2:05 PM - 2:25 PM
[S20-03] [INVITED]Mathematical modeling of interface effects on dynamic rupture
1. はじめに
「断層」という言葉は文字通り、震源と媒質境界の位置関係の重要性を表わすものであり、またプレート境界など媒質境界そのものが断層である事例も多い。しかし媒質境界が断層の動的挙動に及ぼす影響を定量化する理論的研究は、異種媒質の固着という境界条件の下、その動的問題の解を構成する数学的・数値的モデリングの難しさに律速される。そこで理論研究では単純化のため、直線的な媒質境界を含む2次元2層弾性媒質中の亀裂を考えることが多い。ここでは媒質境界と交差する亀裂、および媒質境界に沿う亀裂のそれぞれについて、著者による理論的研究を紹介する。
2. 媒質境界と交差する亀裂の動的破壊
媒質境界と交差する断層の挙動の理解は、地震学的な地下の解像度を考慮すれば、観測よりも理論的なモデリングに頼るところが大きい。準静的問題については、直線亀裂 [Rivalta et al. 1999]や屈曲亀裂 [Hirano & Yamashita 2011] などを仮定した多くの解析的・数値的研究事例がある。これに対し動的破壊が媒質境界を突き破る際の挙動については、著者らが極めて精密な数値解析を可能にした。
Hirano & Yamashita [2015] は震源物理学における境界積分方程式法(BIEM)を拡張し、媒質境界と交差する動的 mode-III 破壊の数値解析を行なった。BIEM は滑りに伴う Green 関数の具体的表現を要する。これを解析的に求めることに成功し、数値計算を実施した結果、断層面上を駆け戻る反射波が滑りを促進あるいは抑制することを確かめた。このことは、近年提案された高速滑りにおける速度依存型摩擦則との相互作用により、破壊伝播や滑り分布が時空間的に複雑たりうることを示唆する。また導出した Green 関数由来の積分核は、それ単独でもある種の転位から放射される2層媒質中の弾性波の厳密解を与え、既に後発の数値計算手法 [Kusakabe & Kame 2017] にとってのベンチマークとなるなど、有益な応用可能性を持つ。
3. 媒質境界に沿う亀裂の動的破壊
プレート境界などは媒質境界に沿って動的破壊が伝播する典型的な場所であり、その地震発生頻度や観測データの豊富さから、多くの研究が試みられてきた。特に境界に沿う動的刃状転位が特定の一方向に走りやすいような法線応力擾乱を作り出すことが理論的に示されると[Weertman 1980]、以来それを基にした数値解析の結果が地震学的・地質学的観測と比較され、トランスフォーム断層のような境界に沿って mode-II 破壊が一方向に伝播しやすい傾向が確かめられた。理論的進展は80年代以降乏しかったが、Hirano & Yamashita [2016] によって、滑り弱化型摩擦下で一方向破壊を生じやすいことの裏付けも得られた。
一方で沈み込み帯の長大逆断層では、2004年 Sumatra 地震のように時として海溝軸に沿う一方向破壊が伝播し、その変位は mode-III 破壊によってよく近似される。ところが媒質境界に沿う mode-III 破壊が作る応力擾乱は対称であり、非対称な破壊を説明するとは考えられておらず、一般に両方向ではなく一方向破壊に終わりやすい理由は謎とされていた[McGuire et al. 2002]。
Hirano [2019] は媒質境界の効果だけでなく、海洋プレートが海溝軸に対し斜めに沈み込むこと、および動的破壊により断層面外に非弾性変形が生じることの3つが合わさって非対称なエネルギー散逸率が生じ、 mode-III 破壊が一方向に伝播しやすくなるメカニズムを提案した。更に Sumatra 地震を含め既知の M8.2 以上の海溝型巨大地震について、11イベント中少なくとも8イベントが理論と整合的な方向に破壊している可能性を論じた。これは強震動や津波到達時間の分布など、海溝型地震の一方向破壊がもたらす影響を予測する手がかりとなりうる結果である。
4. 終わりに
以上のように、著者は2層媒質中における破壊の問題を理論的に扱ってきたが、その工程は、断層面上に応力の時空間分布を与え、滑りの時空間分布を求めるための特異積分方程式を解く作業であった。静的・動的いずれにせよこの工程は難易度が高く、安易な数値計算に頼れば極めて精度の低い解しか得られない。これを高精度に解くための解析的・数値的アプローチは、地震学者のみならず、応用数学・計算工学者らの興味も惹いてきた。講演では、著者の経験に基づくそれら異分野研究者らとの学際的協働の可能性にも触れる。
