13:00 〜 14:30
[S08P-05] スラブ内地震クラスターの発生メカニズム
1. はじめに
東北日本弧に沈み込む太平洋スラブ内では, 深さ60~180 kmにおいて二重深発地震面が形成されている. この二重深発地震面の応力場は, 上面が圧縮場で下面が伸張場である. 二重深発地震面上面に位置する沈み込むスラブ地殻内では, 含水鉱物の相転移(浅い側(深さ80 km~130 km):jadeite lawsonite blueschist→lawsonite amphibole eclogite, 深い側(深さ110~150 km): lawsonite amphibole eclogite→eclogite)により体積減少が生じることが期待される. この体積減少により, 二重深発地震面上面においても局所的に伸張場が形成されることが示唆されている[Igarashi et al. (2001); Kita et al. (2006)]. Nakajima et al. (2013)では深さ150 kmで密集して発生する地震クラスターを解析し, 逆断層地震の約1 km浅部で正断層地震が発生することから, 深い側の相転移で生じる体積減少による伸張場の形成がこの地震クラスターの発生に関係しているというモデルを提案した. 本研究では, 浅い側の相転移境界付近で発生する地震クラスターの高精度震源決定およびメカニズム解の推定により, 詳細な起震応力場に関する知見を得ることを目的とする.
2. 解析手法
2004年から2017年に東北日本弧下の二重深発地震面上面で発生したM1.0以上の地震に対してDouble-Difference hypocenter location method [Waldhauser and Ellsworth (2000)](以下DD法と表記)を用いた震源再決定を行い正確な震源位置を求め, その震源分布の数密度を計算することで地震クラスターの検出を行なった. その結果, 深さ~110 kmと~150 kmのプレート境界等深線に沿って地震クラスターが点在していることがわかった. 続いて, 検知できた各地震クラスターについて地震波形のクロススペクトル解析を用いて, 地震ペアの正確な相対走時差を求め, この相対走時差を用いたDD法により震源を高精度で決定した. さらに, P波初動極性を読み取り, 地震クラスターのメカニズム解を決定するとともに, 地震波形に対して相関係数を用いることで, グルーピングを行なった.
3. 結果・議論
東北日本弧の深さ110 kmおよび150km付近のスラブ地殻内の地震クラスターでは, 逆断層型の地震群の浅部に正断層型の地震群が非常に近接して(~100 m)発生することが明らかになった. このような100 mスケールでの起震応力場の変化はプレートのアンベンディングに起因する広域の圧縮応力だけでは説明できないため, 局所的な応力変化を生じさせる別の要因があると考えられる. その一つの解釈として, Nakajima et al. (2013)で示唆された相転移による体積減少が挙げられる. つまり, 地震クラスターの間に相転移のreaction frontが位置し, 浅い側では体積減少により伸長場が, 深い側ではアンベンディングによる広域応力場(圧縮場)で地震が発生していると考えると観測されたメカニズム解の特徴を説明できる. しかし, この要因のみで地震が発生するのであれば, プレート境界等深線に沿って帯状に密集して地震が発生するはずなので, クラスターの生成には, 他の要因も寄与していると考えられる. 本発表では, 深さ150kmでは, Nakajima et al. (2013)で解析されたものに他領域の解析結果を加え, 深さ110kmでは, 本研究の複数のクラスターの解析結果を統合して, その発生要因についても議論する.
謝辞 : 解析には気象庁一元化の読み取り値を使用しました. 解析に用いた波形の一部は, 東北大地震・噴火予知研究観測センターで収録されたものを使用しました. 記して感謝いたします.
東北日本弧に沈み込む太平洋スラブ内では, 深さ60~180 kmにおいて二重深発地震面が形成されている. この二重深発地震面の応力場は, 上面が圧縮場で下面が伸張場である. 二重深発地震面上面に位置する沈み込むスラブ地殻内では, 含水鉱物の相転移(浅い側(深さ80 km~130 km):jadeite lawsonite blueschist→lawsonite amphibole eclogite, 深い側(深さ110~150 km): lawsonite amphibole eclogite→eclogite)により体積減少が生じることが期待される. この体積減少により, 二重深発地震面上面においても局所的に伸張場が形成されることが示唆されている[Igarashi et al. (2001); Kita et al. (2006)]. Nakajima et al. (2013)では深さ150 kmで密集して発生する地震クラスターを解析し, 逆断層地震の約1 km浅部で正断層地震が発生することから, 深い側の相転移で生じる体積減少による伸張場の形成がこの地震クラスターの発生に関係しているというモデルを提案した. 本研究では, 浅い側の相転移境界付近で発生する地震クラスターの高精度震源決定およびメカニズム解の推定により, 詳細な起震応力場に関する知見を得ることを目的とする.
2. 解析手法
2004年から2017年に東北日本弧下の二重深発地震面上面で発生したM1.0以上の地震に対してDouble-Difference hypocenter location method [Waldhauser and Ellsworth (2000)](以下DD法と表記)を用いた震源再決定を行い正確な震源位置を求め, その震源分布の数密度を計算することで地震クラスターの検出を行なった. その結果, 深さ~110 kmと~150 kmのプレート境界等深線に沿って地震クラスターが点在していることがわかった. 続いて, 検知できた各地震クラスターについて地震波形のクロススペクトル解析を用いて, 地震ペアの正確な相対走時差を求め, この相対走時差を用いたDD法により震源を高精度で決定した. さらに, P波初動極性を読み取り, 地震クラスターのメカニズム解を決定するとともに, 地震波形に対して相関係数を用いることで, グルーピングを行なった.
3. 結果・議論
東北日本弧の深さ110 kmおよび150km付近のスラブ地殻内の地震クラスターでは, 逆断層型の地震群の浅部に正断層型の地震群が非常に近接して(~100 m)発生することが明らかになった. このような100 mスケールでの起震応力場の変化はプレートのアンベンディングに起因する広域の圧縮応力だけでは説明できないため, 局所的な応力変化を生じさせる別の要因があると考えられる. その一つの解釈として, Nakajima et al. (2013)で示唆された相転移による体積減少が挙げられる. つまり, 地震クラスターの間に相転移のreaction frontが位置し, 浅い側では体積減少により伸長場が, 深い側ではアンベンディングによる広域応力場(圧縮場)で地震が発生していると考えると観測されたメカニズム解の特徴を説明できる. しかし, この要因のみで地震が発生するのであれば, プレート境界等深線に沿って帯状に密集して地震が発生するはずなので, クラスターの生成には, 他の要因も寄与していると考えられる. 本発表では, 深さ150kmでは, Nakajima et al. (2013)で解析されたものに他領域の解析結果を加え, 深さ110kmでは, 本研究の複数のクラスターの解析結果を統合して, その発生要因についても議論する.
謝辞 : 解析には気象庁一元化の読み取り値を使用しました. 解析に用いた波形の一部は, 東北大地震・噴火予知研究観測センターで収録されたものを使用しました. 記して感謝いたします.