日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

B会場

一般セッション » S09. 地震活動とその物理

[S09]AM-1

2019年9月17日(火) 09:15 〜 09:45 B会場 (国際科学イノベーション棟シンポジウムホール)

座長:東 龍介(東北大学大学院理学研究科)、新井 隆太(海洋研究開発機構)

09:30 〜 09:45

[S09-20] 房総半島下の正断層地震の発生メカニズム

*橋間 昭徳1、佐藤 比呂志1、佐藤 利典2 (1. 東京大学地震研究所、2. 千葉大学大学院理学研究院)

1. はじめに
2019年5月25日、房総半島下でMw 4.9の地震が発生し、関東地方の広域にわたり揺れが感じられ、最大震度は千葉県で震度5弱であった。この地震は防災科学技術研究所のHi-netメカニズム解カタログによれば、深さ26 kmで発生した正断層型の地震であった。したがって、この地震はプレート境界地震ではなく、上盤プレートと太平洋プレートにはさまれたフィリピン海スラブで起きたプレート内地震であると考えられる。付近では6月1日にも同様のメカニズムを示すMw4.6の地震が発生した。
プレート内部の地震は、数千年以上の長期にわたるプレート境界のすべり運動により、その周囲に蓄積された応力を解放するように起こると考えられる。したがって、これらの地震の発生メカニズムを定量的に明らかにするためには、プレート内部の応力蓄積過程をモデル化する必要がある。
著者らは、これまでの研究において、関東盆地周囲の地質学・変動地形学データに基づき、太平洋プレートとフィリピン海プレートの定常沈み込み運動と伊豆半島の衝突の効果による長時間スケールの変動をモデル化した[1]。本発表では、この関東盆地の長時間変動モデルについて述べ、このモデルを用いて房総半島下に形成される内部蓄積応力場を計算し、地震活動との関連を議論する。

2. 関東盆地の長時間変動モデル
本研究で用いるモデルでは、Matsu’ura & Sato (1989)の定常的プレート沈み込みモデル[2] にもとづき、プレート境界面における定常すべり運動によってフィリピン海と太平洋プレートの沈み込み運動を表現した。また、伊豆小笠原弧の衝突はすべり速度欠損を与える(定常的固着)ことによりモデル化した。一方、地質学・変動地形学的手法によって見積もられた過去100万年の上下変動データによると、はじめ関東盆地のほぼ全域で沈降運動が起こっていたが、沈降域は徐々に狭まり、最終間氷期(12.5万年前)以降は全域での隆起運動へと転じている。同時期には、フィリピン海プレートの運動方向が北北西から北西方向へ変化したことが指摘されている[3, 4]。そこで、本モデルを用い、フィリピン海プレートの運動方向変化による伊豆小笠原弧衝突の効果の時間変化を計算し、関東盆地の上下変動パターンの時間変化を満たす衝突領域の範囲を定めた。得られた衝突範囲は伊豆半島の周囲のプレート境界が押し込まれた領域であるが、現在の北西方向のプレート運動下では伊豆半島よりも西側の部分の効果が大半を占める。

3. 関東盆地、房総半島下の応力状態
得られたプレート沈み込みと伊豆半島の衝突モデルを用いて、プレート内部の応力蓄積レートを計算した。関東地方上盤側の地殻内応力は伊豆半島における北西-南東圧縮応力、フィリピン海プレート内部の横ずれ的な応力場とともに、関東盆地の東部では、ドーナツ状のメカニズム解で表される、東西・南北ともに伸張的な応力場を示す。房総半島下のフィリピン海プレート内部の応力場も上盤側と同様に、水平伸張的な応力場を示す。5月25日、6月1日の地震は東西伸張の正断層型であるが、計算で示した水平伸張の応力蓄積パターンと調和的であり、フィリピン海スラブ内部の弱面において断層すべりとして解放されたものと考えられる。

引用文献
[1] Hashima et al., Tectonophysics, 679, 1-14, 2016.
[2] Matsu’ura and Sato, Geophys. J. Int., 96, 23-32, 1989.
[3] Nakamura et al., Bull. Soc. Geol. Fr., 26, 221-243, 1984.
[4] 貝塚, 地学雑誌, 96, 223-240, 1987.