13:30 〜 13:45
[S23-10] JAMSTECにおける地殻構造探査データのアーカイブと公開
海洋研究開発機構(JAMSTEC)では、1997年に深海調査研究船「かいれい」が竣工されてから本格的にマルチチャンネル反射法地震(MCS)探査や自己浮上型海底地震計(OBS)を用いた地震探査・自然地震観測による地殻構造研究を実施してきた(e.g., 小平, 2009, 地震2)。
JAMSTECの地殻構造探査は、年度毎の予算動向によって大きく変化するため、必ずしも測線数や実施航海数が年々増加しているというわけではないが、1測線あたりのデータ容量は10年前や20年前と比較すると明らかに増加している。それは、地震探査システムの高度化、コンピューティングの進展、ハードディスクの大容量化・低価格化などによって、受振チャンネル数・サンプリングレート・記録長が増加したことによる。また、OBSに関しても、1997年当初は十数台を使った観測であったが、現在は100台以上を用いる観測も特別ではなくなった。したがって、年々累積していくデータを消失させることなく、長期的に維持・管理することは重要な課題の1つであるため、得られたデータはJAMSTEC横浜研究所内のデータ保管室やサーバー上のハードディスクに保管し、定期的にバックアップを取っている。さらに、バックアップデータを収録したメディア一式は同じ横浜研究所のみではなく、大災害等に備えたデータの遠隔地バックアップとして沖縄県名護市にあるJAMSTEC国際海洋環境情報センターにも保管している。
一方、データを用いた解析・研究は、担当している研究員が責任を持って進めて成果発表しているが、データそのものはJAMSTECの中で定めている「データ・サンプルの取り扱いに関する基本方針」に則って原則的に公開している。その一環として、2004年から「地殻構造探査データベースサイト」(www.jamstec.go.jp/obsmcs_db/j/)というWebを開設し、取得されたデータや調査航海の詳細情報を記載し、データ自体はオフラインではあるが、データに関する問い合わせや利用申請に対応している(Kido et al. 2006, JAMSTEC-R)。
大まかではあるが、以上のようにJAMSTECでは地殻構造探査データのアーカイブと公開を進めているが、現状多くの課題がある。
1つはフォーマットの問題である。地殻構造探査で扱う波形データや測位データはSEG(アメリカ物理探査学会)による“SEG Technical Standards”で定めたフォーマットによって出力されており、解析や解釈で用いているソフトウェアはそれらのフォーマットが扱える仕様となっている。したがって、今後も多くのフォーマットに対応したソフトウェアとそれをインストールしているハードウェアを維持・管理し続けることは重要になるが、長期的な視点で考えるとその時代に応じたフォーマットへ変換していくことは大きな課題である。2つ目はデータの品質管理の問題である。データ取得方法やデータ処理方法は年々多様化してきている。また、調査実施した年度・時期、調査を実施した船舶、データ取得システムの仕様や状態、データ処理・解析方法によって品質は大きく異なり、さらに調査や解析を担当した研究員・技術員による違いもある。これらについて、どのように整理していくかも課題である。3つ目はデータを保管する媒体の問題である。データを収録している媒体の劣化も非常に大きい問題で、媒体の劣化をどのようにチェックし、媒体を読み込むためのデバイスの維持、バックアップや新しい媒体への移行のタイミングも課題である。4つ目は、予算・人材・時間の確保の問題である。現時点では地殻構造探査データの公開やアーカイブのための専任の人員がおらず、予算も非常に限られている。データの公開やアーカイブに関する重要性について否定する人はほとんどいない一方、専任の人材や予算を確保しようという動きにならない。そういう意味では少人数でできるようなシステムの効率化を図ることが1つの解決策になるが、容易なことではない。以上の4つの事例以外にも、データポリシーやデータDOI付与への問題など課題は数多い。
課題は多いが、地殻構造探査データのアーカイブと公開の重要性は年々増している。例えば、地殻構造探査データの利用や研究の裾野を広げ、新たな解析手法による新しい地殻構造イメージング(e.g., Kamei et al. 2012, EPSL)や地震前後のTime lapse解析による構造変化の抽出(e.g., Landrø et al. 2019, IJGGC)などデータ取得を行った当時には想定していなかった研究も展開されている。さらに、観測や解析の担当者の異動や退職のリスクに対してもアーカイブの維持・継承は重要になっている。
