日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S17. 津波

[S17]AM-2

2019年9月17日(火) 10:45 〜 12:15 C会場 (総合研究8号館NSホール)

座長:久保田 達矢(防災科学技術研究所)、楠本 聡(海洋研究開発機構)

11:45 〜 12:00

[S17-10] 遠地津波波形を用いた安政東海地震の発震時刻の推定

*楠本 聡1、今井 健太郎1、大林 涼子1、堀 高峰1、高橋 成実2,1、谷岡 勇市郎3 (1. 海洋研究開発機構、2. 防災科学技術研究所、3. 北海道大学)

南海トラフ沿いの沈み込み帯では,巨大地震と津波がおおよそ100から200年の間隔で繰り返し発生している.このうち1854年安政東海地震は12月23日午前9時15分頃に発生し,その後およそ30時間後に安政南海地震が発生したことが史料調査から明らかとなっているが,その正確な津波励起時刻については未だ意見が分かれている(例えば,日本地震史料, 1951; 中央防災会議, 2005).これらの地震によって生じた津波はアメリカ西岸の検潮所で観測されていることが分かっており(例えば, Uno et al., 2018, ACES),本研究では,大森 (1913)に記載されたオレゴン州アストリア,カルフォルニア州サンフランシスコ及びサンディエゴの潮位記録をデジタル化し,津波伝播の数値シミュレーションと比較することで安政東海地震の津波励起時刻の推定を試みた.

 まず,紙面媒体の潮位記録に対してGolden Software製Didger 4を用いて等間隔で数値化を行った.次にデジタル化した潮汐記録と理論潮汐を比較することで時刻補正を行い,その後0.0005 Hzのハイパスフィルターによ り潮汐成分を取り除いた.津波伝播の数値シミュレーションにはJAGURS(Baba et al., 2015)を使用し,非線形長波理論と津波荷重による地球の弾性変形や海水密度効果を考慮した非線形分散波理論に基づいてそれぞれの検潮所で津波波形を計算した.観測津波波形と計算津波波形を比較するにあたって,記録が紙媒体であることや開発初期の潮位計で振幅に対する感度が悪いこと,数値計算には人工構造物を含んだ現在の地形データを使用していることを踏まえて,津波の第一~三波の相互相関係数に基づいて津波初動の到達時刻を推定した.

 デジタル化した潮位波形には安政東海地震の津波波形が明瞭に記録されていた.計算波形と観測波形を比較したところ,振幅はどの潮位計でも観測より大きくなった.この原因は数値計算に用いた現在の地形と安政東海津波が来襲した当時の地形が大きく異なることに起因するものと考えられる.本発表では,これらの検潮記録と数値シミュレーションの結果を基に安政東海地震の津波励起時刻について議論する.

謝辞:本研究はJSPS科研費(16H03146),H25-R1年度文部科学省「南海トラフ広域地震防災研究プロジェクト」(研究代表者:海洋研究開発機構 金田義行)の一環として行われました.