11:30 AM - 11:45 AM
[S01-03] Evaluating errors in autocorrelation functions for reliable estimates of a reflection profile
1. はじめに
鉛直入射する地震波の自己相関関数を用いると地表の力源に対する同一地点での反射応答を疑似的に得ることができる(Claerbout, 1968)。この原理を用いた反射断面の推定が多数行われている(e.g., Tsutsui, 1992; Watanabe et al., 2011; Sun and Kennett, 2016; Chimoto and Yamanaka, 2020)。これらの研究において反射応答の誤差評価はあまり行われていない。反射応答の波形には多数の山と谷が含まれ、その中から真の反射波に対応するものを見分けるには誤差評価が有用であると思われる。そのための手法を考案し、検証を行ったので報告する。
2. 手法
観測点直下で発生した地震のP波の波形を使用する。この波形が地震による真のシグナルとランダムノイズの重ね合わせであると考える。平均が0でP波到着前のノイズ部分と等しい標準偏差を持つランダムノイズ波形を多数生成し、観測波形からこれらを差し引いたものを真のシグナルの候補とし、それらの自己相関関数を計算する。各観測点において、地震1つにつき生成したランダムノイズ波形と同数の自己相関関数が得られるので、その標準偏差が自己相関関数の誤差を表すと考える。次に各観測点においてすべての地震の自己相関関数を分散で重みづけしてスタッキングする。これにより観測点毎の自己相関関数を誤差評価付きで得ることができる。
3. 検証
首都圏地震観測網(MeSO-net)のデータに本手法を適用した。まずHi-net下総観測点に近接するMeSO-netのE.STHM観測点において詳細な検証を行った。下総観測点では掘削時の検層によって深さ2300 mまでの地震波速度・密度構造が求められており、堆積層(P波速度2000 m/s、密度2000 kg/m3)と基盤(P波速度5000 m/s、密度2600 kg/m3)の2層でよく近似できること、その境界が深さ1500 mにあることが知られている(太田他, 1978; 鈴木他, 1983)。MeSO-netのE.STHM観測点は下総観測点から水平距離1.6 kmと近接しているため、ほぼ同様の2層構造で近似できると思われる。そこで本手法によって深さ1500 mに単一の反射面をイメージングできるかを試した。その結果、10 Hz以下の周波数帯においては深さ1500 mからの反射波が標準偏差の3倍を有意に超える振幅で得られる一方、他の深さからの反射波振幅は標準偏差の3倍程度以内に収まるものであった。また、深さ1500 mからの反射波はスタッキング数を増やすと標準偏差に対する相対振幅が増大したが、他の深さに見られる振幅の小さな山や谷ではそのような傾向が見られなかった。このことから本手法で真の反射面を識別できると考えられる。一方、10 Hzよりも高周波では標準偏差の3倍をやや超える振幅の山や谷が様々な深さに現れ、深さ1500 mからの反射波振幅もそれらと同程度になり、識別は困難であった。
次に他のMeSO-net観測点にも本手法を適用し、標準偏差の3倍以内の振動をマスクする色付けでプロットを行った。誤差を考慮せずにスタッキングとプロットを行う従来手法と比較した。その結果、本手法の方が全体的な縞模様を抑制でき、堆積層・基盤岩境界などの強い反射面をより強いコントラストで得ることができた。
4. 議論
Hi-net府中観測点、日高観測点においても掘削時に深部までの構造が得られており、近傍にMeSO-net観測点が存在する。しかしこれらの観測点では明瞭な反射波は得られなかった。原因として、府中観測点では3層構造で近似され、各層内も均質ではなく深さとともに速くなる傾向が顕著なこと、日高観測点では更に複雑な速度構造であることが考えられる。他のMeSO-net観測点においても全般に東関東では明瞭な反射面が得られたが西関東では不明瞭であった。このことから強いインピーダンスコントラストが無いと明瞭な反射面を得るのは難しい可能性がある。また、高周波帯において不明瞭になる原因としては細かい不均質による多重反射等が考えらえる。このように顕著な反射面が無い場合やスタック数の不足等によって十分なS/N比を実現できていない場合において、従来手法では反射波振幅の相対値しか分からないために有意でないシグナルを強調してしまう場合があるが、提案手法では標準偏差との比較に基づいて有意性を判断できる。これにより、信頼性の高い反射断面の描像を得ることに寄与すると考えられる。
謝辞
