10:45 〜 11:00
[S10-06] 沼津沖内浦湾における海中海底下イメージングの事例
1.はじめに
海底下の地質構造を高精度に映像化する手法として、反射法地震探査がよく用いられる。また、この手法は、海水の温度や塩分の違いで生じる反射波を利用することによって海洋物理学的研究にも応用されている(中村, 2008;横田ほか, 2010)。しかしながら、これらは、海底下あるいは海中のいずれかを探査対象としてデータ解析が行われており、海中から海底下までを統一的に映像化するための手法は未だ開発の余地がある。筆者らは、海底から湧出する流体およびその湧出経路のイメージングを目的として海中海底下統合イメージングの開発を目指しており、今回、沼津沖内浦湾において反射法地震探査データを使った海中海底下イメージングを試みた。
沼津沖内浦湾は駿河湾の北東奥部に位置し、東に富士川河口断層帯および西には丹那断層が南北に走っていることから、活構造を目的とする調査海域として適している。また、音波探査等による既存研究において、いくつかの断層の存在が明らかになっている(たとえば、佐藤, 2014)。
2.手法
海中海底下統合イメージングの最終目標は、計量魚群探知機データと反射法地震探査データとの統合である。従来、計量魚群探知機は音波で海中の生物を、反射法地震探査は地震波で海底下の地質構造を観測する手法であり、各々、探査対象のイメージングに適した分解能を有している。すなわち、前者では数10~数100kHz、後者では10~数100Hzの周波数帯域が使われることが多い。そのため、振源(音源)としては、前者では圧電素子、後者では主にエアガンが用いられる。本研究における探査対象が湧出流体および湧出経路であることから、必要な周波数帯域としては数10~数10kHzであろうと考えている。よって、まずは、数10~数kHzの周波数帯域を有し、安価な価格で購入できる水中スピーカーを振源として利用している。
データ処理については、現時点では従来型の反射法地震探査データ処理のみを適用しており、計量魚群探知機と反射法地震探査データの統合処理については、分解能の違いを克服する手法を現在検討中である。また、従来型の地震探査データ処理に加え、今回は、減衰特性をマッピングする減衰プロファイリング法(Tsuru et al., 2017; Shimizu, 2018)を実施した。これは、反射波が不明瞭な場所で断層の解析を容易にするためである。
3.実験概要
2018年8月7日、沼津沖内浦湾の水深約80mの海域において、測線長約560mの東西測線20本の反射法地震探査データを収録した。測線間隔は10mである。発振は6sおきに水中スピーカーから非パルス波を出力し、受振は16chのストリーマーケーブルを使用した。グループ間隔は3.125mである。なお、ストリーマーケーブルは産業技術総合研究所殿からお借りした。収録されたデータは、発振波形との相互相関を計算することにより、パルス波に変換した。調査に使用した船舶は、株式会社オキシーテックの計測船「第二いこい丸」(17トン)である。
4.結果
観測データを処理した結果、面積にして約560m×200mのミニ3D地震探査データが得られた。まず、海底下の構造については、連続性の良い反射波が見える場所では、反射断面上での反射波のずれにより活断層と解釈される断層の発達が観察され、タイムスライス上でそれらの走向が確認できた。一方、反射波が不明瞭な場所では、従来型のタイムスライスでは断層は確認できないが、減衰プロファイリングから作成したQスライス上で断層の発達が確認できた。
海中については、1測線(ND1808-10)において海底から上昇する流体であろうと考えられる音波の散乱現象が見られた。速度解析により、その場所の海中音速を調べた結果、1600m/sと周囲の平均音速1500m/sより優位に大きいことが明らかになった。海中音速は、温度と塩分の関数であり、温度による変化の方が大きいことから、今回観測された流体は現時点では海底下から湧出した流体(水)であろうと推定している。また、興味深いことに、その流体は断層が途切れた場所から湧出しているように見える。
5.まとめ
反射法地震探査データを用いて、海中海底下イメージングを試みた。その結果、海底下に発達する断層および断層近傍から湧出したと推定される流体を観測によって捉えることができた。今後は、計量魚群探知機データとの統合イメージングによる、より高精度な湧出流体の観測手法の開発を目指す。
