17:00 〜 18:30
[S17P-03] 理論津波波形を用いた断層すべり分布のインヴァージョンの検討
1.はじめに
本研究では、極座標系において、津波の理論波形を計算し、断層のすべり量分布を求める線形インヴァージョンプログラムを作成した。ここでは、線形長波、線形分散波、さらには、非線形長波、非線形分散波のそれぞれに対して、その精度の検討を行った。津波波形の計算にはオープンソースのJAGURS(Baba et al., 2015)を利用した。さらに、非線形長波の理論波形を観測データとして、線形長波でグリーン関数を計算した場合のインヴァージョン結果についても評価を行った。
2.方法とモデル
まず、断層面上のすべり分布によって生じた津波が、断層面を格子状に区切った複数の各小断層でのすべりによって生じる津波波形を断層面全体にわたって足し合わせることで表現できるものと仮定した。ここでは、大断層、及び各小断層のすべり角は既知として、同一の値を与えた。このとき、𝒘を大断層でのすべり分布に伴う各観測点での理論津波波形(既知量)、𝑮を各小断層での単位すべりによって生じる各観測点での理論津波波形(グリーン関数、既知量)、𝒅を各小断層でのすべり量(未知量)とすると、これらは𝒘=𝑮𝒅の行列の関係式で書き表すことができる。両辺に左からグリーン関数の行列の転置行列をかけ、ガウスの消去法を用いることによって、未知パラメター𝒅を求めた。
本研究では、関東地方の沖合いの海底地形を用い、観測点は、銚子漁港、布良、八丈島(神湊)、南伊豆の4点とした。房総沖の海底地形データとしてGEBCOの30秒データを使用した。非線形分散波の場合は、それに加えて、沿岸部をより細かく区切る地形ネスティングのために、2011年東北地方太平洋沖地震後に内閣府の南海トラフ巨大地震モデル検討会で用いられたメッシュデータを沿岸部に適用した。提供されているデータのうち日本平面直角座標系第9系の30m、90m、270mの3種類のメッシュデータを使用した。元のデータは直交座標系であるが、GEBCOと組み合わせるためにXYBL TOOL4を用い、緯度・経度へ変換して使用した。断層を房総半島沖合いに配置し、断層パラメターは、断層の長さ250 km、断層の幅125 km、深さ0 km、傾斜角20°、すべり角90°、走向190°とし、すべり量は1.0 mと0.0mを格子状(チェッカーボード)に与えた。断層面を5×5の25個の50 km×25 kmの大きさの小断層に区切り、4観測点での津波の理論波形を4000秒まで計算し、第1波のみを用いたインヴァージョンを行った。
3.結果と考察
線形長波、線形分散波、非線形長波、非線形分散波のそれぞれの場合に対して、各小断層でのすべり量25個を未知数とするチェッカーボードテストを行ったところ、これら4種類のいずれの津波の場合でも、小数点以下3桁の精度で解を求めることができた。ちなみに、非線形長波と非線形分散波の場合で、4000秒までの波形を用いてインヴァージョンを行ったところ、正しい解を得ることはできなかった。これは、非線形の津波データを用いて、線形インヴァージョンのスキームで問題を解こうとしたためと考えられる。別の言い方をすれば、非線形長波や非線形分散波であっても、第1波のみを用いることで、線形性が成り立ち、線形インヴァージョンのスキームで解くことができることを示している。
また、非線形長波で上記の𝒘を、線形長波で上記の𝑮を計算して、第1波のみを用いたインヴァージョンを行ったところ、𝒘と𝑮𝒅の理論波形は、多少の誤差はあるものの両者でほぼ一致し、与えたすべり量と得られたすべり量も、小数点以下1桁の精度で一致した。このことは、上記のような海岸に観測点が位置している場合で、非線形長波を仮定して得られた津波波形に対して、線形長波でグリーン関数を計算して、第1波のみを用いてインヴァージョンを行った場合、断層面上で概ね正しいすべり分布を求めることができる、ということを示唆している。
謝辞:末永伸明氏(神戸大学)には、JAGURSの動作に関する技術的支援を頂きました。また、長田史應氏(大阪大学)には、海底地形のデータを使用させて頂きました。記して感謝致します。