「断層」という言葉は文字通り、震源と媒質境界の位置関係の重要性を表わすものであり、またプレート境界など媒質境界そのものが断層である事例も多い。しかし媒質境界が断層の動的挙動に及ぼす影響を定量化する理論的研究は、異種媒質の固着という境界条件の下、その動的問題の解を構成する数学的・数値的モデリングの難しさに律速される。そこで理論研究では単純化のため、直線的な媒質境界を含む2次元2層弾性媒質中の亀裂を考えることが多い。ここでは媒質境界と交差する亀裂、および媒質境界に沿う亀裂のそれぞれについて、著者による理論的研究を紹介する。
2. 媒質境界と交差する亀裂の動的破壊
媒質境界と交差する断層の挙動の理解は、地震学的な地下の解像度を考慮すれば、観測よりも理論的なモデリングに頼るところが大きい。準静的問題については、直線亀裂 [Rivalta et al. 1999]や屈曲亀裂 [Hirano & Yamashita 2011] などを仮定した多くの解析的・数値的研究事例がある。これに対し動的破壊が媒質境界を突き破る際の挙動については、著者らが極めて精密な数値解析を可能にした。
Hirano & Yamashita [2015] は震源物理学における境界積分方程式法(BIEM)を拡張し、媒質境界と交差する動的 mode-III 破壊の数値解析を行なった。BIEM は滑りに伴う Green 関数の具体的表現を要する。これを解析的に求めることに成功し、数値計算を実施した結果、断層面上を駆け戻る反射波が滑りを促進あるいは抑制することを確かめた。このことは、近年提案された高速滑りにおける速度依存型摩擦則との相互作用により、破壊伝播や滑り分布が時空間的に複雑たりうることを示唆する。また導出した Green 関数由来の積分核は、それ単独でもある種の転位から放射される2層媒質中の弾性波の厳密解を与え、既に後発の数値計算手法 [Kusakabe & Kame 2017] にとってのベンチマークとなるなど、有益な応用可能性を持つ。
3. 媒質境界に沿う亀裂の動的破壊
プレート境界などは媒質境界に沿って動的破壊が伝播する典型的な場所であり、その地震発生頻度や観測データの豊富さから、多くの研究が試みられてきた。特に境界に沿う動的刃状転位が特定の一方向に走りやすいような法線応力擾乱を作り出すことが理論的に示されると[Weertman 1980]、以来それを基にした数値解析の結果が地震学的・地質学的観測と比較され、トランスフォーム断層のような境界に沿って mode-II 破壊が一方向に伝播しやすい傾向が確かめられた。理論的進展は80年代以降乏しかったが、Hirano & Yamashita [2016] によって、滑り弱化型摩擦下で一方向破壊を生じやすいことの裏付けも得られた。
一方で沈み込み帯の長大逆断層では、2004年 Sumatra 地震のように時として海溝軸に沿う一方向破壊が伝播し、その変位は mode-III 破壊によってよく近似される。ところが媒質境界に沿う mode-III 破壊が作る応力擾乱は対称であり、非対称な破壊を説明するとは考えられておらず、一般に両方向ではなく一方向破壊に終わりやすい理由は謎とされていた[McGuire et al. 2002]。
Hirano [2019] は媒質境界の効果だけでなく、海洋プレートが海溝軸に対し斜めに沈み込むこと、および動的破壊により断層面外に非弾性変形が生じることの3つが合わさって非対称なエネルギー散逸率が生じ、 mode-III 破壊が一方向に伝播しやすくなるメカニズムを提案した。更に Sumatra 地震を含め既知の M8.2 以上の海溝型巨大地震について、11イベント中少なくとも8イベントが理論と整合的な方向に破壊している可能性を論じた。これは強震動や津波到達時間の分布など、海溝型地震の一方向破壊がもたらす影響を予測する手がかりとなりうる結果である。
4. 終わりに
以上のように、著者は2層媒質中における破壊の問題を理論的に扱ってきたが、その工程は、断層面上に応力の時空間分布を与え、滑りの時空間分布を求めるための特異積分方程式を解く作業であった。静的・動的いずれにせよこの工程は難易度が高く、安易な数値計算に頼れば極めて精度の低い解しか得られない。これを高精度に解くための解析的・数値的アプローチは、地震学者のみならず、応用数学・計算工学者らの興味も惹いてきた。講演では、著者の経験に基づくそれら異分野研究者らとの学際的協働の可能性にも触れる。