17:15 〜 18:45
[S09P-04] 南海トラフ東部に沈み込む海嶺と浅部超低周波地震の震源分布
はじめに 南海トラフの沈み込み帯で発生する浅部低周波地震(VLFE)は、直上に展開される広帯域海底地震計観測網の近地波形記録の解析結果に基づき、プレート境界断層における低角逆断層型地震として説明されてきた(Sugioka et al., 2012; Nakano et al., 2018)。他方、同海域においてプレート境界より浅い分岐断層におけるVLFE発生の可能性や(To et al., 2015)、南海トラフ東部に沈み込む海嶺のVLFE分布への影響も指摘されている(Toh et al., 2018)。本研究では、これらの指摘を踏まえて、南海トラフ東部における浅部VLFEの震源メカニズム分布の詳細を推定することを目的とした。
データ 南海トラフ東部で2015、2016及び2017年にそれぞれ1–3週間発生したVLFE群発活動のDONET1広帯域地震計記録の三成分を利用した。複数の周波数帯域においてシグナルの有無を確認する明確な基準(To et al., 2015)を適用し、まず947個のVLFEを検出した。6観測点以上でシグナルが観測されたVLFEは355個あった。
手法 観測波形と理論波形のVariance Reduction(VR)を最大化するセントロイドの震源位置と時刻、及びモーメントテンソル5成分を、震源の位置(水平方向0.01°、深さ方向1km)と時間(1s)に対してグリッドサーチし、モーメントテンソル解については各グリッドで時間領域における波形インバージョン(Dreger, 2003)を実施して求めた。構造モデルは、同海域の2次元構造探査モデル(Nakanishi et al., 2008)を水平方向に平滑化して利用した。Green関数は波数積分法(Herrmann, 2003)により求めた。本研究では時間と空間の両方で点震源を仮定している。VLFEの長い震源時間を考慮するために、それぞれのVLFEに対し三種類のバンドパスフィルタ(16–32s、20–50s、25–80s)を試した。長周期フィルタほどS/N比が低下する。利用可能な観測波形数が一定数以上となるような長周期のフィルタをイベント毎に選択した。
結果と議論 65%以上のVRが得られた50個のVLFEの分布を図1に示す。
1. 海嶺の沈み込みが無い(プレート境界面が滑らかな)南西側では、VLFEは外縁隆起帯の直下からトラフ軸側に分布する。VLFEがプレート境界断層における低角逆断層のメカニズムを持つ地震であるとする既存研究結果(Sugioka et al., 2012; Nakano et al., 2018)と、概ね調和的な結果を得た。但し、最も陸側に位置するもの中にプレート境界よりも~2km浅く震源が推定されるVLFEが紛れている。これらのVLFEと分岐断層の関係については、震源位置の深さ方向の解像度を精査し、今後明らかにしていきたい。
2. 海嶺が沈み込む北東側では、構造探査で示される海嶺(Park et al., 2003)の高まりの直上、及びその陸側にVLFEが分布する。この領域は外縁隆起帯直下とその陸側に相当し、外縁隆起帯のトラフ軸側にVLFEが分布する南西側と対象的である。 また、南西側の外縁隆起帯下のVLFEと比較して、北東側では震源の深さが~2km程浅く、To et al., (2015)の報告と調和的である。但しこれは、分岐断層における発生というよりも、寧ろ北東側において海嶺の沈み込みによりプレート境界そのものが持ち上げられていることに起因するとも考えられる。
3. 沈み込む海嶺のようなプレート境界面の凸構造は、上盤のプレートにfractured networkを形成することが指摘されている (Wang and Bilek, 2011)。また、海嶺の陸側の裾において、剪断応力及び間隙圧は増加する筈である。従って、本研究で得られたDONET1の北東側と南西側におけるVLFE分布の違いは、海嶺の沈み込みによって生じると考えられる応力場の変化により整合的に説明可能である。本研究結果は、過去に津波を発生させてきたこの領域の歪み蓄積解放様式を推定する上でも重要である。
データ 南海トラフ東部で2015、2016及び2017年にそれぞれ1–3週間発生したVLFE群発活動のDONET1広帯域地震計記録の三成分を利用した。複数の周波数帯域においてシグナルの有無を確認する明確な基準(To et al., 2015)を適用し、まず947個のVLFEを検出した。6観測点以上でシグナルが観測されたVLFEは355個あった。
手法 観測波形と理論波形のVariance Reduction(VR)を最大化するセントロイドの震源位置と時刻、及びモーメントテンソル5成分を、震源の位置(水平方向0.01°、深さ方向1km)と時間(1s)に対してグリッドサーチし、モーメントテンソル解については各グリッドで時間領域における波形インバージョン(Dreger, 2003)を実施して求めた。構造モデルは、同海域の2次元構造探査モデル(Nakanishi et al., 2008)を水平方向に平滑化して利用した。Green関数は波数積分法(Herrmann, 2003)により求めた。本研究では時間と空間の両方で点震源を仮定している。VLFEの長い震源時間を考慮するために、それぞれのVLFEに対し三種類のバンドパスフィルタ(16–32s、20–50s、25–80s)を試した。長周期フィルタほどS/N比が低下する。利用可能な観測波形数が一定数以上となるような長周期のフィルタをイベント毎に選択した。
結果と議論 65%以上のVRが得られた50個のVLFEの分布を図1に示す。
1. 海嶺の沈み込みが無い(プレート境界面が滑らかな)南西側では、VLFEは外縁隆起帯の直下からトラフ軸側に分布する。VLFEがプレート境界断層における低角逆断層のメカニズムを持つ地震であるとする既存研究結果(Sugioka et al., 2012; Nakano et al., 2018)と、概ね調和的な結果を得た。但し、最も陸側に位置するもの中にプレート境界よりも~2km浅く震源が推定されるVLFEが紛れている。これらのVLFEと分岐断層の関係については、震源位置の深さ方向の解像度を精査し、今後明らかにしていきたい。
2. 海嶺が沈み込む北東側では、構造探査で示される海嶺(Park et al., 2003)の高まりの直上、及びその陸側にVLFEが分布する。この領域は外縁隆起帯直下とその陸側に相当し、外縁隆起帯のトラフ軸側にVLFEが分布する南西側と対象的である。 また、南西側の外縁隆起帯下のVLFEと比較して、北東側では震源の深さが~2km程浅く、To et al., (2015)の報告と調和的である。但しこれは、分岐断層における発生というよりも、寧ろ北東側において海嶺の沈み込みによりプレート境界そのものが持ち上げられていることに起因するとも考えられる。
3. 沈み込む海嶺のようなプレート境界面の凸構造は、上盤のプレートにfractured networkを形成することが指摘されている (Wang and Bilek, 2011)。また、海嶺の陸側の裾において、剪断応力及び間隙圧は増加する筈である。従って、本研究で得られたDONET1の北東側と南西側におけるVLFE分布の違いは、海嶺の沈み込みによって生じると考えられる応力場の変化により整合的に説明可能である。本研究結果は、過去に津波を発生させてきたこの領域の歪み蓄積解放様式を推定する上でも重要である。