10:45 AM - 11:00 AM
[S17-06] Near-field array observation of the 2015 Mw6.0 Bonin Trench earthquake: from foreshock to post-seismic seafloor deformation
1.序
小笠原海溝に沿っては巨大地震が歴史的に知られておらず、プレート沈み込みは大部分が非地震性滑りによるとされるがその実態はよくわかっていない。2015年9月1日の鳥島はるか東方沖地震(Mw=6.0)は、海溝すぐ内側に発生した低角逆断層地震で、たまたま、震央の至近距離で海底水圧計のアレー観測を実施していた。このアレーが「前震→本震→海底の隆起・沈降→津波の発生・伝播→海底余効変動→余効変動の再来」を記録した。こうした一連の現象がM6規模の地震で観測されたのは稀有なことであるが、小笠原海溝では普通に起こっていることかもしれない。本発表ではこの地震の上記一連の過程の概要を報告する。津波解析の詳細は別途発表(久保田ほか2019SSJ)する。
2.観測の概要
アレーは自由落下・自己浮上式の海底絶対圧力計(APG)(PARO-8B7000-I-005)を備えた10 観測点B01-B10からなり、B05には広帯域海底地震計(BBOBS)と海底差圧計(DPG)が併設されている。このアレーを鳥島はるか東方沖、小笠原海溝内側の水深4794-5670mの深海底に展開した(B04は記憶媒体の障害によりデータ未回収、またB05はAPGの事前不具合のため海底未設置)。APGのサンプリング周波数とカットオフ周波数は 4 Hz と 0.7 Hzに設定した。アレーの最小単位は辺長10kmの正三角形、最大は辺長30kmの正三角形である。
3.地震の概要
2015年9月1日(UTC)Mw6.0地震の震源はUSGSによれば(31.18N, 141.60E, 8.0km)とされB06のほぼ直下に位置するが精度は低い。本震の1分前にはmb=5.6の前震が発生している(図1・図2)。アレーの北端には同一緯度に沿って東から西にB10,B09,B8,B07が設置されており、別途発表(久保田ほか2019SSJ)の津波解析の結果によればB10は低角逆断層面のほぼ中央に位置し、B09は断層面西端に、B08, B07はその更に西側に位置する。図1と図2は、周期50秒のLowpass filtering後のB10及びB09,B08,B07における水圧記録である。断層運動に伴い海底が隆起したB10と沈降したB09,B08,B07とでは、水圧変動の極性が互いに逆を示す。
4.本震に伴う海底上下変動と津波の発生・伝播
ステップ的あるいはランプ的な海底変動を検出するためには水圧記録から潮汐変動の影響を差し引くことが必須である。本研究においては地震をはさむ40000秒の前半15000秒と後半15000秒をベースラインの違いを許して正弦関数fittingすることにより近似潮汐変動を求めた。この時間幅は試行錯誤の結果に基づき設定した。図1及び図2は、(近似潮汐変動+サンプリング時間前半に対応するベースライン)を記録から差し引いた残差変動を示す。図1のB1には、海底隆起→海面隆起に伴う静的水圧減(<0)と重なって動的水圧増(>0)と動的水圧減(<0)の対が記録されている。生じた海面変位が津波の発生源となる。図2のB09,B08,B07には、海底沈降→海面沈降に伴う静的水圧増(>0)と重なって動的水圧減(<0)と動的水圧憎(>0)の対が記録されている。生じた海面変位が津波の発生源となるが、その大きさを表すオフセット的な水圧変化はB09,B08,B07の順に小さくなり、周囲から津波として到来する水圧変化がより卓越するようになる。図1・図2のように震源域ごく近傍での津波の発生から伝播への過程がAPGアレーにより詳細に捉えられたのは今回が初めてである。
5.海底余効変動
図1を見ると本震後にゆっくりと海底が隆起している。B10に限らず、時間軸を長く取ると何れの観測点においても、数千秒程度の時定数でもって隆起が起きていることがわかる。隆起量は地震時と同程度ないしそれ以下であった。沈降した観測点が見られないことから、断層滑りは主に地震時の断層面の下方延長で起きたことが推測される。類似の時定数・振幅の海底変動は地震発生4日後及び4か月後にも発生した。このような非地震性滑りが多発するのは小笠原海溝の1つの特徴かもしれない。
6.謝辞
