日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

A会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08]PM-1

2019年9月17日(火) 13:30 〜 15:00 A会場 (百周年記念ホール)

座長:北 佐枝子(建築研究所)、矢部 優(産業技術総合研究所)

14:15 〜 14:30

[S08-09] 内陸における浅部低周波地震の検出とその時空間分布

*中島 淳一1、長谷川 昭2 (1. 東京工業大学理学院地球惑星科学系、2. 東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター)

内陸で発生する深部低周波地震は,卓越周波数が約2~5Hzで,一般にP波が不明瞭でS波の励起が大きいという特徴がある(鵜川・小原, 1993; Hasegawa & Yamamoto, 1994).1990年代までは,深部低周波地震は主に火山周辺で発生すると考えられてきたが,近年では大阪湾から琵琶湖にかけての領域や島根県東部など,火山から遠く離れた領域でも深部低周波地震が数多く発生していることがわかってきた.深部低周波地震の多くはモホ面近傍(深さ25–35 km)で発生していることから,地殻深部のメルトまたはメルトの固化により生じた流体の移動が深く関係していると考えられてきた.
  一方で,データが蓄積されるにつれて上部地殻でも低周波地震が発生し,深さ10–50 kmの広い深さ範囲で発生していることがわかってきた(例えば,小菅, 2016).また,2008年岩手・宮城内陸地震や2016年熊本地震の余震の中に低周波成分に富む地震があることが報告されている(例えば,防災科学技術研究所, 2008;小菅・他, 2010; 木村・鵜川, 2018).さらに,函館市周辺の活動では,低周波地震と通常の地震がほぼ同じ場所で発生していることも分かってきた(野口・他, 2018; 吉田・他, 2019).このように,低周波地震は必ずしも「深部」で発生するわけではなく,地殻浅部の発生例も多く報告されている.そこで本研究では,日本列島の内陸で発生した地震の波形解析から,気象庁が低周波地震と認定していない地震を新たに検出し,その時空間分布の特徴を明らかにしたので報告する.
  解析に使用したのは,2003年から2016年までに陸域下で発生した約920,000個の地震(M0–2.5, 深さ35 km以浅で太平洋プレートとフィリピン海プレートよりも浅い地震)であり,気象庁一元化のS波読み取り値から3秒の時間窓で速度振幅スペクトルを計算した.そのスペクトルに対して,低周波帯(Al: 2–5 Hz)と高周波帯(Ah: 10–15 Hz)の平均振幅からFI=log(Ah/Al)で定義されるFI値(Buurman & West, 2010; 小菅・春山, 2018; Hotovec-Ellis et al., 2018)を計算した.低周波成分が卓越するとFI値は負の大きな値となる.また,速度振幅スペクトルのピーク周波数(fp)を計算し,FIとfpの2つの指標で低周波地震の検出を行った.そこでは気象庁一元化震源に含まれる低周波地震のFI値とfpの分布を参考に,FI≤–0.75, fp≤5 Hzを低周波地震候補とした.選ばれた低周波地震候補は約9200個であり,そのうち約1200個は深さ15 km以浅で発生した地震である.
  深さ15 km以浅で発生している低周波地震候補の多くはM6.5以上の内陸地震の余震の中に多く含まれ,本震発生直後に集中して発生しているという特徴がある.この結果は,2016年熊本地震などで報告されているように,余震活動の中に多くの低周波地震が含まれることを示している.また,日高地方と北海道北部においては比較的広い範囲で低周波地震が発生している領域があることも明らかになった.これらの結果は,低周波地震は必ずしも「深部」で発生するわけではなく,上部地殻においても少なからず発生していることを示している.火山地域ではない地殻浅部でも低周波地震が発生しているという事実は,低周波地震の発生にはマグマやメルトの存在や脆性破壊領域よりも高温の条件などは必須ではないことを示唆している.今後は低周波地震候補とされた地震の波形を精査し,誤検出を減らすとともに,内陸地震(本震)と低周波地震発生の時空間関係を定量化するなど,低周波地震の発生条件を明らかにしていく予定である.

謝辞:本解析には気象庁一元化震源及びその読み取り値を使用いたしました.感謝いたします.