Seismological Society of Japan Fall Meeting

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Room C

General session » S17. Tsunami

[S17]AM-2

Tue. Sep 17, 2019 10:45 AM - 12:15 PM ROOM C (Research Bldg No 8 NS Hall)

chairperson:Tatsuya Kubota(NIED), Satoshi Kusumoto(JAMSTEC)

11:15 AM - 11:30 AM

[S17-08] New phase correction method for accurate numerical computation of shorter-period tsunamis

*Osamu Sandanbata1,2, Shingo Watada1, Tungcheng Ho1, Kenji Satake1 (1. Earthquake Research Institute, the University of Tokyo, 2. Department of Science, the University of Tokyo)

巨大地震で発生する津波の多くは数十kmから数百kmの空間スケールをもつ海底面変動によって引き起こされ,観測される津波波形の周期帯は1000秒を超える.一方で,より小規模な地震や海底地すべりなどに伴い,500秒以下のより短周期成分に富んだ津波が観測されることがある.こうした短周期成分に富んだ津波の海洋伝播計算に対しては,Peregrine (1967, J. Fluid Mech.) で導出された標準的な線形ブシネスク方程式を数値的に解く,線形ブシネスク型分散波 (linear Boussinesq-type waves: LBW) モデルがしばしば用いられる (Saito et al., 2010, JGR; Fukao et al., 2018, Sci. Adv.など).しかしながら,この津波モデルが用いている分散項の近似による位相速度の誤差や,近年の研究 (Watada et al., 2014, JGR; Ho et al., 2017, JGRなど) で明らかにされた海水の圧縮性・地球の弾性・海水密度成層・重力変動による津波の位相速度低下の効果について,海域を伝播する津波の短周期帯域における影響を詳しく調べた研究はほとんどない.

そこでまず,LBWモデルと非圧縮・非粘性の線形重力波 (linear gravity wave: LGW) モデルの分散関係を反復法によって計算し (Sandanbata et al., 2018, PAGEOPH),両者を比較することでLBWモデルの分散項近似による位相速度の誤差の影響を考察した.LBWモデルの分散関係は,LGWモデルの分散関係の展開式を kD(kは波数,Dは水深)の二次の項までを近似したものに相当する.両分散関係の比較によって,長周期成分では近似による位相速度の誤差は小さい一方で,短周期になるにつれて急激に誤差が増大し,LBWモデルの位相速度が低下する.そのためLBWモデルを用いた数値計算においては,短周期成分が極端に遅く伝播するという問題が示唆される.

次に,津波の分散性に加えて,海水の圧縮性・地球の弾性・海水密度成層・重力変化による速度低下の効果を含む津波モデル (the PREM Earth model with stratified oceanic layers: sPREMモデル) の分散関係を計算し (Ho et al., 2017),LGWモデルとの比較によって上記四つの要因による速度低下の影響を調べた.Fig.1a で示すように短周期帯域においては位相速度低下の絶対値は長周期帯域に比べて小さい.しかしながら,津波が一様水深の海域を100 km伝播することで蓄積する走時遅れを各周期で規格化すると,一周期に対する相対的な走時遅れは短周期帯域 (100-500秒) でより大きな値をとる (Fig.1b).このことは,短周期の津波の方が長周期の津波に比べて,速度低下効果による波形変化がより波源に近い観測点で顕著に現れることを示唆する.例えば,津波が4 km水深の海域を進む際に,周期の10 %の走時遅れが蓄積するのに必要な伝播距離を周期1,000秒と周期300秒についてそれぞれ計算すると,周期1,000秒では約3,333 km (=10[%]/0.3[%/100km]) であるのに対し,周期300秒では約833 km (=10[%]/1.2[%/100km]) と計算される.

本研究では,上記で示した (A) 分散項の近似による位相速度誤差と,(B) 圧縮性海水・弾性体地球・海水密度成層・重力変化による速度低下効果の双方を考慮した「短周期津波の位相補正手法」を提案する.まず有限差分法による津波計算コード・JAGURS (Baba et al., 2015) を用いて,LBWモデルに基づく津波波動場を計算する.その際,海底水圧計での津波観測記録との比較のため,近貞ほか (2018, SSJ) の手法にならってタイムステップごとに津波波動場に 1/cosh(kD) の二次元空間フィルターをかけることで,短周期津波に伴う水深による圧力変動の減衰効果を考慮する.さらに Ho et al. (2017) の位相補正項を修正した式を用いて,伝播中に蓄積するLBWモデルとsPREMモデルの位相差を分散関係から評価し,LBWの計算波形に対して位相補正を施し,sPREMモデルの分散関係に基づく津波計算波形を得る.

本手法を,2015年鳥島近海の火山性津波地震で発生した津波の波源モデル (Fukao et al., 2018) を用いた津波計算波形に適用し,DONET・DART・臨時観測点から成る37の海底水圧計での津波波形を計算した.その結果,sPREMモデルの分散関係を持つ位相補正波形は,LBWモデルに基づくJAGURS計算波形と比較して以下の特徴が得られた; (1) 後続波の短波長に富んだエネルギー波束の走時が短くなるとともに,波形が大きく変化する,(2) 伝播距離が500 km以上の観測点においては,伝播距離が長くなるほど顕著な走時遅れが見られる.以上で示した位相補正による計算波形の変化はそれぞれ,(A) 分散項の近似と (B) 位相速度低下の効果が,短周期津波の波形計算において無視できない影響を与えていることを示している.本手法を用いることで,これらの効果を数値計算に組み込み,短周期成分に富んだ津波波形をより高精度に計算することができる.さらに本手法で計算したグリーン関数を用いた津波波形インバージョンによって,短周期津波を発生させる小規模な地震や海底地すべりに対してより高精度な波源解析が可能になる.