10:15 〜 10:30
[S23-03] [招待講演]2019年に開始された「地震調査研究の推進について(第3期)」の概要
1.はじめに
2019年5月に地震調査研究推進本部(以下、「地震本部」)は、将来を展望した新たな地震調査研究の方針を示す「地震調査研究の推進について―地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策(第3期)―」(以下、「第3期総合基本施策」)を策定した。本稿では、この施策の背景と概要を紹介する。
2.背景
地震本部は、阪神・淡路大震災を契機として、1995年6月に制定された「地震防災対策特別措置法」(平成7年法律第111号)に基づいて、地震に関する調査研究を一元的に推進する機関として設置された。この法で定められた地震本部の役割は、(1)総合的かつ基本的な施策の立案、(2)関係行政機関の予算等の事務の調整、(3)総合的な調査観測計画の策定、(4)関係行政機関、大学等の調査結果等の収集、整理、分析及び総合的な評価、(5)上記の評価に基づく広報、である。
地震本部は、(1)の役割として、1999年4月に「地震調査研究の推進について―地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策―」(以下、「総合基本施策」)を、2009年4月に「新たな地震調査研究の推進について―地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策―」(以下、「新総合基本施策」)を策定した。(2)~(5)の役割は、地震防災対策の強化、特に地震による被害の軽減に資することを目標に、総合基本施策と新総合基本施策の方針の下で実施されてきた。なお、東日本大震災において地震調査研究に関する多くの課題等があったため、新総合基本施策は2012年9月に改訂された。
2019年5月に策定された第3期総合基本施策は、新総合基本施策の策定以降の環境の変化や地震調査研究の進展を踏まえて、地震本部が将来を展望した新たな地震調査研究を推進する今後10年間の基本方針である。
3.第3期総合基本施策の概要
第3期総合基本施策は、3章で構成され、その概要は図1及び下述のとおりである。
第1章「我が国の地震調査研究をめぐる諸情勢」では、地震調査研究の進捗、地震本部による成果、地震調査研究を取り巻く環境の変化について概説されている。地震本部が設置されて20年余りが経過する間に、地震調査研究の成果は着実に社会へと還元され始めているが、十分に活用が進んでいるとは言えない状況にあると分析されている。社会への成果の還元が進んだ例として、全国地震動予測地図や各種長期評価が、防災計画、地震保険の基準料率算定、耐震対策の計画に活用され始めたことが挙げられ、より活用できる例として、各種長期評価を行う過程で生み出される様々なデータや分析手法を建築物の耐震化等に活用できる可能性が指摘されている。
第2章「これからの地震本部の役割」では、新たな科学技術を積極的に活用して社会の期待を踏まえた成果を創出すべきこと、これからの地震調査研究の進むべき方向性、地震火山観測研究計画(建議)との連携強化等が示されている。地震調査研究の成果が今後更に防災・減災に貢献するためには、一般国民のみならず、地方公共団体や民間企業、NPO等にとってより活用しやすい成果を提供すること、また、これらの組織からの地震本部への期待を適切に地震本部における議論に反映する体制を構築していくことの必要性が示されている。
第3章「今後推進すべき地震調査研究」では、当面10年間に取り組むべき地震調査研究と横断的な事項について、基本目標と各基本目標の達成に向けてこの10年間に取り組むべき項目が示されている。取り組むべき地震調査研究として設定された基本目標は、海溝型地震の発生予測手法の高度化、津波予測技術(津波即時予測技術及び地震発生前に提供する津波予測の技術)の高度化、内陸で発生する地震の長期予測手法の高度化、大地震後の地震活動に関する予測手法の高度化、地震動即時予測及び地震動予測の高度化、社会の期待を踏まえた成果の創出~新たな科学技術の活用~、の6点である。また、横断的に取り組むべき事項として設定された基本目標は、基盤観測網等の長期にわたる安定的な維持・整備、地震調査研究における人材の育成・確保、地震調査研究の成果の広報活動の推進、国際的な連携の強化、の4点である。
4.おわりに
地震・津波に関する諸現象を解明・予測するための地震調査研究を進め、その成果を明確かつわかりやすい形で社会に示し、災害による被害軽減に貢献していく取組の重要性がより一層増しているとして、第3期総合基本施策は、「我が国が地震災害に対して強い国となるよう、オールジャパンとして、戦略を持ち、関係者一丸となって努力していかなければならない」と締めくくられている。
