17:00 〜 18:30
[S17P-04] 日本近海に設置された海底圧力計が捉えた2010年チリ地震に伴う地震レイリー波と津波の群速度分散
沖合で発生した地震に伴う津波の観測には,沿岸の検潮記録が古くから用いられてきた (e.g. Satake & Kanamori 1991 PAGEOPH).1980年代になると海底圧力計が海域に展開されるようになり,津波の観測に用いられてきた (e.g.Rabinovich & Eblé 2015 PAGEOPH).このように海底圧力計は津波,あるいは海底の地殻変動の観測を主目的として展開されてきたが,近年,海底圧力計の観測記録のうち,海洋音響波の卓越周期 (~10 s) より低い周波数帯域の成分は海底上下動加速度に比例することが理論的に示され (e.g. An et al. 2017 GRL; Saito 2019 Springer Geophys),海底圧力計が海底上下動加速度計として活用可能であることが示されつつある (Kubota et al. 2017 GRL).
巨大地震に伴う津波が海底圧力計で観測されるという事例はこれまで数多く報告されている (e.g. Saito et al. 2010 GRL).Saito et al. (2010) は,日本近海の海底圧力計によって観測された2010年チリ地震 (Mw8.8) による津波には,短周期の波ほど遅れて到達する津波分散性を確認した.しかし,海底の地震動に起因する圧力変動については詳細に調べられていなかった.本研究では,2010年チリ地震について,日本近海での海底圧力計の記録に観測点の記録を解析し,かつ,沿岸検潮記録など他の記録と比較を行い,海底圧力計により捉えられているシグナルの成因について詳細に検討した.
本研究では,釧路沖,室戸沖,相模湾に展開されたケーブル式海底圧力計 (Eguchi et al. 1998 MGR; Hirata et al. 2002 IEEE Journal) および東北大学により設置された自己浮上式海底圧力計 (e.g. Kubota et al. 2017EPSL) の記録を用いた.潮汐成分を取り除くため1Hzサンプル波形記録にカットオフ3時間のハイパスフィルタを適用し,スペクトログラム (1024sの時間窓を10sずつ移動してフーリエスペクトルを計算) を作成した.
海底圧力計のスペクトログラムでは,地震発生から24 – 72時間後にかけて,明瞭な分散性を示す波群 (周期~60 – 1000秒) が確認できる.これはSaito et al. (2010) で指摘されものと同じく,津波による圧力変動であり,チリから日本までの平均水深4 kmと伝播距離約17000 kmを考えることにより説明できた.さらに,地震発生から約20分後に周期 ~5 – 15秒程度の波群が到達する.波群の初動の到達時刻は,近傍の沿岸に設置されたF-net陸上地震計に到達するP波到達時刻とよく一致することから,これらの波群は実体波 (body wave) に伴う圧力変化と考えられる.さらに,地震から約70分後に明瞭な分散性を示す波群 (周期~10 – 50 s) が観測された.この波群について,AK-135構造モデル (Kennet et al. 1995 GJI) から期待される地震波レイリー波の群速度によりこの分散性が非常によく説明できた.したがって,この波群はレイリー波による海底の上下動加速度に由来する動圧変動である.
比較のため,沿岸の検潮記録についても同様の手順でスペクトログラムを計算したところ,津波の分散性は明瞭に確認できなかった.これはサンプリング間隔が粗い (~ 30 – 60秒) ことと,沿岸地形などのサイト効果 (e.g.Geist 2018 PAGEOPH) が原因と考えられる.F-net陸上地震計の記録においては,実体波・レイリー波によるシグナルは明瞭に確認できたが,上下動成分から津波の分散性は確認できなかった.
これまで,海底圧力計は,沿岸地形の影響を受けないことから津波波動現象の理解に貢献してきた (Saito 2019).海底圧力計は遠地地震による表面波の分散性も詳細に捉えていたことから,海域における地震波動現象の理解にも貢献しうることを示している.さらに,震源域の直上に圧力計がある場合には海底永久変位も観測可能であることを考えると,海底圧力計は非常に広い周波数帯域での地震現象を観測可能である.地震の発生から地震波の伝播および津波の発生から伝播までの地震現象の一連の過程を詳細に調べるためには,海底圧力計が重要な役割を果たすことを示している.
