Seismological Society of Japan Fall Meeting

Presentation information

award lecture

General session » S20. Award Ceremony and Lecture

[S20]PM-1

Mon. Sep 16, 2019 1:15 PM - 2:25 PM ROOM A (Clock Tower Centennial Hall)

chairperson:Kazutoshi Imanishi(AIST), Jun Kawahara(Ibaraki University)

1:45 PM - 2:05 PM

[S20-02] [INVITED]Data assimilation towards understanding and predicting slip behavior on subducting plates and reconstructing better seismic wavefields

*Masayuki Kano1 (1. Graduate School of Science, Tohoku University)

大気海洋分野で先駆的に研究されているデータ同化はベイズ統計学に基づき物理数値モデルに観測データを統融合する計算技術である。従来の地震学では観測データ解析と物理数値モデリングは独立に行われることが多かったが、近年の地殻変動・地震観測網の充実や計算機性能の向上に伴い、緊急地震速報や波動場・津波の即時予測などの研究においてデータ同化の有効性が示されている[例えばHoshiba and Aoki, 2015; Maeda et al. 2015; Gusman et al. 2016; Wang et al. 2017; Furumura et al. 2019]。筆者らは、以下に述べるように、これまでデータ同化を用いて余効すべりやスロー地震などの沈み込み帯の断層すべりの理解や予測、地震波動場推定の高度化に向けた研究を行ってきた。本講演では、行ってきた研究の概要を時系列に従って、その経緯を踏まえながら紹介する予定である。

(1)アジョイント法による余効すべり発生域の摩擦特性の解明と余効すべりの予測
プレート沈み込み帯で観測される様々な時定数を持つ断層すべり現象は、主にプレート境界面の摩擦特性の違いを反映していると考えられる[例えばYoshida and Kato, 2003]。従って摩擦特性を観測データから推定することにより、より定量的にプレート境界のすべりの挙動を知ることができる。加納他[2010]やKano et al. [2013]は、速度状態依存摩擦構成則を仮定して計算される断層すべりの数値シミュレーションに、断層すべり速度を観測データとしてアジョイント法により同化し、プレート境界の摩擦特性を推定する手法を開発した。さらに、2003年十勝沖地震の余効すべり発生域の摩擦特性の空間分布を推定し、余効すべりの予測性能が向上することを示した[Kano et al. 2015]。この成果は地殻変動データから摩擦特性が推定できること、断層すべりの予測問題に対するデータ同化の有効性を示している。
一方で、アジョイント法は大自由度の問題に対して適用可能ではあるが、最適値のみを推定するため、推定した摩擦特性やすべりの状態の推定誤差の評価が困難であった。近年、二次のアジョイント法を用いてより簡便に不確実性を評価する方法が確立されたため[Ito, Nagao, Kano et al. 2016]、この手法をプラグインすることで、今後不確実性を含む摩擦特性の推定や断層すべりの時空間発展の予測が可能になることが期待される。

(2)レプリカ交換モンテカルロ法による地震動イメージング
大地震発生時に都市の構造物における地震応答を数値計算で即時的に評価することは、救助活動の円滑化や二次災害の軽減に向けて重要な課題である。この地震応答の計算には、構造物直下における地震動が入力として必要となる。Kano et al. [2017a, GJI]は、限られた地震観測点での波形記録から、地下構造に関するパラメータを推定することで構造物直下における波動場を推定する手法を開発した。その際、マルコフ連鎖モンテカルロ法の一種である、レプリカ交換モンテカルロ(REMC)法を用い、推定するパラメータの事後確率分布からの実現値を得た。REMC法は、特に多峰性のある確率分布から効率よくサンプリングが可能な手法である。開発手法を首都圏地震観測網(MeSO-net)で得られた地震記録に適用し、周期3秒程度以上の長周期の地震波動場の推定が行えることを示した[Kano et al. 2017b, JGR]。推定手法の更なる高度化により、地震発生時の即時的な被害推定や二次災害の軽減への貢献が期待される。

(3)スロー地震発生場の理解と予測に向けた研究
(1)で開発した手法をスロー地震(特にスロースリップイベント, SSE)に用いることを念頭に[例えばHirahara and Nishikiori, in revision; 伊藤他、本大会]、観測データに基づきスロー地震の発生場の理解に関する基礎研究を行った。
Kano et al. [2018a, Sci Rep]は、四国西部の深部低周波微動活動を詳細に調べ、微動の移動速度とエネルギー輻射レートの間に正の相関があること、またこの正の相関は沈み込み帯の微動パッチが数十kmスケールで走向方向に不均質な強度を持つというモデル[Ando et al., 2012]で定性的に説明されることを示した。また、この強度の不均質性と、微動の潮汐応答性、微動発生域周辺の流体分布の不均質性が対応していることを解明した。この結果は、スロー地震の発生様式が発生環境で規定されていることを示唆している。
また、Kano et al. [2018c, JGR]は八重山地方において約半年周期で発生している5回のSSEの断層すべりの時空間変化を推定し、超低周波地震や低周波地震との時空間的関係を議論した。これらのSSEはほぼ同じ場所・規模で発生するにも関わらず、断層すべりの加速の様式がSSE毎に異なっており、このことはプレート境界の摩擦特性や流体分布が時間変化する可能性を意味している。今後Kano et al. [2015]で開発したデータ同化手法を適用することで、摩擦特性が時間変化することを地殻変動データから初めて直接拘束できる可能性がある。
これらの研究で使用した各種スロー地震カタログは、「スロー地震データベース」[Kano et al. 2018b, SRL; 松澤ほか、本大会]から取得可能である。