加体の構造モニタリングを行うため、2018年11月から2019年5月にかけてC0002孔から半径800 m以内に6点、半径4-10 km付近に4点の海底地震計を設置し、(1)掘削中の海底常時振動の記録、(2)「ちきゅう」からのエアガン発震、(3)海底広域研究船「かいめい」からのエアガン発震の記録を取得した(Kimura et al. JpGU2019)。本研究では、これらの海底地震計の波形記録に相互相関解析を適用して反射波の抽出を試み、船舶によるエアガン記録と比較してそれらの同定を行い、さらに、同定された反射波の位相・振幅の時間変化の有無を検証する。

 海底地震計と孔内(海底下約900 m)に設置された地震計の波形(ノイズ)記録に相互相関解析を適用したところ、4–20 Hzの帯域で二種類の信号を取得できていることがわかった。一つはロータリー掘削中のドリルビットと地層のトルクによって生じる上向きに伝播するS波(ビットシグナル:ドリルビットで地層を掘削する際の連続的な振動)で、もう一つは「ちきゅう」のアジマススラスター(船舶の推進装置)や掘削機器の動作による船体振動を震源とする音波が海中を伝わりさらに海底下を下向きに伝播するP波である。これらが卓越する時間帯は、ドリルビットの回転率の情報により区別することが可能なこともわかった。本研究では、海底下から戻ってくる反射波を対象にしているため、船体振動による地震波のみを使用する。

 C0002孔を通る20 kmの測線(N30ºW)上で、「かいめい」によるエアガン発震が行われた。それらの海底地震計記録の水平動成分を見ると、P波から遅れて6秒付近に分岐断層から、8秒付近に海洋性地殻上面からのPS反射波が確認できた。「ちきゅう」の船体振動記録から得た相互相関関数と、「ちきゅう」によるエアガン発震から得た相互相関関数を比較すると、完全に一致とは言えないまでも、非常によく似たフェイズを観測することができた。

 さらに付加体の地震波速度構造の潮汐応答を調べるため、C0002孔から約3.7 km離れたDONET(Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis)観測点(KMD16)の水圧計記録を用い、その水圧の大きさで分けてスタックを行った。その結果、水圧の値(荷重)が大きいときのほうが小さいときのものに比べて、反射波の振幅が大きくなることがわかった。その一方で、走時の系統的な変化は見られなかった。このことは、海底での水圧が大きいときに海底下に存在する地震波速度不連続面の速度コントラストが上昇していることを示唆している可能性がある。


謝辞:DONETの水圧計記録を使わせていただきました。また、「ちきゅう」・「かいめい」・「よこすか」の関係者の皆様に感謝申し上げます。