15:30 〜 15:45
[S23-17] オープンデータと歴史地震・歴史記録
加納靖之
東京大学地震研究所
国内外でオープンデータの流れが加速するなかで,地震学の周辺での現状と今後の見通しを議論するため,特別セッション「オープンデータと地震学」を企画した.オープンデータ,特に観測データへの永続的識別子付与の重要性を考えるようになったのは,過去に大学の微小地震観測や地殻変動連続観測のデータ生産および流通に携わりながら,その作業そのものを業績として示しにくい環境に疑問を持ったことだった.データへのDOI付与やデータジャーナルによる出版など,観測データを有効にオープンにする方策が見えてきつつある.
オープンデータについて考えるとき,研究分野や対象となるデータの内容あるいは形態によって,オープンにするために必要な作業が違ってくると考えられる,ここでは,歴史地震研究および歴史記録(ここでは,主として記録装置のデジタル化以前の紙に記録された観測記録)のオープンデータについて考えてみたい.
歴史地震研究においては,いわば生データともいえる歴史史料から地震に関係する部分を抽出し,解読して分析に利用する.地震に関係する記述を収集した史料集(たとえば『大日本地震史料』や『新収日本地震史料』など)が刊行されている.これらから必要な情報を抽出・分析し,歴史時代に発生した地震に関するカタログが作成されている(たとえば『理科年表』の「地震の年代表」など).主として出版物としてオープンにされてきた歴史地震に関するデータであるが,史料集をデータベース化したもの(たとえば,[古代・中世] 地震・噴火史料データベース」https://historical.seismology.jp/eshiryodb/)や,史料集の掲載巻ページを検索できる「歴史地震史料検索システム」(http://etna.seis.nagoya-u.ac.jp/HistEQ/)など,オンラインでのデータ提供も取り組まれつつある.歴史地震のカタログのひとつとし地震学会ホームページで公開されているものもある.(http://www.zisin.jp/publications/document05.html).また,歴史史料自体も,一部については所蔵館等によってデジタルアーカイブ化され,オンラインで容易に検索でき,書誌情報だけでなく,史料そのものをデジタル画像として閲覧できるものもある.
歴史地震研究の成果は,地震本部の報告書などでも広く使われている基礎的なデータである.カタログの個々の地震の発生日時や場所,規模などの精度や妥当性を評価するには,推定に使われた歴史史料の原本や画像,あるいは抽出された記述,分析結果をまとめた研究論文や報告書等まで遡って検証できることが望ましい.もともと紙であったために,このような検証を行うには経験が必要であり,中には,史料の所在地など,既に失われてしまった情報もある.歴史地震研究に使われた歴史史料や記述について,何らかのIDをつける形で整理して公開することができれば,過去の成果の検証が容易になり,新たな切り口による分析を促進し,また,歴史地震研究に参加しようとする際の障壁が小さくなるのではないか.
京都大学阿武山観測所には,1940年代から京都大学で実施されてきた地殻変動観測の記録の一部が保管されている.京都大学紀州観測点の傾斜記録のうち,1970年代のブロマイド紙に描かれた傾斜変化の分析から,紀伊半島下で発生するスローイベントを捉えている可能性があることが明らかになった.このように,観測時には知られていなかった現象やモデルを,過去のデータに適用することで新たな知見が得られる可能性がある.
歴史記録については,既に多くの記録がデジタル画像化され公開されている(たとえば,東京大学地震研究所「和歌山観測所観測点ぺん書き記録画像DB」https://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/wakayama/).ハーバード大学の「地震計記録のデジタル化プロジェクト」のように教育と組み合わせた取り組みもなされている.気象分野などでは,「データレスキュー」のキーワードで,保全や活用の取り組みがなされている.いっぽうで,まったく顧みられないまま書庫や倉庫に眠っているケースもあると考えられる.記録紙そのものだけでなく,計器の設置状況や感度などのメタデータとともに,保存・公開の方法を考えていかなければならない.
歴史史料と歴史記録の活用にあたって,共通する要素としてデジタル画像の扱いがある.撮影機器の高度化と,計算機での処理や情報ネットワークの高速化により,高精細,高画質のデジタル画像をこれまでより容易に公開できるようになってきた.デジタルアーカイブの画像データ公開の国際標準形式としてInternational Image Interoperability Framework (IIIF)がある.博物館や図書館のデジタル展示や人文学研究に活用されている技術であるが,地震学に関係する画像資料の公開に応用すれば,データ利用の可能性が広がるのではないか.画像公開にあたってメタデータやライセンスの付与などに関する知見も先行する分野から取り入れつつ,数値データ以外のデータについても,再利用可能な形でのデータ公開を目指したい.