本研究では、極座標系において、津波の理論波形を計算し、断層のすべり量分布を求める線形インヴァージョンプログラムを作成した。ここでは、線形長波、線形分散波、さらには、非線形長波、非線形分散波のそれぞれに対して、その精度の検討を行った。津波波形の計算にはオープンソースのJAGURS(Baba et al., 2015)を利用した。さらに、非線形長波の理論波形を観測データとして、線形長波でグリーン関数を計算した場合のインヴァージョン結果についても評価を行った。
2.方法とモデル
まず、断層面上のすべり分布によって生じた津波が、断層面を格子状に区切った複数の各小断層でのすべりによって生じる津波波形を断層面全体にわたって足し合わせることで表現できるものと仮定した。ここでは、大断層、及び各小断層のすべり角は既知として、同一の値を与えた。このとき、𝒘を大断層でのすべり分布に伴う各観測点での理論津波波形(既知量)、𝑮を各小断層での単位すべりによって生じる各観測点での理論津波波形(グリーン関数、既知量)、𝒅を各小断層でのすべり量(未知量)とすると、これらは𝒘=𝑮𝒅の行列の関係式で書き表すことができる。両辺に左からグリーン関数の行列の転置行列をかけ、ガウスの消去法を用いることによって、未知パラメター𝒅を求めた。
本研究では、関東地方の沖合いの海底地形を用い、観測点は、銚子漁港、布良、八丈島(神湊)、南伊豆の4点とした。房総沖の海底地形データとしてGEBCOの30秒データを使用した。非線形分散波の場合は、それに加えて、沿岸部をより細かく区切る地形ネスティングのために、2011年東北地方太平洋沖地震後に内閣府の南海トラフ巨大地震モデル検討会で用いられたメッシュデータを沿岸部に適用した。提供されているデータのうち日本平面直角座標系第9系の30m、90m、270mの3種類のメッシュデータを使用した。元のデータは直交座標系であるが、GEBCOと組み合わせるためにXYBL TOOL4を用い、緯度・経度へ変換して使用した。断層を房総半島沖合いに配置し、断層パラメターは、断層の長さ250 km、断層の幅125 km、深さ0 km、傾斜角20°、すべり角90°、走向190°とし、すべり量は1.0 mと0.0mを格子状(チェッカーボード)に与えた。断層面を5×5の25個の50 km×25 kmの大きさの小断層に区切り、4観測点での津波の理論波形を4000秒まで計算し、第1波のみを用いたインヴァージョンを行った。
3.結果と考察
線形長波、線形分散波、非線形長波、非線形分散波のそれぞれの場合に対して、各小断層でのすべり量25個を未知数とするチェッカーボードテストを行ったところ、これら4種類のいずれの津波の場合でも、小数点以下3桁の精度で解を求めることができた。ちなみに、非線形長波と非線形分散波の場合で、4000秒までの波形を用いてインヴァージョンを行ったところ、正しい解を得ることはできなかった。これは、非線形の津波データを用いて、線形インヴァージョンのスキームで問題を解こうとしたためと考えられる。別の言い方をすれば、非線形長波や非線形分散波であっても、第1波のみを用いることで、線形性が成り立ち、線形インヴァージョンのスキームで解くことができることを示している。
また、非線形長波で上記の𝒘を、線形長波で上記の𝑮を計算して、第1波のみを用いたインヴァージョンを行ったところ、𝒘と𝑮𝒅の理論波形は、多少の誤差はあるものの両者でほぼ一致し、与えたすべり量と得られたすべり量も、小数点以下1桁の精度で一致した。このことは、上記のような海岸に観測点が位置している場合で、非線形長波を仮定して得られた津波波形に対して、線形長波でグリーン関数を計算して、第1波のみを用いてインヴァージョンを行った場合、断層面上で概ね正しいすべり分布を求めることができる、ということを示唆している。
謝辞:末永伸明氏(神戸大学)には、JAGURSの動作に関する技術的支援を頂きました。また、長田史應氏(大阪大学)には、海底地形のデータを使用させて頂きました。記して感謝致します。