海底下の地質構造を高精度に映像化する手法として、反射法地震探査がよく用いられる。また、この手法は、海水の温度や塩分の違いで生じる反射波を利用することによって海洋物理学的研究にも応用されている(中村, 2008;横田ほか, 2010)。しかしながら、これらは、海底下あるいは海中のいずれかを探査対象としてデータ解析が行われており、海中から海底下までを統一的に映像化するための手法は未だ開発の余地がある。筆者らは、海底から湧出する流体およびその湧出経路のイメージングを目的として海中海底下統合イメージングの開発を目指しており、今回、沼津沖内浦湾において反射法地震探査データを使った海中海底下イメージングを試みた。
沼津沖内浦湾は駿河湾の北東奥部に位置し、東に富士川河口断層帯および西には丹那断層が南北に走っていることから、活構造を目的とする調査海域として適している。また、音波探査等による既存研究において、いくつかの断層の存在が明らかになっている(たとえば、佐藤, 2014)。
2.手法
海中海底下統合イメージングの最終目標は、計量魚群探知機データと反射法地震探査データとの統合である。従来、計量魚群探知機は音波で海中の生物を、反射法地震探査は地震波で海底下の地質構造を観測する手法であり、各々、探査対象のイメージングに適した分解能を有している。すなわち、前者では数10~数100kHz、後者では10~数100Hzの周波数帯域が使われることが多い。そのため、振源(音源)としては、前者では圧電素子、後者では主にエアガンが用いられる。本研究における探査対象が湧出流体および湧出経路であることから、必要な周波数帯域としては数10~数10kHzであろうと考えている。よって、まずは、数10~数kHzの周波数帯域を有し、安価な価格で購入できる水中スピーカーを振源として利用している。
データ処理については、現時点では従来型の反射法地震探査データ処理のみを適用しており、計量魚群探知機と反射法地震探査データの統合処理については、分解能の違いを克服する手法を現在検討中である。また、従来型の地震探査データ処理に加え、今回は、減衰特性をマッピングする減衰プロファイリング法(Tsuru et al., 2017; Shimizu, 2018)を実施した。これは、反射波が不明瞭な場所で断層の解析を容易にするためである。
3.実験概要
2018年8月7日、沼津沖内浦湾の水深約80mの海域において、測線長約560mの東西測線20本の反射法地震探査データを収録した。測線間隔は10mである。発振は6sおきに水中スピーカーから非パルス波を出力し、受振は16chのストリーマーケーブルを使用した。グループ間隔は3.125mである。なお、ストリーマーケーブルは産業技術総合研究所殿からお借りした。収録されたデータは、発振波形との相互相関を計算することにより、パルス波に変換した。調査に使用した船舶は、株式会社オキシーテックの計測船「第二いこい丸」(17トン)である。
4.結果
観測データを処理した結果、面積にして約560m×200mのミニ3D地震探査データが得られた。まず、海底下の構造については、連続性の良い反射波が見える場所では、反射断面上での反射波のずれにより活断層と解釈される断層の発達が観察され、タイムスライス上でそれらの走向が確認できた。一方、反射波が不明瞭な場所では、従来型のタイムスライスでは断層は確認できないが、減衰プロファイリングから作成したQスライス上で断層の発達が確認できた。
海中については、1測線(ND1808-10)において海底から上昇する流体であろうと考えられる音波の散乱現象が見られた。速度解析により、その場所の海中音速を調べた結果、1600m/sと周囲の平均音速1500m/sより優位に大きいことが明らかになった。海中音速は、温度と塩分の関数であり、温度による変化の方が大きいことから、今回観測された流体は現時点では海底下から湧出した流体(水)であろうと推定している。また、興味深いことに、その流体は断層が途切れた場所から湧出しているように見える。
5.まとめ
反射法地震探査データを用いて、海中海底下イメージングを試みた。その結果、海底下に発達する断層および断層近傍から湧出したと推定される流体を観測によって捉えることができた。今後は、計量魚群探知機データとの統合イメージングによる、より高精度な湧出流体の観測手法の開発を目指す。