16:45 〜 17:00
[S07-04] マルチモード表面波による上部マントル異方的構造の推定:オーストラリア周辺域への応用
地球表層のプレート運動と地球内部のダイナミクスとの関係を明らかにする上で,地震表面波は最も有用な情報源の一つである.地震波速度の方位異方性は主に,地球内部での物質流動による結晶選択配向の影響を反映するため,現在のプレート運動との関係や,リソスフェア内に残る過去の大陸の変動過程の痕跡を調べるの役立つ.現在,大陸プレートとして最も速く移動(約7cm/年)するオーストラリア大陸は,その周辺域の活発な地震活動と,安定大陸上の地震観測点での良質な観測波形を用いることで,大陸全域をカバーする地震波線を得やすく,高解像度な表面波トモグラフィーモデルの復元に適している.
本研究では,オーストラリアプレート周辺域で発生した1990年から2007年までのマグニチュード5.0〜7.0の遠地地震の波形解析から得られた,基本及び高次モードのラブ波およびレイリー波の位相速度情報 (Yoshizawa, PEPI, 2014) を用いて,周期毎・モード毎の方位異方性空間分布を復元する.異方的な位相速度分布の復元には,Yoshizawa & Kennett (JGR, 2004) の表面波トモグラフィー法を,方位異方性媒質の場合に拡張した手法を利用する.得られた方位異方性モデルを用いて,当該地域のテクトニクスやプレート運動との関係等について検証を行う.
得られた位相速度モデルの等方成分では,大陸中央〜西部のクラトン域で高速異常が,大陸東縁〜海洋域では低速異常が見られるなど,当該地域下の大規模不均質構造の空間分布を反映したモデルが得られた.一方,方位異方性では,深さ約100kmの大陸リソスフェア内部に感度を有する周期帯において,大陸を構成する3つの主要クラトン間の境界に沿う形で,方位異方性の向きが変化することがわかった.これは,各クラトンの過去の変形過程を通じて生じた凍結異方性を反映するものと考えられる.また特に,深さ100km付近では大陸東側の海域下で,深さ200km付近では海洋・大陸域下ともに,方位異方性の高速方向とプレート絶対運動方向(Gripp & Gordon, GRL, 1990)とがほぼ一致した.これは,海洋と大陸では,リソスフェアの厚さの違いのために,流動性アセノスフェアの深さが異なることを反映している.
また,大陸中央〜西部の始生代から原生代のクラトン領域と大陸東部の顕生代の領域とを区分する大規模な構造線(Tasman Line)周辺に着目し,方位異方性の高速方向とプレート絶対運動(Absolute Plate Motion: APM)の方向との関係について精査した.その結果,Tasman Line東側の顕生代の領域において,周期約100秒以下の短周期(約150kmより浅部を反映)では大陸北部でのみ,方位異方性とAPMとの一致が見られるが,より長周期側(深部を反映)では,異方性とAPMの一致する領域が徐々に南側にも広がることがわかった.Tasman Line東側の顕生代領域のリソスフェアは,西側のクラトン域よりも薄く,流動性アセノスフェアがより浅部にまで影響することが主な原因と考えられ,特に高速移動する大陸リソスフェアの北東端付近においてこの影響が顕著であることが示唆される.また,Tasman Line付近では,等方S波速度構造が,大陸東縁部に向かってリソスフェアが階段状に薄くなることが報告されており(Fishwick et al., Tectonics, 2008),これもアセノスフェア内の物質流動に影響を与えていること考えられる.今後,本研究で得られた周波数毎の位相速度分布から,3次元的なS波方位異方性モデルを作成し,より詳細な空間分布を調べていく必要がある.
本研究では,オーストラリアプレート周辺域で発生した1990年から2007年までのマグニチュード5.0〜7.0の遠地地震の波形解析から得られた,基本及び高次モードのラブ波およびレイリー波の位相速度情報 (Yoshizawa, PEPI, 2014) を用いて,周期毎・モード毎の方位異方性空間分布を復元する.異方的な位相速度分布の復元には,Yoshizawa & Kennett (JGR, 2004) の表面波トモグラフィー法を,方位異方性媒質の場合に拡張した手法を利用する.得られた方位異方性モデルを用いて,当該地域のテクトニクスやプレート運動との関係等について検証を行う.
得られた位相速度モデルの等方成分では,大陸中央〜西部のクラトン域で高速異常が,大陸東縁〜海洋域では低速異常が見られるなど,当該地域下の大規模不均質構造の空間分布を反映したモデルが得られた.一方,方位異方性では,深さ約100kmの大陸リソスフェア内部に感度を有する周期帯において,大陸を構成する3つの主要クラトン間の境界に沿う形で,方位異方性の向きが変化することがわかった.これは,各クラトンの過去の変形過程を通じて生じた凍結異方性を反映するものと考えられる.また特に,深さ100km付近では大陸東側の海域下で,深さ200km付近では海洋・大陸域下ともに,方位異方性の高速方向とプレート絶対運動方向(Gripp & Gordon, GRL, 1990)とがほぼ一致した.これは,海洋と大陸では,リソスフェアの厚さの違いのために,流動性アセノスフェアの深さが異なることを反映している.
また,大陸中央〜西部の始生代から原生代のクラトン領域と大陸東部の顕生代の領域とを区分する大規模な構造線(Tasman Line)周辺に着目し,方位異方性の高速方向とプレート絶対運動(Absolute Plate Motion: APM)の方向との関係について精査した.その結果,Tasman Line東側の顕生代の領域において,周期約100秒以下の短周期(約150kmより浅部を反映)では大陸北部でのみ,方位異方性とAPMとの一致が見られるが,より長周期側(深部を反映)では,異方性とAPMの一致する領域が徐々に南側にも広がることがわかった.Tasman Line東側の顕生代領域のリソスフェアは,西側のクラトン域よりも薄く,流動性アセノスフェアがより浅部にまで影響することが主な原因と考えられ,特に高速移動する大陸リソスフェアの北東端付近においてこの影響が顕著であることが示唆される.また,Tasman Line付近では,等方S波速度構造が,大陸東縁部に向かってリソスフェアが階段状に薄くなることが報告されており(Fishwick et al., Tectonics, 2008),これもアセノスフェア内の物質流動に影響を与えていること考えられる.今後,本研究で得られた周波数毎の位相速度分布から,3次元的なS波方位異方性モデルを作成し,より詳細な空間分布を調べていく必要がある.