鳥島はるか東方沖へのアレーの設置はYK15-08航海(R/Vよこすか, JAMSTEC)で、回収はMR16-E02航海(R/Vみらい, JAMSTEC)にて行った。本研究はJSPS科研費(2524707,17K05646及び19K14818)と日本科学協会の笹川科学研究助成によるサポートを受けた。
小笠原海溝に沿っては巨大地震が歴史的に知られておらず、プレート沈み込みは大部分が非地震性滑りによるとされるがその実態はよくわかっていない。2015年9月1日の鳥島はるか東方沖地震(Mw=6.0)は、海溝すぐ内側に発生した低角逆断層地震で、たまたま、震央の至近距離で海底水圧計のアレー観測を実施していた。このアレーが「前震→本震→海底の隆起・沈降→津波の発生・伝播→海底余効変動→余効変動の再来」を記録した。こうした一連の現象がM6規模の地震で観測されたのは稀有なことであるが、小笠原海溝では普通に起こっていることかもしれない。本発表ではこの地震の上記一連の過程の概要を報告する。津波解析の詳細は別途発表(久保田ほか2019SSJ)する。
2.観測の概要
アレーは自由落下・自己浮上式の海底絶対圧力計(APG)(PARO-8B7000-I-005)を備えた10 観測点B01-B10からなり、B05には広帯域海底地震計(BBOBS)と海底差圧計(DPG)が併設されている。このアレーを鳥島はるか東方沖、小笠原海溝内側の水深4794-5670mの深海底に展開した(B04は記憶媒体の障害によりデータ未回収、またB05はAPGの事前不具合のため海底未設置)。APGのサンプリング周波数とカットオフ周波数は 4 Hz と 0.7 Hzに設定した。アレーの最小単位は辺長10kmの正三角形、最大は辺長30kmの正三角形である。
3.地震の概要
2015年9月1日(UTC)Mw6.0地震の震源はUSGSによれば(31.18N, 141.60E, 8.0km)とされB06のほぼ直下に位置するが精度は低い。本震の1分前にはmb=5.6の前震が発生している(図1・図2)。アレーの北端には同一緯度に沿って東から西にB10,B09,B8,B07が設置されており、別途発表(久保田ほか2019SSJ)の津波解析の結果によればB10は低角逆断層面のほぼ中央に位置し、B09は断層面西端に、B08, B07はその更に西側に位置する。図1と図2は、周期50秒のLowpass filtering後のB10及びB09,B08,B07における水圧記録である。断層運動に伴い海底が隆起したB10と沈降したB09,B08,B07とでは、水圧変動の極性が互いに逆を示す。
4.本震に伴う海底上下変動と津波の発生・伝播
ステップ的あるいはランプ的な海底変動を検出するためには水圧記録から潮汐変動の影響を差し引くことが必須である。本研究においては地震をはさむ40000秒の前半15000秒と後半15000秒をベースラインの違いを許して正弦関数fittingすることにより近似潮汐変動を求めた。この時間幅は試行錯誤の結果に基づき設定した。図1及び図2は、(近似潮汐変動+サンプリング時間前半に対応するベースライン)を記録から差し引いた残差変動を示す。図1のB1には、海底隆起→海面隆起に伴う静的水圧減(<0)と重なって動的水圧増(>0)と動的水圧減(<0)の対が記録されている。生じた海面変位が津波の発生源となる。図2のB09,B08,B07には、海底沈降→海面沈降に伴う静的水圧増(>0)と重なって動的水圧減(<0)と動的水圧憎(>0)の対が記録されている。生じた海面変位が津波の発生源となるが、その大きさを表すオフセット的な水圧変化はB09,B08,B07の順に小さくなり、周囲から津波として到来する水圧変化がより卓越するようになる。図1・図2のように震源域ごく近傍での津波の発生から伝播への過程がAPGアレーにより詳細に捉えられたのは今回が初めてである。
5.海底余効変動
図1を見ると本震後にゆっくりと海底が隆起している。B10に限らず、時間軸を長く取ると何れの観測点においても、数千秒程度の時定数でもって隆起が起きていることがわかる。隆起量は地震時と同程度ないしそれ以下であった。沈降した観測点が見られないことから、断層滑りは主に地震時の断層面の下方延長で起きたことが推測される。類似の時定数・振幅の海底変動は地震発生4日後及び4か月後にも発生した。このような非地震性滑りが多発するのは小笠原海溝の1つの特徴かもしれない。
6.謝辞
鳥島はるか東方沖へのアレーの設置はYK15-08航海(R/Vよこすか, JAMSTEC)で、回収はMR16-E02航海(R/Vみらい, JAMSTEC)にて行った。本研究はJSPS科研費(2524707,17K05646及び19K14818)と日本科学協会の笹川科学研究助成によるサポートを受けた。