11:30 〜 11:45
[S08-26] 弾性歪エネルギーに基づく地震破壊規準による余震の評価
最近,社会のあらゆる分野において,機械学習や深層学習(Deep Learning, DL)を取り入れた人工知能技術が活躍の幅を広げている.地震学の分野では,DLにより世界中で発生した多数の本震―余震活動のペアをトレーニングデータとした余震分布の推定が行われ,その推定能力は古典的なクーロン破壊応力変化(ΔCFS)よりも高精度であるという衝撃的な結果が報告された(DeVries et al., 2018).さらに,余震の発生は, ΔCFSよりも地震時の偏差応力変化の最大剪断応力(Δτmax)や2次不変量(ΔJ2)に支配されているという物理的な解釈が示された.これらの物理量を理論的に分析すると,ΔτmaxとΔJ2は共に地震時偏差応力テンソルから計算される剪断歪エネルギーと結びつき,これは剪断歪エネルギーがゼロである等方応力状態から地震によって引き起こされた剪断歪エネルギー変化(増加)に相当する.したがって,DLによる余震分布の推定結果は本震の発生によって剪断歪エネルギーが至る所で増加することを意味し,地震の発生原理に矛盾する.その背景には,地震は絶対応力を反映して発生するにも拘らず,トレーニングデータが地震による応力変化に関する量に限られていたという根本的な問題がある.
本研究では,絶対応力場を考慮して余震の発生を理解するために,弾性歪エネルギー E =Es(剪断歪エネルギー)+ Ev(体積ひずみエネルギー)に基づく新しい地震破壊規準(Energetics-based Failure Stress, EFS)を提案する(Terakawa, Matsu'ura & Noda, in prep.):
EFS= sqrt(2GEs)- μ{sqrt(2κEv)-Pf} (1)
ここでG,κ,μ,Pf は剛性率,体積弾性率,岩石の摩擦係数,間隙流体圧を表す.本式の第一項は偏差応力の2次不変量J2の平方根と一致し,剪断応力のスカラー計量である.第二項の sqrt(2κEv) は応力の1次不変量I1の1/3(平均垂直応力)であり,第二項全体は断層強度に相当する.つまり,本震によるEs及びEvの増減は,それぞれ剪断応力及び断層強度の増減を意味し,絶対偏差応力場及び絶対等方応力場を反映する(Matsu'ura, Noda & Terakawa, under review).従って,式(1)で定義されるEFSの本震前後の変化(ΔEFS )が正ならば余震を促し,負ならば余震を抑制すると考えることは合理的である.EFSの特長は,剪断応力と断層強度を不変量であるエネルギーを用いて記述した点にある.このため,従来のΔCFSのように特定の面を対象とすることなく,3次元応力空間内の任意の点で地震破壊を評価することが可能となる.
ΔEFS の余震発生推定能力を調べるために,1992年ランダース地震に続く1年間の余震データ12673個に対して,震源周辺域の現実的な絶対応力場(Terakawa & Hauksson, 2018)を設定して ΔEFS を計算し,ROC(Receiver Operating Characteristic)解析を実施した.まず,理論から予想される通り,ΔEs及びΔEvは余震の発生に正及び負の相関があること,双方の影響を取り入れたΔEFS はΔEsの推定能力を上回ることが確認された.次に,地震前の偏差応力レベルを現実的な値よりも低くすると,AUC値と真陽性率(正しく余震発生を推定した割合)が上昇するが,同時に偽陽性率(余震発生と推定したが実際にはない割合)も上昇することがわかった.これは,地震前の偏差応力が低いと,地震後にEsの増加する領域が本震断層近傍で顕著に増え,その結果ΔEFS を過大評価してしまうことに原因がある.一方,本震前後の間隙流体圧場の変化を評価し(Terakawa et al., 2010),ΔEFS の計算に取り入れてROC解析を実施すると,AUC値と真陽性率は上昇し,偽陽性率は低下した.これらの結果は,本震断層近傍の応力変化では説明できない多数の余震の発生には,間隙流体圧の上昇が重要な役割を果たした可能性があることを示している.
