17:15 〜 18:45
[S09P-14] 2016年熊本地震の余震発生における間隙流体圧の役割
1.はじめに
余震は古くから知られている現象であるが,その発生メカニズムはよくわかっていない.クーロン破壊関数の変化(ΔCFF)は,ある断層面での剪断応力の変化と面に働く有効法線応力の変化を介した断層強度の変化を評価したもので,余震の発生を理解するために広く用いられてきた(e.g., King et al., 1994).多くの場合,ΔCFFは本震によって引き起こされた応力場の変化から見積もられる.しかし,本震による間隙流体圧の上昇は,断層強度を著しく低下させ,余震の発生を引き起こす可能性がある(e.g., Nur & Booker, 1972, Sibson, 2007, Terakawa et al., 2013).本研究では,2016年4月16日に発生した熊本地震を対象とし,地震メカニズムトモグラフィー法(FMT法,Terakawa et al., 2010)による本震前の間隙流体圧分布の推定と,本震前後の地震活動度の変化の分析を通して,余震の発生における間隙流体圧の役割の理解を目指す.
2.熊本地震発生前の間隙流体圧分布の推定
FMT法は,応力場と地震時の断層運動の関係から,地殻内の間隙流体圧場を三次元的に推定する手法である.本研究では,熊本地震の震源域を含む九州中央部(緯度:130.2°N~131.6°N,経度:32.0°E~33.4°E,深さ:0㎞~15㎞)を対象とし,FMT法により本震前の間隙流体圧分布を推定誤差と共に求めた.解析には,Matsumoto et al. (2018)による2236個のメカニズム解(1996年1月24日~2016年4月7日)と,防災科研のF-netカタログに掲載されている90個のメカニズム解(1997年1月1日~2016年4月13日)を使用し,重複を防ぐようにデータセット(2248個)を作成した.
これらのデータから,まず,CMTデータインバージョン法により九州地方の広域応力場を推定した(Terakawa & Matsu’ura, 2008; Terakawa et al., in prep.).次に,この応力場の下でメカニズム解の各節面に働くトラクションの方向から理論的なモーメントテンソル(MT)を計算し,実際のMT(メカニズム解から変換したもの)との内積を計算した.こうして,内積の値が大きい方の節面を真の断層面として選択し,FMT法に適用した.得られた結果から,Asano & Iwata (2016)による震源断層面に相当する場所での間隙流体圧分布を調べた.この結果と本震のすべり分布を比較すると,本震すべりの大きかったところで間隙流体圧が小さくなった.これは,本震断層の強度とすべり量の関係を示しているかもしれない.
3.熊本地震前後での地震活動度の変化の分析
気象庁の震源カタログを用いて,九州中央部における本震前の3年間(期間1:2013年4月13日~2016年4月13日)と本震後の3年間(期間2:2016年4月16日~2019年4月16日)の地震数と,本震前後の地震活動度の変化を調べた.まず,深さ 5,10,15㎞の平面内に5㎞間隔で地震活動の評価点2463個を設定した.次に,各期間で,各評価点を中心とした半径5㎞の球の中に含まれる地震数を求め,期間1の地震数に対する期間2の地震数の比を算出した.この結果,本震後に地震活動度が減少する領域が,震源域を挟んだ南北方向に分布することがわかった.これは,先行研究によるΔCFF(Nishimura, 2018)の結果とも調和的である.しかし,ΔCFFが負であるにも関わらず地震活動度が増加した地域が約240地点あり,これらの地域の余震の発生には間隙流体圧の上昇が重要な役割を果たした可能性がある.
4.余震の発生における間隙流体圧の役割の分析
ΔCFFからの予想に反して地震活動度が増加した地域(3節)に対して,本震前後での応力場に対するメカニズム解のタイプの変化を調べた.分析には,2節で使用した本震前のメカニズム解に加え,今西他による熊本地震合同余震観測で得られたメカニズム解495個(2016年4月16日~2019年2月10日)とF-netカタログ(2016年4月16日~2019年2月18日)のメカニズム解208個を使用した.分析の対象となった地域のうち,本震前後の両期間で十分なデータがあったのは,震源域西部の南方の3地点だけであった.これらの地域のメカニズム解と応力場の関係から各地震を駆動した間隙流体圧係数C(間隙流体圧の静水圧からのずれを規格化したもの)を計算し,その値を本震前後で比較した.このうち2地点で,Cの値は0.59から0.93,0.42から1.1へと大きく増加した.この結果は,間隙流体圧の上昇がこの地域の余震の発生を促した可能性を支持する.
