日本地震学会2019年度秋季大会

講演情報

D会場

特別セッション » S23. オープンデータと地震学

[S23]PM-1

2019年9月17日(火) 13:30 〜 15:00 D会場 (時計台国際交流ホールI)

座長:加納 靖之(東京大学地震研究所)、汐見 勝彦(防災科学技術研究所)、鶴岡 弘(東京大学地震研究所)

14:45 〜 15:00

[S23-15] すべての公開データは(怪しい)地震予知に用いられる

*加藤 護1 (1. 京都大学人間・環境学研究科)

データ公開はデータが使われる機会を増やす。ただし不幸な使われ方を事前に想定して対策していることが望ましい.データ公開はアウトリーチ活動でもあると位置付けるのがよいだろう.

科学研究で取得されたデータを公開する最大の目的はその利活用である.地震学では新しいデータが新しい分野を拓くということを繰り返してきた.データの使用者が増えることはデータ公開の最大の目的であろう.

では,公開されたデータを使うのは誰だろうか.地震学会の会員は1800人程度で,継続的に公開データにアクセスするのはこの一部である.これに対し,ネット利用者かつ地震に関心を持つ人は桁で数が多いだろう.公開データを目にする人の大半は非専門家である.非専門家が地球惑星科学のデータに関心をもつ理由のひとつが地震の予知・予測である.地震への不安がこの関心を生んでいるであろう.社会では宏観前兆現象への関心は高い.信頼性の高いデータが自由に使えるとなればそれを用いて地震予知・予測を試みる人は出てくるだろう.これは地磁気観測などの1次データであっても,震源情報などの2次データであっても,同じである.

データを用いて地震前兆現象に関する自説を検証することは健全な科学であり,これを妨げる必要はない.一方,不健全な使われ方をされた場合,どこで誰がどのような地震予知・予測情報を発信しているかをデータ公開者が網羅的に知ることは難しい.元となるデータの信頼性はその予知・予測の確実性を保証するものではないが誤解は生じやすい.小さな地震は数が多く,ランダムな予測でも一定の割合で成功することも問題を難しくする.

このような状況から生じる混乱を最低限に抑える一つの手段は,データ公開サイドが非専門家のアクセスを前提とし,データの「素性」の解説を事前に用意することである.データ公開を地震科学の広報の一手段であると扱い,初心者にもその価値が分かるような説明をすることが好ましい.どのような観測をして得たか、どのように用いるのか,どのような研究成果につながっているのかを紹介することは,その観測とデータ公開を継続するため応援団を作る作業にもつながる.これは初めてデータを使う人にとっても有益な情報である.例えば,高校科学部が研究に用いるケースを想定して,使い方や注意点などのチュートリアルを公開することが考えられる.このような準備は健全なデータの利活用を促すこととなるだろう.データ公開に至るフローやデータが意味するものを知る機会を提供ことをアウトリーチであると位置づけることもできるだろう.

発表では,データ公開に関して何を想定するべきか,を実際に公開データが(地球科学の専門家が想像もしないだろう形で)地震予知に使われている例を紹介しながら議論する.