東京大学地震研究所
国内外でオープンデータの流れが加速するなかで,地震学の周辺での現状と今後の見通しを議論するため,特別セッション「オープンデータと地震学」を企画した.オープンデータ,特に観測データへの永続的識別子付与の重要性を考えるようになったのは,過去に大学の微小地震観測や地殻変動連続観測のデータ生産および流通に携わりながら,その作業そのものを業績として示しにくい環境に疑問を持ったことだった.データへのDOI付与やデータジャーナルによる出版など,観測データを有効にオープンにする方策が見えてきつつある.
オープンデータについて考えるとき,研究分野や対象となるデータの内容あるいは形態によって,オープンにするために必要な作業が違ってくると考えられる,ここでは,歴史地震研究および歴史記録(ここでは,主として記録装置のデジタル化以前の紙に記録された観測記録)のオープンデータについて考えてみたい.
歴史地震研究においては,いわば生データともいえる歴史史料から地震に関係する部分を抽出し,解読して分析に利用する.地震に関係する記述を収集した史料集(たとえば『大日本地震史料』や『新収日本地震史料』など)が刊行されている.これらから必要な情報を抽出・分析し,歴史時代に発生した地震に関するカタログが作成されている(たとえば『理科年表』の「地震の年代表」など).主として出版物としてオープンにされてきた歴史地震に関するデータであるが,史料集をデータベース化したもの(たとえば,[古代・中世] 地震・噴火史料データベース」https://historical.seismology.jp/eshiryodb/)や,史料集の掲載巻ページを検索できる「歴史地震史料検索システム」(http://etna.seis.nagoya-u.ac.jp/HistEQ/)など,オンラインでのデータ提供も取り組まれつつある.歴史地震のカタログのひとつとし地震学会ホームページで公開されているものもある.(http://www.zisin.jp/publications/document05.html).また,歴史史料自体も,一部については所蔵館等によってデジタルアーカイブ化され,オンラインで容易に検索でき,書誌情報だけでなく,史料そのものをデジタル画像として閲覧できるものもある.
歴史地震研究の成果は,地震本部の報告書などでも広く使われている基礎的なデータである.カタログの個々の地震の発生日時や場所,規模などの精度や妥当性を評価するには,推定に使われた歴史史料の原本や画像,あるいは抽出された記述,分析結果をまとめた研究論文や報告書等まで遡って検証できることが望ましい.もともと紙であったために,このような検証を行うには経験が必要であり,中には,史料の所在地など,既に失われてしまった情報もある.歴史地震研究に使われた歴史史料や記述について,何らかのIDをつける形で整理して公開することができれば,過去の成果の検証が容易になり,新たな切り口による分析を促進し,また,歴史地震研究に参加しようとする際の障壁が小さくなるのではないか.
京都大学阿武山観測所には,1940年代から京都大学で実施されてきた地殻変動観測の記録の一部が保管されている.京都大学紀州観測点の傾斜記録のうち,1970年代のブロマイド紙に描かれた傾斜変化の分析から,紀伊半島下で発生するスローイベントを捉えている可能性があることが明らかになった.このように,観測時には知られていなかった現象やモデルを,過去のデータに適用することで新たな知見が得られる可能性がある.
歴史記録については,既に多くの記録がデジタル画像化され公開されている(たとえば,東京大学地震研究所「和歌山観測所観測点ぺん書き記録画像DB」https://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/wakayama/).ハーバード大学の「地震計記録のデジタル化プロジェクト」のように教育と組み合わせた取り組みもなされている.気象分野などでは,「データレスキュー」のキーワードで,保全や活用の取り組みがなされている.いっぽうで,まったく顧みられないまま書庫や倉庫に眠っているケースもあると考えられる.記録紙そのものだけでなく,計器の設置状況や感度などのメタデータとともに,保存・公開の方法を考えていかなければならない.
歴史史料と歴史記録の活用にあたって,共通する要素としてデジタル画像の扱いがある.撮影機器の高度化と,計算機での処理や情報ネットワークの高速化により,高精細,高画質のデジタル画像をこれまでより容易に公開できるようになってきた.デジタルアーカイブの画像データ公開の国際標準形式としてInternational Image Interoperability Framework (IIIF)がある.博物館や図書館のデジタル展示や人文学研究に活用されている技術であるが,地震学に関係する画像資料の公開に応用すれば,データ利用の可能性が広がるのではないか.画像公開にあたってメタデータやライセンスの付与などに関する知見も先行する分野から取り入れつつ,数値データ以外のデータについても,再利用可能な形でのデータ公開を目指したい.