JAMSTECの地殻構造探査は、年度毎の予算動向によって大きく変化するため、必ずしも測線数や実施航海数が年々増加しているというわけではないが、1測線あたりのデータ容量は10年前や20年前と比較すると明らかに増加している。それは、地震探査システムの高度化、コンピューティングの進展、ハードディスクの大容量化・低価格化などによって、受振チャンネル数・サンプリングレート・記録長が増加したことによる。また、OBSに関しても、1997年当初は十数台を使った観測であったが、現在は100台以上を用いる観測も特別ではなくなった。したがって、年々累積していくデータを消失させることなく、長期的に維持・管理することは重要な課題の1つであるため、得られたデータはJAMSTEC横浜研究所内のデータ保管室やサーバー上のハードディスクに保管し、定期的にバックアップを取っている。さらに、バックアップデータを収録したメディア一式は同じ横浜研究所のみではなく、大災害等に備えたデータの遠隔地バックアップとして沖縄県名護市にあるJAMSTEC国際海洋環境情報センターにも保管している。
一方、データを用いた解析・研究は、担当している研究員が責任を持って進めて成果発表しているが、データそのものはJAMSTECの中で定めている「データ・サンプルの取り扱いに関する基本方針」に則って原則的に公開している。その一環として、2004年から「地殻構造探査データベースサイト」(www.jamstec.go.jp/obsmcs_db/j/)というWebを開設し、取得されたデータや調査航海の詳細情報を記載し、データ自体はオフラインではあるが、データに関する問い合わせや利用申請に対応している(Kido et al. 2006, JAMSTEC-R)。
大まかではあるが、以上のようにJAMSTECでは地殻構造探査データのアーカイブと公開を進めているが、現状多くの課題がある。
1つはフォーマットの問題である。地殻構造探査で扱う波形データや測位データはSEG(アメリカ物理探査学会)による“SEG Technical Standards”で定めたフォーマットによって出力されており、解析や解釈で用いているソフトウェアはそれらのフォーマットが扱える仕様となっている。したがって、今後も多くのフォーマットに対応したソフトウェアとそれをインストールしているハードウェアを維持・管理し続けることは重要になるが、長期的な視点で考えるとその時代に応じたフォーマットへ変換していくことは大きな課題である。2つ目はデータの品質管理の問題である。データ取得方法やデータ処理方法は年々多様化してきている。また、調査実施した年度・時期、調査を実施した船舶、データ取得システムの仕様や状態、データ処理・解析方法によって品質は大きく異なり、さらに調査や解析を担当した研究員・技術員による違いもある。これらについて、どのように整理していくかも課題である。3つ目はデータを保管する媒体の問題である。データを収録している媒体の劣化も非常に大きい問題で、媒体の劣化をどのようにチェックし、媒体を読み込むためのデバイスの維持、バックアップや新しい媒体への移行のタイミングも課題である。4つ目は、予算・人材・時間の確保の問題である。現時点では地殻構造探査データの公開やアーカイブのための専任の人員がおらず、予算も非常に限られている。データの公開やアーカイブに関する重要性について否定する人はほとんどいない一方、専任の人材や予算を確保しようという動きにならない。そういう意味では少人数でできるようなシステムの効率化を図ることが1つの解決策になるが、容易なことではない。以上の4つの事例以外にも、データポリシーやデータDOI付与への問題など課題は数多い。
課題は多いが、地殻構造探査データのアーカイブと公開の重要性は年々増している。例えば、地殻構造探査データの利用や研究の裾野を広げ、新たな解析手法による新しい地殻構造イメージング(e.g., Kamei et al. 2012, EPSL)や地震前後のTime lapse解析による構造変化の抽出(e.g., Landrø et al. 2019, IJGGC)などデータ取得を行った当時には想定していなかった研究も展開されている。さらに、観測や解析の担当者の異動や退職のリスクに対してもアーカイブの維持・継承は重要になっている。