日本地震学会2019年度秋季大会

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A会場

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

[S15]PM-2

2019年9月16日(月) 14:45 〜 15:45 A会場 (百周年記念ホール)

座長:三宅 弘恵(東京大学)、長坂 陽介(港湾空港技術研究所)

15:30 〜 15:45

[S15-13] 疑似点震源モデルへの方位依存型コーナー周波数の導入 ―2003年5月26日宮城県沖の地震への適用例―

*長坂 陽介1、野津 厚1 (1. 港湾空港技術研究所)

2003年5月26日に発生した宮城県沖の地震(MJ7.1)は逆断層成分を主とするスラブ内地震であり,これまでに様々な強震動シミュレーションのための震源モデルが提案されている.若井ら(2014),野津・長坂(2019)は疑似点震源モデルと呼ばれるサブイベントの時空間的な広がりを陽には考慮しないモデルにより,3つのサブイベントを用いて強震動シミュレーションを行った.全体的な再現性は良好であったが,3つめのサブイベントについては観測記録に見られるディレクティビティの影響を再現できなかったことを課題として挙げている.また,浅野ら(2004)は経験的グリーン関数法を用いて3つの強震動生成領域(SMGA)からなるモデルを提案している.このモデルによると,最後に破壊する3つ目のSMGAは南側から破壊し北へ広がるとしている.
そこで,本検討では,疑似点震源モデルにおいてディレクティビティの影響を考慮するため,新たにコーナー周波数に方位依存性を導入する改良を行った.また,改良したモデルを2003年5月26日に発生した宮城県沖の地震に適用し,モデルの検証を行った.
モデルの改良の出発点としては野津・長坂(2019)の震源モデルを用いた.最後に破壊するサブイベント3にのみコーナー周波数の方位依存性を導入してディレクティビティを考慮するが,コーナー周波数は理想的なユニラテラル破壊でのコーナー周波数の理論式を参考に次のように表すこととした.fc(ϕ)=fc0/(1-Acosϕ),ここでfc0はディレクティビティの影響がないときのコーナー周波数,ϕは破壊進行方向と対象地点方向のなす角,Aはディレクティビティの程度を表す係数である.理想的なユニラテラルな破壊であればA=Vr/Vsとなり, Aがこの値より小さければ破壊がより等方的であることを意味する.本モデルでは対象地点が破壊進行方向にあるときはコーナー周波数は大きくなり,バックワード側では小さくなる.既存の疑似点震源モデルに対して新たに導入されたパラメターは,係数A,および破壊進行方向を表す角度の2つである.本手法は小断層の重ね合わせを行わないため,合成スペクトルに干渉による谷が現れないことが利点として挙げられる.
野津・長坂(2019)の震源モデルのサブイベント1および2のパラメターは固定し,フォワードモデリングによりサブイベント3のパラメターを再決定した結果,地震モーメントは0.9×1019 Nm,fc0=0.5 Hz,A=0.70,破壊進行方向は-20°となった.なお,破壊進行方向は滑り角の表示方法を参考に角度で表すこととし,走向方向に破壊が進むとき0°,浅部に破壊が進むとき90°とした.浅野ら(2004)に従い,サブイベント3は走向190°,傾斜69°の面にあるとしたため,-20°は北向きで少し深部へ進む破壊を表し,浅野ら(2004)の傾向と一致している.その他のパラメターは野津・長坂(2019)と同じとした.野津・長坂(2019)ではサブイベント3の地震モーメントは1.2×1019 Nm,コーナー周波数は0.4 Hzであった.
対象地点および速度波形(0.2-2 Hz)の観測との比較を図に示す.野津・長坂(2019)では特に震源直上付近と南側の地点でS波部後半のパルスが過大評価であったが,本モデルでは改善されている.今後は他の地震での検証が課題となるが,内陸地殻内地震などで対象地点によってϕが大きく異なるときにどの程度コーナー周波数が変動するかなどを調べる必要がある.

謝辞
本検討では防災科学技術研究所の強震観測記録を使用しました。ここに記して謝意を表します。

参考
浅野公之,岩田知孝,入倉孝次郎,2004,2003年5月26日に宮城県沖で発生したスラブ内地震の震源モデルと強震動シミュレーション,地震2,57,171-185.
野津厚,長坂陽介,2019,疑似点震源モデルによる強震動シミュレーションのスラブ内地震への適用,港湾空港技術研究所報告,58,41-71.
若井淳,長坂陽介,野津厚,2014,疑似点震源モデルによる2003年5月26日宮城県沖スラブ内地震の強震動シミュレーション,土木学会論文集A1(構造・地震工学),70,I_818-I_829.