2019年5月に地震調査研究推進本部(以下、「地震本部」)は、将来を展望した新たな地震調査研究の方針を示す「地震調査研究の推進について―地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策(第3期)―」(以下、「第3期総合基本施策」)を策定した。本稿では、この施策の背景と概要を紹介する。
2.背景
地震本部は、阪神・淡路大震災を契機として、1995年6月に制定された「地震防災対策特別措置法」(平成7年法律第111号)に基づいて、地震に関する調査研究を一元的に推進する機関として設置された。この法で定められた地震本部の役割は、(1)総合的かつ基本的な施策の立案、(2)関係行政機関の予算等の事務の調整、(3)総合的な調査観測計画の策定、(4)関係行政機関、大学等の調査結果等の収集、整理、分析及び総合的な評価、(5)上記の評価に基づく広報、である。
地震本部は、(1)の役割として、1999年4月に「地震調査研究の推進について―地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策―」(以下、「総合基本施策」)を、2009年4月に「新たな地震調査研究の推進について―地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策―」(以下、「新総合基本施策」)を策定した。(2)~(5)の役割は、地震防災対策の強化、特に地震による被害の軽減に資することを目標に、総合基本施策と新総合基本施策の方針の下で実施されてきた。なお、東日本大震災において地震調査研究に関する多くの課題等があったため、新総合基本施策は2012年9月に改訂された。
2019年5月に策定された第3期総合基本施策は、新総合基本施策の策定以降の環境の変化や地震調査研究の進展を踏まえて、地震本部が将来を展望した新たな地震調査研究を推進する今後10年間の基本方針である。
3.第3期総合基本施策の概要
第3期総合基本施策は、3章で構成され、その概要は図1及び下述のとおりである。
第1章「我が国の地震調査研究をめぐる諸情勢」では、地震調査研究の進捗、地震本部による成果、地震調査研究を取り巻く環境の変化について概説されている。地震本部が設置されて20年余りが経過する間に、地震調査研究の成果は着実に社会へと還元され始めているが、十分に活用が進んでいるとは言えない状況にあると分析されている。社会への成果の還元が進んだ例として、全国地震動予測地図や各種長期評価が、防災計画、地震保険の基準料率算定、耐震対策の計画に活用され始めたことが挙げられ、より活用できる例として、各種長期評価を行う過程で生み出される様々なデータや分析手法を建築物の耐震化等に活用できる可能性が指摘されている。
第2章「これからの地震本部の役割」では、新たな科学技術を積極的に活用して社会の期待を踏まえた成果を創出すべきこと、これからの地震調査研究の進むべき方向性、地震火山観測研究計画(建議)との連携強化等が示されている。地震調査研究の成果が今後更に防災・減災に貢献するためには、一般国民のみならず、地方公共団体や民間企業、NPO等にとってより活用しやすい成果を提供すること、また、これらの組織からの地震本部への期待を適切に地震本部における議論に反映する体制を構築していくことの必要性が示されている。
第3章「今後推進すべき地震調査研究」では、当面10年間に取り組むべき地震調査研究と横断的な事項について、基本目標と各基本目標の達成に向けてこの10年間に取り組むべき項目が示されている。取り組むべき地震調査研究として設定された基本目標は、海溝型地震の発生予測手法の高度化、津波予測技術(津波即時予測技術及び地震発生前に提供する津波予測の技術)の高度化、内陸で発生する地震の長期予測手法の高度化、大地震後の地震活動に関する予測手法の高度化、地震動即時予測及び地震動予測の高度化、社会の期待を踏まえた成果の創出~新たな科学技術の活用~、の6点である。また、横断的に取り組むべき事項として設定された基本目標は、基盤観測網等の長期にわたる安定的な維持・整備、地震調査研究における人材の育成・確保、地震調査研究の成果の広報活動の推進、国際的な連携の強化、の4点である。
4.おわりに
地震・津波に関する諸現象を解明・予測するための地震調査研究を進め、その成果を明確かつわかりやすい形で社会に示し、災害による被害軽減に貢献していく取組の重要性がより一層増しているとして、第3期総合基本施策は、「我が国が地震災害に対して強い国となるよう、オールジャパンとして、戦略を持ち、関係者一丸となって努力していかなければならない」と締めくくられている。