余震は古くから知られている現象であるが,その発生メカニズムはよくわかっていない.クーロン破壊関数の変化(ΔCFF)は,ある断層面での剪断応力の変化と面に働く有効法線応力の変化を介した断層強度の変化を評価したもので,余震の発生を理解するために広く用いられてきた(e.g., King et al., 1994).多くの場合,ΔCFFは本震によって引き起こされた応力場の変化から見積もられる.しかし,本震による間隙流体圧の上昇は,断層強度を著しく低下させ,余震の発生を引き起こす可能性がある(e.g., Nur & Booker, 1972, Sibson, 2007, Terakawa et al., 2013).本研究では,2016年4月16日に発生した熊本地震を対象とし,地震メカニズムトモグラフィー法(FMT法,Terakawa et al., 2010)による本震前の間隙流体圧分布の推定と,本震前後の地震活動度の変化の分析を通して,余震の発生における間隙流体圧の役割の理解を目指す.
2.熊本地震発生前の間隙流体圧分布の推定
FMT法は,応力場と地震時の断層運動の関係から,地殻内の間隙流体圧場を三次元的に推定する手法である.本研究では,熊本地震の震源域を含む九州中央部(緯度:130.2°N~131.6°N,経度:32.0°E~33.4°E,深さ:0㎞~15㎞)を対象とし,FMT法により本震前の間隙流体圧分布を推定誤差と共に求めた.解析には,Matsumoto et al. (2018)による2236個のメカニズム解(1996年1月24日~2016年4月7日)と,防災科研のF-netカタログに掲載されている90個のメカニズム解(1997年1月1日~2016年4月13日)を使用し,重複を防ぐようにデータセット(2248個)を作成した.
これらのデータから,まず,CMTデータインバージョン法により九州地方の広域応力場を推定した(Terakawa & Matsu’ura, 2008; Terakawa et al., in prep.).次に,この応力場の下でメカニズム解の各節面に働くトラクションの方向から理論的なモーメントテンソル(MT)を計算し,実際のMT(メカニズム解から変換したもの)との内積を計算した.こうして,内積の値が大きい方の節面を真の断層面として選択し,FMT法に適用した.得られた結果から,Asano & Iwata (2016)による震源断層面に相当する場所での間隙流体圧分布を調べた.この結果と本震のすべり分布を比較すると,本震すべりの大きかったところで間隙流体圧が小さくなった.これは,本震断層の強度とすべり量の関係を示しているかもしれない.
3.熊本地震前後での地震活動度の変化の分析
気象庁の震源カタログを用いて,九州中央部における本震前の3年間(期間1:2013年4月13日~2016年4月13日)と本震後の3年間(期間2:2016年4月16日~2019年4月16日)の地震数と,本震前後の地震活動度の変化を調べた.まず,深さ 5,10,15㎞の平面内に5㎞間隔で地震活動の評価点2463個を設定した.次に,各期間で,各評価点を中心とした半径5㎞の球の中に含まれる地震数を求め,期間1の地震数に対する期間2の地震数の比を算出した.この結果,本震後に地震活動度が減少する領域が,震源域を挟んだ南北方向に分布することがわかった.これは,先行研究によるΔCFF(Nishimura, 2018)の結果とも調和的である.しかし,ΔCFFが負であるにも関わらず地震活動度が増加した地域が約240地点あり,これらの地域の余震の発生には間隙流体圧の上昇が重要な役割を果たした可能性がある.
4.余震の発生における間隙流体圧の役割の分析
ΔCFFからの予想に反して地震活動度が増加した地域(3節)に対して,本震前後での応力場に対するメカニズム解のタイプの変化を調べた.分析には,2節で使用した本震前のメカニズム解に加え,今西他による熊本地震合同余震観測で得られたメカニズム解495個(2016年4月16日~2019年2月10日)とF-netカタログ(2016年4月16日~2019年2月18日)のメカニズム解208個を使用した.分析の対象となった地域のうち,本震前後の両期間で十分なデータがあったのは,震源域西部の南方の3地点だけであった.これらの地域のメカニズム解と応力場の関係から各地震を駆動した間隙流体圧係数C(間隙流体圧の静水圧からのずれを規格化したもの)を計算し,その値を本震前後で比較した.このうち2地点で,Cの値は0.59から0.93,0.42から1.1へと大きく増加した.この結果は,間隙流体圧の上昇がこの地域の余震の発生を促した可能性を支持する.