日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(2日目)

一般セッション » S07. 地球及び惑星の深部構造と物性

S07P

2019年9月17日(火) 17:00 〜 18:30 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

17:00 〜 18:30

[S07P-06] モード分離波形を用いたマルチモード表面波の位相速度分布:eikonal tomographyへの適用

*松澤 仁志1、吉澤 和範1、リン ファンチー2 (1. 北海道大学大学院理学院、2. ユタ大学)

大陸下の上部マントル3次元速度構造を復元する上で,高密度な広帯域地震観測網を用いた表面波トモグラフィーは有効な手段である.特に,高次モード表面波は,より深部の構造を決定するのに必要不可欠である.これまで我々は,「アレイ解析に基づくマルチモード表面波の位相速度計測法」(手法①)と,「線形ラドン変換を利用した表面波モード波形分離法」(手法②)の開発とその応用に取り組んできた(Matsuzawa & Yoshizawa, GJI,2019). この手法では,長さ2000km以上の直線アレイにおける波形記録から,アレイの重心地点の構造を反映したモード毎の分散曲線を推定し,さらにアレイ重心点でのモード分離波形を復元できる.

松澤・吉澤(日本地震学会2018年度秋季大会;米国地球物理学連合2018年度秋季大会)では,米国の高密度広帯域地震観測網USArrayにおける2007-2014年のイベント記録に対して手法①を応用し,北米大陸におけるマルチモード表面波位相速度分布を示した.これらのモデルはいずれも,西部で低速域,東部で高速域がみられ,北米大陸のテクトニクスを反映する典型的な速度構造が示していた.その一方で,位相速度計測値を長さ2000km以上のアレイの平均値として扱ったことなどが主な要因として,モデルの水平方向の解像度が低下し,ローカルなテクトニクス的特徴を復元することができなかった.そこで,本研究では,USArrayにおける観測波形に手法①および②を用いて収集したモード分離波形に対して,2次元アレイ解析法(eikonal tomography法,Lin et al.,GJI, 2009)を適用し,北米大陸のマルチモード表面波位相速度分布モデルの水平高解像度化を試み,新しいマルチモード表面波トモグラフィー法の可能性について議論する.

具体的には,まず2007-2014年に発生したM6.5以上の地震について,USArrayおよびGSNの地震波形記録に手法①および②を適用する.この際,震源から2000km以上離れている観測点のみを利用し,また震源—観測点の方向が表面波の放射パターンの節面付近の場合は利用しない.次に,収集したモード分離波形に対して,eikonal tomography法を適用する.eikonal tomography法は,高密度アレイでの波形記録を用いて,アレイ内を伝播していく波面を復元し,その空間勾配を取ることで,直接(逆問題を解かずに)位相速度分布を推定する手法である.主にambient noiseに用いられてきたこの手法を,イベント記録から抽出した単一モードの長周期表面波波形に応用することで,イベント毎に各モードの位相速度分布を復元する.

予備的な応用試験の結果,任意の単一イベントを用いて,北米大陸の基本モードおよび1次高次モードレイリー波の位相速度分布を復元することができた.単一イベントの情報だけでは,局所的に大きな誤差も生じ得るが,従来のモデルと同様に東西の大規模速度構造のパターンが見られるとともに,一部の地域ではローカルな速度構造変化も示されている.直線アレイ記録から分離した単一モード波形は,主にアレイ重心点付近の構造を反映すると考えられ,重心点を仮想観測点と見なした二次的な構造解析に,十分適用可能であることが示唆される.今後,大量のイベントから復元したより高精度なマルチモード表面波位相速度分布を用いて,3次元構造にインバージョンすることで,水平・鉛直の両方向で高解像度な速度構造モデルの復元が期待される.