日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(3日目)

一般セッション » S08. 地震発生の物理

S08P

2019年9月18日(水) 13:00 〜 14:30 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

13:00 〜 14:30

[S08P-07] 短期的スロースリップイベント発生源モデルの再考:
歪の空間分布による非断層すべり成分の検出可能性

*光井 能麻1、浅井 康広1、板場 智史2 (1. 東濃地震科学研究所、2. 産業技術総合研究所)

沈み込み帯で検出される各種スロー地震は、いずれも、通常の地震と同様に地殻中の断層運動としてモデル化されている。しかし、これらがスローかつ非定常な現象となる物理的メカニズムは不明である。
 この問題について光井・伊藤(2019)は、長期的スロースリップイベント(LSSE)に着目し、発生源で生じる変形について次のように再考した。LSSEを含む深部スロー地震発生域は、断層の破壊強度の知見から、温度-圧力条件の深さ依存に伴う脆性-延性遷移域で発生すると示唆されている。この脆性破壊から延性破壊(延性流動)への遷移に伴い、プレート境界岩における塑性変形の増加が予想され、その変形モードは平面で生じる断層すべりと異なり、体積的な変形モードとして生じ得る。この体積的な変形が断層すべりと異なる変形として顕著に現れる場合、その変形成分は断層すべり面に対して法線方向の成分になると予想される。この予想に基づき、GNSSデータを用いて2001年東海SSEの震源モデルを推定したところ、断層すべりに加えて法線方向への伸張が存在する結果を得た。また、断層面に対して断層すべりの方向(東海SSEの場合は南東方向)に位置する観測点では法線方向への伸張の有無による変位の差は見られなかった一方、逆方向(北西方向)の観測点では上下成分を主として顕著な差がみられた。

 もし、上記研究で示唆された非断層すべり成分が深部スロー地震発生源に共通する変形成分として存在するならば、短期的スロースリップイベント(S-SSE)発生源においても存在しうる。S-SSEの継続期間は数日から一週間程度であるため(Obara & Kato, 2016)、従来同様、歪計や傾斜計のデータによる検証が望ましい。
 東海地域における深部S-SSEはこれまでに多数報告されている(例えば産総研・防災科研, 2018)。これらの震源モデル推定に使用された観測点は、いずれも断層面に対して沿岸側(断層すべりの方向)に位置する。したがって、上記LSSEと同様に、S-SSE発生源における非断層すべり成分の検出を行うには、断層面に対して内陸側の観測点を併用する必要がある。東濃地震科学研究所所有の地殻活動総合観測点はS-SSE発生源の内陸側(岐阜県瑞浪市・土岐市)に位置し、S-SSE発生に伴う歪の変化が観測されている。そのため、これらの歪計データを併用してS-SSEの震源モデルを推定することで、非断層すべり成分の有無を議論できる。
 観測データを用いた震源モデル推定を行う前の予備計算として、過去のS-SSEで推定された断層モデルに法線方向の変位を加えた場合に各観測点で生じる水平歪の変化を計算し、断層すべり成分のみの場合の計算結果と比較した。例として2017年11月26-27日に発生したS-SSEについて、震源モデルの変位成分(断層すべり成分:法線方向への伸張)を1.0:0.0(産総研・防災科研, 2018), 0.9:0.1, 0.8:0.2の3通り与えた。その結果、断層面に対して内陸側に位置する東濃地震科学研究所所有の観測点は、法線方向への伸張成分が増加するにつれて主歪の方向が時計回りに回転する等の顕著な違いが見られた。一方、断層面に対して沿岸側に位置する観測点では主歪の方向に顕著な差は見られなかったものの、歪の変化量に差が見受けられた。これらの予備結果から、内陸側の観測データを併用した震源モデル推定を行うことで、S-SSE発生源の変形機構がより適切に理解される可能性が示唆される。

[参考文献]
光井・伊藤(2019)日本地球惑星科学連合2019年大会予稿集、SSS16-P18.
Obara & Kato (2016) Science, 353 (6296), 253-257.
産総研・防災科研(2018)地震予知連絡会会報、第100巻、165-182.