日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

B会場

一般セッション » S08. 地震発生の物理

[S08]AM-1

2019年9月18日(水) 09:15 〜 10:30 B会場 (国際科学イノベーション棟シンポジウムホール)

座長:山田 卓司(茨城大学)、吉光 奈奈(東京大学)

09:15 〜 09:30

[S08-18] 放射パターンを考慮した経験的グリーン関数を用いた震源過程解析

*柴田 律也1、及川 元己1、麻生 尚文1、中島 淳一1、井出 哲2 (1. 東京工業大学理学院地球惑星科学系、2. 東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

震源過程を解析する手法として波形インバージョンが広く用いられている。この波形インバージョンは、グリーン関数と滑り量を時空間でコンボリューションして生成される理論波形で観測波形を再現するアプローチであり、その波形残差を最小にするような各小断層の時間ステップごとの滑り量を最小二乗的に求めるのが一般的である。このとき、グリーン関数として、仮定した速度構造から理論的に求められるグリーン関数 (例えばBouchon, 1981; 武尾, 1985) を用いる場合と、近傍で発生した同様のメカニズムの地震波形を経験的グリーン関数 (例えばHartzell, 1978) として用いる場合がある。経験的グリーン関数は、実際の複雑な速度構造の影響を説明できる一方で、両者の震源が十分に近いことやメカニズムの類似性が要求されるため、解析対象とする地震の震源近傍に本震と似たメカニズムの地震が存在しなければ適用できないという欠点がある。

 しかしながら、地震波形の複雑性に大きく寄与する観測点近傍の経路がほぼ共通であれば、震源位置やメカニズムが多少異なる地震の波形でも、放射パターンの影響を補正した上でグリーン関数として用いることができる可能性がある。そのような補正が実用的であれば、経験的グリーン関数の適用範囲を広げることが期待される。そこで本研究では、放射パターンを考慮した経験的グリーン関数を用いた波形インバージョン手法を開発し、理論波形を用いてテストを行った。

 具体的には、波線理論を仮定して、射出角とモーメントテンソルの情報から、対象とする地震の小断層での滑りと経験的グリーン関数に用いる地震について理論的な放射パターン(Aki and Richards, 2002)を計算し、その比を用いてP波・SH波・SV波のそれぞれについて観測点毎に補正をおこなった。放射パターンには、メカニズムが異なることによる直接的な影響と、震源位置が異なることによるみかけ上の影響があるので、一番単純なケースとして、震源位置が同じでメカニズムが異なる点震源同士、メカニズムが同一で震源位置が異なる点震源同士について、本手法による補正の効果を確認した。後者の例として、北緯40度・東経141度で深さ50kmと200kmで発生し、北緯41度・東経141.5度の地表で観測される理論地震波形を、それぞれ赤色・青色で図に示す。なお、メカニズムは走向0度・傾斜90度の左横ずれ断層を仮定している。本研究で提案した補正により、振幅が正しく評価できていることが確認できる。今後、矩形断層でのテストを行ったうえで、実データへの適用を目指す。