11:15 〜 11:30
[S01-02] 波形インバージョンにおける放射パターンを補正した経験的グリーン関数の先験情報依存性
経験的グリーン関数(EGF; e.g. Hartzell, 1978)は、解析対象とする地震(Target event)の近傍で発生した、メカニズムが似ている地震(EGF event)の観測波形を、Target eventのグリーン関数とする手法である。EGFは、理論的な手法で要求されるような複雑な速度構造を仮定する必要がないという利点がある一方で、解析に適した地震が存在しないと使うことができないという制約がある。この制約を軽減するために、我々は放射パターンを補正した経験的グリーン関数(Radiation-corrected EGF)を導入した。Radiation-corrected EGFは従来のEGFの振幅を、Target eventとEGF eventの理論的な放射パターンの比を用いて補正することで得られる。しかし、本手法では、メカニズム解・震源位置・速度構造という3つの先験情報を与える必要があり、Radiation-corrected EGFの実データへの適用可能性を評価するためには、これらの先験情報の不確定さが結果に与える影響を調べることが不可欠である。そこで、本研究では先述の先験情報の影響を調べるために、波形インバージョンを用いた2種類のテストを行った。
本テストでは、日本の内陸部で発生した3つのM5クラスの地震に対して解析を行った。解析においては防災科学技術研究所(NIED)の設置しているKiK-netの地中観測点のうち、Target eventから震央距離45km以内の観測点を使用した。また、簡単のためTarget eventとEGF eventをそれぞれ点震源とみなせるように、解析周波数帯を0.1-1.0 Hzに設定した。放射パターンの計算には初期構造としてJMA2001(上野ほか, 2002)を与え、メカニズム解の初期値としてF-net (NIED)のCMTインバージョン解を、震源位置の初期値として気象庁カタログに記載された震源情報をそれぞれ設定した。また、波形インバージョンによる推定解は、波形の再現具合を表すVariance Reduction (VR)によって比較する。
まずは、みかけのメカニズムを直接的に回転させる要因となるメカニズム解・震源位置の誤差が解に与える影響を、実観測波形を用いて調べた。ここでは、先ほどの初期設定のうちメカニズム解(回転軸・回転角)と震源位置(移動方向・移動距離)にそれぞれ一様にランダムな摂動を加え、そのメカニズム解・震源位置において計算された放射パターンを用いて、インバージョンを行った。このテストの結果、メカニズム解の回転角・震源位置の移動距離が大きくなるにつれて、低VRを得る確率が高くなることが確認された。また、メカニズム解の回転の影響の方が、震源位置の移動による影響よりも大きいことが確認された。
続いて、速度構造の違いによる変換波や反射波などの直達波以外のフェーズが与える影響を、理論波形を用いて調べた。理論波形の計算には速度構造を除いて、実データの初期設定を用いている。速度構造については、JMA2001に堆積層を追加した構造を5種類用意し、各観測点にランダムに5種類の構造を割り当てる。以上の設定において理論波形を計算し、インバージョンを行った。ここで、放射パターンはオリジナルのJMA2001を仮定して計算を行っている。このテストの結果、堆積層が追加されたことによる変換波や反射波などの影響は周波数依存するものであり、本研究の解析周波数帯である0.1-1.0 Hzでは結果への寄与が小さいことが確認された。
本研究の結果、メカニズムの差異が認められる場合には、従来のEGFよりもRadiation-corrected EGFを適用する方がより良い推定解を得られることが、実データにおいても確認された。また、先験情報の不確定さが結果に与える影響は確認されたものの、その影響は地震ごとに異なるものである。このようなテストを行うことにより、各ケースにおけるradiation-corrected EGF適用の妥当性を論ずることができることも確認された。
本テストでは、日本の内陸部で発生した3つのM5クラスの地震に対して解析を行った。解析においては防災科学技術研究所(NIED)の設置しているKiK-netの地中観測点のうち、Target eventから震央距離45km以内の観測点を使用した。また、簡単のためTarget eventとEGF eventをそれぞれ点震源とみなせるように、解析周波数帯を0.1-1.0 Hzに設定した。放射パターンの計算には初期構造としてJMA2001(上野ほか, 2002)を与え、メカニズム解の初期値としてF-net (NIED)のCMTインバージョン解を、震源位置の初期値として気象庁カタログに記載された震源情報をそれぞれ設定した。また、波形インバージョンによる推定解は、波形の再現具合を表すVariance Reduction (VR)によって比較する。
まずは、みかけのメカニズムを直接的に回転させる要因となるメカニズム解・震源位置の誤差が解に与える影響を、実観測波形を用いて調べた。ここでは、先ほどの初期設定のうちメカニズム解(回転軸・回転角)と震源位置(移動方向・移動距離)にそれぞれ一様にランダムな摂動を加え、そのメカニズム解・震源位置において計算された放射パターンを用いて、インバージョンを行った。このテストの結果、メカニズム解の回転角・震源位置の移動距離が大きくなるにつれて、低VRを得る確率が高くなることが確認された。また、メカニズム解の回転の影響の方が、震源位置の移動による影響よりも大きいことが確認された。
続いて、速度構造の違いによる変換波や反射波などの直達波以外のフェーズが与える影響を、理論波形を用いて調べた。理論波形の計算には速度構造を除いて、実データの初期設定を用いている。速度構造については、JMA2001に堆積層を追加した構造を5種類用意し、各観測点にランダムに5種類の構造を割り当てる。以上の設定において理論波形を計算し、インバージョンを行った。ここで、放射パターンはオリジナルのJMA2001を仮定して計算を行っている。このテストの結果、堆積層が追加されたことによる変換波や反射波などの影響は周波数依存するものであり、本研究の解析周波数帯である0.1-1.0 Hzでは結果への寄与が小さいことが確認された。
本研究の結果、メカニズムの差異が認められる場合には、従来のEGFよりもRadiation-corrected EGFを適用する方がより良い推定解を得られることが、実データにおいても確認された。また、先験情報の不確定さが結果に与える影響は確認されたものの、その影響は地震ごとに異なるものである。このようなテストを行うことにより、各ケースにおけるradiation-corrected EGF適用の妥当性を論ずることができることも確認された。