また, ΔτmaxとΔEFSのROC解析の結果を比較したところ,真陽性率も偽陽性率もΔτmaxの方がΔEFSより高かった.Δτmax は,地震前の絶対応力場を等方的(偏差応力ゼロ),地震による応力変化を純粋剪断であるとした場合のΔEFSの特殊ケースである.つまり,DLによる余震分布の推定では,暗に,地震前の偏差応力の絶対レベルを非現実的に低く(ゼロ)仮定していたことになり,これが見かけの余震推定的中率を上げるものの,同時に余震の発生を過大評価する結果を招いたことがわかった.
本研究では,絶対応力場を考慮して余震の発生を理解するために,弾性歪エネルギー E =Es(剪断歪エネルギー)+ Ev(体積ひずみエネルギー)に基づく新しい地震破壊規準(Energetics-based Failure Stress, EFS)を提案する(Terakawa, Matsu'ura & Noda, in prep.):
EFS= sqrt(2GEs)- μ{sqrt(2κEv)-Pf} (1)
ここでG,κ,μ,Pf は剛性率,体積弾性率,岩石の摩擦係数,間隙流体圧を表す.本式の第一項は偏差応力の2次不変量J2の平方根と一致し,剪断応力のスカラー計量である.第二項の sqrt(2κEv) は応力の1次不変量I1の1/3(平均垂直応力)であり,第二項全体は断層強度に相当する.つまり,本震によるEs及びEvの増減は,それぞれ剪断応力及び断層強度の増減を意味し,絶対偏差応力場及び絶対等方応力場を反映する(Matsu'ura, Noda & Terakawa, under review).従って,式(1)で定義されるEFSの本震前後の変化(ΔEFS )が正ならば余震を促し,負ならば余震を抑制すると考えることは合理的である.EFSの特長は,剪断応力と断層強度を不変量であるエネルギーを用いて記述した点にある.このため,従来のΔCFSのように特定の面を対象とすることなく,3次元応力空間内の任意の点で地震破壊を評価することが可能となる.
ΔEFS の余震発生推定能力を調べるために,1992年ランダース地震に続く1年間の余震データ12673個に対して,震源周辺域の現実的な絶対応力場(Terakawa & Hauksson, 2018)を設定して ΔEFS を計算し,ROC(Receiver Operating Characteristic)解析を実施した.まず,理論から予想される通り,ΔEs及びΔEvは余震の発生に正及び負の相関があること,双方の影響を取り入れたΔEFS はΔEsの推定能力を上回ることが確認された.次に,地震前の偏差応力レベルを現実的な値よりも低くすると,AUC値と真陽性率(正しく余震発生を推定した割合)が上昇するが,同時に偽陽性率(余震発生と推定したが実際にはない割合)も上昇することがわかった.これは,地震前の偏差応力が低いと,地震後にEsの増加する領域が本震断層近傍で顕著に増え,その結果ΔEFS を過大評価してしまうことに原因がある.一方,本震前後の間隙流体圧場の変化を評価し(Terakawa et al., 2010),ΔEFS の計算に取り入れてROC解析を実施すると,AUC値と真陽性率は上昇し,偽陽性率は低下した.これらの結果は,本震断層近傍の応力変化では説明できない多数の余震の発生には,間隙流体圧の上昇が重要な役割を果たした可能性があることを示している.
また, ΔτmaxとΔEFSのROC解析の結果を比較したところ,真陽性率も偽陽性率もΔτmaxの方がΔEFSより高かった.Δτmax は,地震前の絶対応力場を等方的(偏差応力ゼロ),地震による応力変化を純粋剪断であるとした場合のΔEFSの特殊ケースである.つまり,DLによる余震分布の推定では,暗に,地震前の偏差応力の絶対レベルを非現実的に低く(ゼロ)仮定していたことになり,これが見かけの余震推定的中率を上げるものの,同時に余震の発生を過大評価する結果を招いたことがわかった.