謝辞:本研究ではJAMSTECと東北大学と防災科学技術研究所の海底圧力計,国土地理院と海上保安庁の沿岸検潮の記録を使用しました.記して感謝いたします.
巨大地震に伴う津波が海底圧力計で観測されるという事例はこれまで数多く報告されている (e.g. Saito et al. 2010 GRL).Saito et al. (2010) は,日本近海の海底圧力計によって観測された2010年チリ地震 (Mw8.8) による津波には,短周期の波ほど遅れて到達する津波分散性を確認した.しかし,海底の地震動に起因する圧力変動については詳細に調べられていなかった.本研究では,2010年チリ地震について,日本近海での海底圧力計の記録に観測点の記録を解析し,かつ,沿岸検潮記録など他の記録と比較を行い,海底圧力計により捉えられているシグナルの成因について詳細に検討した.
本研究では,釧路沖,室戸沖,相模湾に展開されたケーブル式海底圧力計 (Eguchi et al. 1998 MGR; Hirata et al. 2002 IEEE Journal) および東北大学により設置された自己浮上式海底圧力計 (e.g. Kubota et al. 2017EPSL) の記録を用いた.潮汐成分を取り除くため1Hzサンプル波形記録にカットオフ3時間のハイパスフィルタを適用し,スペクトログラム (1024sの時間窓を10sずつ移動してフーリエスペクトルを計算) を作成した.
海底圧力計のスペクトログラムでは,地震発生から24 – 72時間後にかけて,明瞭な分散性を示す波群 (周期~60 – 1000秒) が確認できる.これはSaito et al. (2010) で指摘されものと同じく,津波による圧力変動であり,チリから日本までの平均水深4 kmと伝播距離約17000 kmを考えることにより説明できた.さらに,地震発生から約20分後に周期 ~5 – 15秒程度の波群が到達する.波群の初動の到達時刻は,近傍の沿岸に設置されたF-net陸上地震計に到達するP波到達時刻とよく一致することから,これらの波群は実体波 (body wave) に伴う圧力変化と考えられる.さらに,地震から約70分後に明瞭な分散性を示す波群 (周期~10 – 50 s) が観測された.この波群について,AK-135構造モデル (Kennet et al. 1995 GJI) から期待される地震波レイリー波の群速度によりこの分散性が非常によく説明できた.したがって,この波群はレイリー波による海底の上下動加速度に由来する動圧変動である.
比較のため,沿岸の検潮記録についても同様の手順でスペクトログラムを計算したところ,津波の分散性は明瞭に確認できなかった.これはサンプリング間隔が粗い (~ 30 – 60秒) ことと,沿岸地形などのサイト効果 (e.g.Geist 2018 PAGEOPH) が原因と考えられる.F-net陸上地震計の記録においては,実体波・レイリー波によるシグナルは明瞭に確認できたが,上下動成分から津波の分散性は確認できなかった.
これまで,海底圧力計は,沿岸地形の影響を受けないことから津波波動現象の理解に貢献してきた (Saito 2019).海底圧力計は遠地地震による表面波の分散性も詳細に捉えていたことから,海域における地震波動現象の理解にも貢献しうることを示している.さらに,震源域の直上に圧力計がある場合には海底永久変位も観測可能であることを考えると,海底圧力計は非常に広い周波数帯域での地震現象を観測可能である.地震の発生から地震波の伝播および津波の発生から伝播までの地震現象の一連の過程を詳細に調べるためには,海底圧力計が重要な役割を果たすことを示している.
謝辞:本研究ではJAMSTECと東北大学と防災科学技術研究所の海底圧力計,国土地理院と海上保安庁の沿岸検潮の記録を使用しました.記して感謝いたします.