日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(3日目)

一般セッション » S08. 地震発生の物理

S08P

2019年9月18日(水) 13:00 〜 14:30 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

13:00 〜 14:30

[S08P-17] 大型岩石摩擦実験で再現されたCascade-upプロセス

*山下 太1、福山 英一2,1、徐 世慶1 (1. 防災科学技術研究所、2. 京都大学大学院工学研究科)

地震がどのように始まるかについてはこれまで数多くの議論があり,二つの代表的なモデルが提案されている(Ellsworth and Beroza, 1995, Science).一つはPreslipモデルであり,断層面上のある場所から非地震性すべりが始まり,そのすべり域が加速度的に拡大して断層面全体が不安定にすべるとされるものである.もう一つはCascadeモデルであり,断層面上で自発的に発生した小さな地震にともなう応力変化によって,直接/間接的に新たな地震が次々と引き起こされ,最終的に本震に至るというものである.防災科学技術研究所では,このような地震発生のメカニズム解明を目的とした大型岩石摩擦実験を実施しており,初期断層面の状態を変えることで上記の二つのモデルをそれぞれ再現することに成功している(Yamashita et al., 2017, AGU fall meeting).本講演では特に,本震に至る前のCascade-upプロセスに注目して発表をおこなう.実験に用いた試料は変はんれい岩であり,模擬断層面は長さ1.5 m,幅0.1 mである.断層面に6.7 MPaの垂直応力を加えた後,せん断荷重を加えるとスティックスリップイベントが繰り返し発生した.その際の摩擦すべりによって断層面上に条線と摩耗物が生成され,実験を重ねる毎に断層面が粗くなっていった.これまでの実験により,摩耗物を取り除いて実験をおこなうと各スティックスリップイベント(本震)前にpreslipとそのすべり域の拡大が発生する一方で,大量の摩耗物を不均質に分布させた状態で実験を始めた場合は極微小地震(前震)が加速度的に増加し本震に至る,いわゆるCascade-upが発生することが分かっている.前震の観測は64個のピエゾ素子アレイによっておこない,それぞれのイベントの震源を決定するとともに,モーメントマグニチュード(Mw)を推定した.Mwの推定にはMcLaskey et al. (2015, BSSA)により提案されたボールドロップによるキャリブレーション法を採用し,前震のMwの範囲はおよそ-7.0から-4.5と推定された.また,Bruneのモデルを適用すると応力降下量は0.1 MPaから10 MPaと推定され,他の室内実験と同様,自然地震と同じスケーリング則に従うことが明らかとなった(例えばMcLaskey et al., 2014, PAGEOPH; Yoshimitsu et al., 2014, GRL).各スティックスリップイベントのサイクルにおいて本震に近づくにつれ前震の数が増加していき,また相対的に大きなイベントが増加していることがb値の減少により示された.本震の発生に向けたb値の減少は他の室内実験でも示されており(例えばGoebel et al., 2014, GRL; Rivière et al., 2018, EPSL),その理由として,b値が差応力に対して負の相関を持つ(Scholz, 1968, BSSA)ことから,載荷しているせん断応力の増加に対してb値が減少しているためと解釈されている.しかしながら本実験では,模擬断層に加えている巨視的なせん断荷重が最大値に達し一定となった後もb値が減少し続けており,単に載荷応力との関係性からではb値の減少の理由が説明できないことが示されている.そこで模擬断層の相対変位を調べたところ,断層は完全に固着しておらずゆっくりとすべり続けており,さらに本震に向けてそのすべりが加速していることが明らかとなった.また,巨視的なせん断荷重が最大値に達した後も断層はすべり続けていることから,Cascade-upの最終プロセスにおいては前震の発生による断層面上の応力の再配分が自発的に促進され,外部からの応力増加がなくても前震の規模が成長しすべりが加速して本震に至っていることが示された.今後,これらのデータを再現可能な定量モデルを構築する予定である.