日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

D会場

一般セッション » S07. 地球及び惑星の深部構造と物性

[S07]PM-2

2019年9月17日(火) 16:00 〜 17:00 D会場 (時計台国際交流ホールI)

座長:加納 靖之(東京大学地震研究所)、汐見 勝彦(防災科学技術研究所)、鶴岡 弘(東京大学地震研究所)、森重 学(海洋研究開発機構)

16:15 〜 16:30

[S07-02] オントンジャワ海台の上部マントルS波速度構造

*一瀬 建日1、末次 大輔2、塩原 肇1、杉岡 裕子3、伊藤 亜妃2、石川 晃4、川野 由貴1、吉澤 和範5、石原 靖2、田中 聡2、大林 政行2、利根川 貴志2、吉光 淳子2、小林 拓史3 (1. 東京大学地震研究所、2. 海洋研究開発機構、3. 神戸大学、4. 東京工業大学、5. 北海道大学)

オントンジャワ海台(以下OJPと略す)は地球上最大の巨大海台であり,白亜紀後期(1.2億年及び9千万年前)に現在の南太平洋の海域において激しい火山活動の結果生成された.同時期に地球が温暖化するとともに海洋無酸素事変が発生し,多くの海洋生物が絶滅するなど,地球の表層・海洋環境に大きなインパクトを与えたことが示唆されている.しかしなぜ火山活動が起きたのかどのようなメカニズムで環境に影響を与えたのかは定説はない.OJPの上部マントル構造に関してもいくつもの謎がある.OJP下のマントルに深さ300kmまで地震波低速度異常が存在し(Richardson et al., 2000),この低速度異常は化学組成の異なる硬いマントルの根である(Klosko et al., 2001)とされているが,最近の研究(Covellone et al., 2015)ではそのような低速度異常はみられてない.OJPでこのように未解明な点が多いのはOJPにおける地球物理観測が不足しているからである.我々はOJPの地下構造を明らかにするため2014-2017年にかけてOJP海域に23点の広帯域海底地震計,2点の海洋島広帯域地震観測点,20点の海底電位差磁力計を展開した(OJPアレー),本研究では広帯域地震観測記録を用いた表面波トモグラフィーによるS波速度構造の結果について報告する.
 西太平洋域の陸上及び海底広帯域地震観測点及びOJPアレーで取得された地震波形記録の表面波波形の位相速度を測定し,表面波トモグラフィー手法(Yoshizawa & Kennett, 2004)により,オントンジャワ海台と周囲の3次元上部マントルS波構造を鉛直異方性を含めて求めた.OJPアレーの海底地震計によって得られた記録は傾斜ノイズ,コンプライアンスノイズ除去手法を適用し地震波形記録の質の向上をはかった.使用した波線数は基本モードのラブ波約1500,レイリー波約4000,高次モード(4次まで)がそれぞれ250-500,1000-1500である.チェッカーボード解像度テストの結果,本研究で得られたOJP海域の最上部マントルS波速度構造の水平方向解像度は等方不均質構造で約400km,鉛直異方性構造は約700kmであった.

得られたOJPの速度構造の大まかな特徴は以下の通りである,
(1)OJP北方に東西に並んでいるカロリン諸島の下に少なくとも深さ300kmまで約2%の低速度異常がみられる.カロリン諸島はホットスポット火山列と考えられているが現在のホットスポットに近い東端のコスラエ島付近のみでなく既に主要な活動を終えているポンペイ島,チューク島に至る約800km広範囲な領域に低速度異常が存在することは興味深い.
(2)OJP中央部(直径約700km)の深さ70-150kmの領域に約2%の高速度異常が存在することがわかった.これは従来の研究とは異なる結果である.この高速度異常領域は鉛直異方性が弱く,S波速度は4.45-4.55km/s程度であり,隣接するナウル海盆のリソスフェアの特徴とよく似ている.またS波速度の鉛直方向勾配の最大値の深さ(リソスフェア底部を推定する指標)はOJP中央部は約130km,ナウル海盆は90kmである.これらの結果は,OJP中央部ではリソスフェアが周囲より約40km深部にまで達していることを示している.OJP形成時のマントル残渣物質がリソスフェアの深さ約100ー120kmに存在していることがOJPの火山岩中のゼノリスの解析から示唆されており,本研究はこの存在を地震学的に初めて示した研究である.