日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

ポスター会場(1日目)

一般セッション » S15. 強震動・地震災害

S15P

2019年9月16日(月) 17:15 〜 18:45 P会場 (時計台国際交流ホールII・III)

17:15 〜 18:45

[S15P-15] 前方散乱モデルを導入した「揺れの数値予報」: 2016年熊本地震の例

*小木曽 仁1 (1. 気象庁気象研究所)

地震波動場の実況そのものに基づく地震動即時予測(Hoshiba and Aoki, 2015, BSSA; Kodera et al., 2018, BSSA)は、巨大地震や複数の地震が同時に発生しているような状況においても予測が可能であることから、ロバストな地震動即時予測手法のひとつとして有望である。Hoshiba and Aoki (2015)が提唱した「揺れの数値予報」では未来の地震動を計算する際に輻射伝達理論と等方散乱モデルを用いているが、等方散乱モデルは地震波エンベロープのコーダ部分をよく再現するものの、主要動部分を説明することはできないため、主要動部分をより再現できる計算手法を「揺れの数値予報」に採用することで地震動の予測精度が向上すると期待できる。そこで、本研究では地震波エンベロープ全体をよく再現できる前方散乱モデル(e.g., Wegler et al., 2006, PAGEOPH)を「揺れの数値予報」に導入し、2016年熊本地震の本震(Mj7.3)を対象とした地震動即時予測シミュレーションを実施して、等方散乱モデルの結果と比較することによってその効果を調査した。

 前方散乱を表現するため、媒質速度に指数関数型のパワースペクトルで表現されるランダムな揺らぎがあると仮定し、ボルン近似に基づいて非等方な散乱係数を計算した。この非等方な散乱係数を輻射伝達理論に取り入れることにより、主要動部分も含めた地震波エンベロープ全体を計算することができる。なお、ランダム媒質を表現するパラメータは、相関距離を1km、速度揺らぎのRMS値を0.05とした。

 前方散乱モデルを用いた予測結果と等方散乱モデルに基づいた予測結果(Ogiso et al., 2018, BSSA)を比較したところ、最大値の予測はほぼ同等であるが、コーダ波部分の予測精度が向上した。これは、地震動即時予測において最大値のみならず地震動の継続時間の予測可能性を示す重要な結果である。等方散乱モデルにおいても、モーメント輸送散乱係数(e.g., Sato et al., 2012)を用いることでコーダ波部分のエンベロープの予測精度を向上させることは可能であったが、その場合、一部の観測点で直達波近辺の予測エンベロープが不自然となる例が見受けられた。すなわち、等方散乱モデルでは最大振幅またはコーダ部分のどちらかを合わせる予測となるのに対して、前方散乱モデルを用いることで主要動からコーダ部分までの地震波エンベロープ全体を予測することが可能であることがわかった。本研究は一様な減衰・散乱構造を用いているが、不均質な減衰・散乱構造の効果を取り込むことでさらに地震動の予測精度が向上することが見込まれる。


謝辞

本研究では防災科研K-NET、KiK-net、Hi-netの波形を使用しました。本研究の実施にあたり、JSPS科研費JP18K13622及びJP17H02064の援助を受けています。