17:15 〜 18:45
[S09P-21] 森吉山地域の群発地震に見られる特徴的な散乱波群の波形形状の時間変化とその要因
1.はじめに
2011年東北地方太平洋沖地震発生後,東北日本内陸各地で群発地震活動が活発化した(e.g., Okada et al., 2015).東北地方北部に位置する第四紀火山の森吉山地域は,東北地方太平洋沖地震発生から8年余り経過した今なお群発地震活動が継続している地域の一つである.この群発地震活動の震源は複数のクラスター状に分布し,森吉山北方約5 kmの最も活発なクラスターでは震源のマイグレーションが観測されている(e.g., Kosuga, 2014).また,本地域で観測される群発地震の地震波形記録のSコーダ中に8 Hz以上の高周波に卓越し1秒程度の振動継続時間を持つ特徴的な後続波が現れる.これは,森吉山周辺に局在する強散乱体へ入射したS波の多重散乱によって生じた波群であると考えられている(Kosuga, 2014).本研究では,後続波の波形形状の時間変化に着目し,その系統的な解析とこれまで得られた種々の観測事実に基づいて森吉山地域における群発地震の誘発要因を議論する.
2.データと解析方法
本研究では,森吉山北方の震源クラスター内で2011年3月から2016年11までに発生した3609地震についてDouble difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)で再決定した震源を用いた.まず,後続波の波形形状を目視で3種類に分類するとともに,対応する震源位置の空間分布を調査した.次に,直達波部分の波形相互相関に基づいて,震源位置および震源メカニズム解がほぼ同じと考えられる地震を抽出し,その中での後続波部分の波形の時間変化を調べた.
3.結果
後続波の波形形状を(A)単一のピーク,(B)複数のピークおよび,(C)ピークが不明瞭な場合の3パターンに大別すると,それぞれの割合は順に33.8%,63.8%,3.2%であった.各パターンに対応する震源位置は棲み分けせず,(A)および(B)に関してはクラスター内に一様に分布している.(C)のみはクラスターの北東側に偏って分布している.
また,直達波部分の波形形状はよく類似したグループ内の波形であっても,後続波部分の波形の振幅・ピーク数・継続時間は複雑な時間変化を呈した.さらに,後続波の波形形状は十数時間から数日という短期間のうちに変化する場合があることが判明した.
4.議論
後続波の波形形状が時間変化する要因として,震源位置および震源メカニズム解の違いと,後続波の発生源の時間変化が考えられる.後続波の波形形状の各パターンに対応する震源がクラスター内で棲み分けしていないことは,震源位置の違いのみでは後続波の波形形状の変化を説明できないことを示している.また,震源位置および震源メカニズム解がほぼ同じ地震を抽出した場合,同一グループ内での直達波部分の相関係数は0.85以上であるが,後続波部分の相関はそれよりも有意に低い.以上から,後続波の波形形状の時間変化は,その発生源の時間変化によるものと考えられる.観測された短期間での急激な波形形状の変化を考慮すると固体的な発生源の時間変化は考え難く,地殻流体の関与が示唆される.一方,後続波のピークが不明瞭な地震は空間的に局在しており,後続波の発生源に後続波を発生させない要因があるか,あるいは観測点に後続波が到達しない震源・観測点間のジオメトリの影響があると考えられる.
後続波の発生源は,森吉山北方クラスターのほぼ直下約13kmに位置すると推定されている(雨澤・小菅,2017SSJ).また,Okada et al. (2015)による地震波トモグラフィーの結果によると,発生源推定位置の直下には地震波低速度領域が存在する.以上の観測事実と後続波の波形形状の時間変化を考慮すると,後続波の発生源には地殻流体が存在している可能性が高く,それは入射波に対し強散乱体として振る舞い特徴的な後続波を励起し,散乱体の時空間変化が後続波の波形形状の時間変化をもたらすと考えられる.
このように,森吉山北方のクラスター下には地殻流体の貯留域が存在しており,東北沖地震による応力場の変化により中間主応力軸が鉛直方向を向いたこと(e.g.,小菅・他, 2012)で鉛直方向のフラクチャーが発達しやすい状態となり(Sibson, 1997),それを通って地殻流体が上昇し,震源のマイグレーションを伴う群発地震活動を駆動したと考えられる.
謝辞
本研究では防災科学技術研究所高感度地震観測網Hi-netの地震波形データを使用しました.
2011年東北地方太平洋沖地震発生後,東北日本内陸各地で群発地震活動が活発化した(e.g., Okada et al., 2015).東北地方北部に位置する第四紀火山の森吉山地域は,東北地方太平洋沖地震発生から8年余り経過した今なお群発地震活動が継続している地域の一つである.この群発地震活動の震源は複数のクラスター状に分布し,森吉山北方約5 kmの最も活発なクラスターでは震源のマイグレーションが観測されている(e.g., Kosuga, 2014).また,本地域で観測される群発地震の地震波形記録のSコーダ中に8 Hz以上の高周波に卓越し1秒程度の振動継続時間を持つ特徴的な後続波が現れる.これは,森吉山周辺に局在する強散乱体へ入射したS波の多重散乱によって生じた波群であると考えられている(Kosuga, 2014).本研究では,後続波の波形形状の時間変化に着目し,その系統的な解析とこれまで得られた種々の観測事実に基づいて森吉山地域における群発地震の誘発要因を議論する.
2.データと解析方法
本研究では,森吉山北方の震源クラスター内で2011年3月から2016年11までに発生した3609地震についてDouble difference法(Waldhauser and Ellsworth, 2000)で再決定した震源を用いた.まず,後続波の波形形状を目視で3種類に分類するとともに,対応する震源位置の空間分布を調査した.次に,直達波部分の波形相互相関に基づいて,震源位置および震源メカニズム解がほぼ同じと考えられる地震を抽出し,その中での後続波部分の波形の時間変化を調べた.
3.結果
後続波の波形形状を(A)単一のピーク,(B)複数のピークおよび,(C)ピークが不明瞭な場合の3パターンに大別すると,それぞれの割合は順に33.8%,63.8%,3.2%であった.各パターンに対応する震源位置は棲み分けせず,(A)および(B)に関してはクラスター内に一様に分布している.(C)のみはクラスターの北東側に偏って分布している.
また,直達波部分の波形形状はよく類似したグループ内の波形であっても,後続波部分の波形の振幅・ピーク数・継続時間は複雑な時間変化を呈した.さらに,後続波の波形形状は十数時間から数日という短期間のうちに変化する場合があることが判明した.
4.議論
後続波の波形形状が時間変化する要因として,震源位置および震源メカニズム解の違いと,後続波の発生源の時間変化が考えられる.後続波の波形形状の各パターンに対応する震源がクラスター内で棲み分けしていないことは,震源位置の違いのみでは後続波の波形形状の変化を説明できないことを示している.また,震源位置および震源メカニズム解がほぼ同じ地震を抽出した場合,同一グループ内での直達波部分の相関係数は0.85以上であるが,後続波部分の相関はそれよりも有意に低い.以上から,後続波の波形形状の時間変化は,その発生源の時間変化によるものと考えられる.観測された短期間での急激な波形形状の変化を考慮すると固体的な発生源の時間変化は考え難く,地殻流体の関与が示唆される.一方,後続波のピークが不明瞭な地震は空間的に局在しており,後続波の発生源に後続波を発生させない要因があるか,あるいは観測点に後続波が到達しない震源・観測点間のジオメトリの影響があると考えられる.
後続波の発生源は,森吉山北方クラスターのほぼ直下約13kmに位置すると推定されている(雨澤・小菅,2017SSJ).また,Okada et al. (2015)による地震波トモグラフィーの結果によると,発生源推定位置の直下には地震波低速度領域が存在する.以上の観測事実と後続波の波形形状の時間変化を考慮すると,後続波の発生源には地殻流体が存在している可能性が高く,それは入射波に対し強散乱体として振る舞い特徴的な後続波を励起し,散乱体の時空間変化が後続波の波形形状の時間変化をもたらすと考えられる.
このように,森吉山北方のクラスター下には地殻流体の貯留域が存在しており,東北沖地震による応力場の変化により中間主応力軸が鉛直方向を向いたこと(e.g.,小菅・他, 2012)で鉛直方向のフラクチャーが発達しやすい状態となり(Sibson, 1997),それを通って地殻流体が上昇し,震源のマイグレーションを伴う群発地震活動を駆動したと考えられる.
謝辞
本研究では防災科学技術研究所高感度地震観測網Hi-netの地震波形データを使用しました.