本研究では首都圏地震観測網(MeSO-net)の波形データと気象庁一元化震源カタログを使用した。波形データのダウンロードにはHinet-Py (Tian, 2020)を用いた。本研究はJSPS科研費JP19K04016の助成を受けた。
鉛直入射する地震波の自己相関関数を用いると地表の力源に対する同一地点での反射応答を疑似的に得ることができる(Claerbout, 1968)。この原理を用いた反射断面の推定が多数行われている(e.g., Tsutsui, 1992; Watanabe et al., 2011; Sun and Kennett, 2016; Chimoto and Yamanaka, 2020)。これらの研究において反射応答の誤差評価はあまり行われていない。反射応答の波形には多数の山と谷が含まれ、その中から真の反射波に対応するものを見分けるには誤差評価が有用であると思われる。そのための手法を考案し、検証を行ったので報告する。
2. 手法
観測点直下で発生した地震のP波の波形を使用する。この波形が地震による真のシグナルとランダムノイズの重ね合わせであると考える。平均が0でP波到着前のノイズ部分と等しい標準偏差を持つランダムノイズ波形を多数生成し、観測波形からこれらを差し引いたものを真のシグナルの候補とし、それらの自己相関関数を計算する。各観測点において、地震1つにつき生成したランダムノイズ波形と同数の自己相関関数が得られるので、その標準偏差が自己相関関数の誤差を表すと考える。次に各観測点においてすべての地震の自己相関関数を分散で重みづけしてスタッキングする。これにより観測点毎の自己相関関数を誤差評価付きで得ることができる。
3. 検証
首都圏地震観測網(MeSO-net)のデータに本手法を適用した。まずHi-net下総観測点に近接するMeSO-netのE.STHM観測点において詳細な検証を行った。下総観測点では掘削時の検層によって深さ2300 mまでの地震波速度・密度構造が求められており、堆積層(P波速度2000 m/s、密度2000 kg/m3)と基盤(P波速度5000 m/s、密度2600 kg/m3)の2層でよく近似できること、その境界が深さ1500 mにあることが知られている(太田他, 1978; 鈴木他, 1983)。MeSO-netのE.STHM観測点は下総観測点から水平距離1.6 kmと近接しているため、ほぼ同様の2層構造で近似できると思われる。そこで本手法によって深さ1500 mに単一の反射面をイメージングできるかを試した。その結果、10 Hz以下の周波数帯においては深さ1500 mからの反射波が標準偏差の3倍を有意に超える振幅で得られる一方、他の深さからの反射波振幅は標準偏差の3倍程度以内に収まるものであった。また、深さ1500 mからの反射波はスタッキング数を増やすと標準偏差に対する相対振幅が増大したが、他の深さに見られる振幅の小さな山や谷ではそのような傾向が見られなかった。このことから本手法で真の反射面を識別できると考えられる。一方、10 Hzよりも高周波では標準偏差の3倍をやや超える振幅の山や谷が様々な深さに現れ、深さ1500 mからの反射波振幅もそれらと同程度になり、識別は困難であった。
次に他のMeSO-net観測点にも本手法を適用し、標準偏差の3倍以内の振動をマスクする色付けでプロットを行った。誤差を考慮せずにスタッキングとプロットを行う従来手法と比較した。その結果、本手法の方が全体的な縞模様を抑制でき、堆積層・基盤岩境界などの強い反射面をより強いコントラストで得ることができた。
4. 議論
Hi-net府中観測点、日高観測点においても掘削時に深部までの構造が得られており、近傍にMeSO-net観測点が存在する。しかしこれらの観測点では明瞭な反射波は得られなかった。原因として、府中観測点では3層構造で近似され、各層内も均質ではなく深さとともに速くなる傾向が顕著なこと、日高観測点では更に複雑な速度構造であることが考えられる。他のMeSO-net観測点においても全般に東関東では明瞭な反射面が得られたが西関東では不明瞭であった。このことから強いインピーダンスコントラストが無いと明瞭な反射面を得るのは難しい可能性がある。また、高周波帯において不明瞭になる原因としては細かい不均質による多重反射等が考えらえる。このように顕著な反射面が無い場合やスタック数の不足等によって十分なS/N比を実現できていない場合において、従来手法では反射波振幅の相対値しか分からないために有意でないシグナルを強調してしまう場合があるが、提案手法では標準偏差との比較に基づいて有意性を判断できる。これにより、信頼性の高い反射断面の描像を得ることに寄与すると考えられる。
謝辞
本研究では首都圏地震観測網(MeSO-net)の波形データと気象庁一元化震源カタログを使用した。波形データのダウンロードにはHinet-Py (Tian, 2020)を用いた。本研究はJSPS科研費JP19K04016の助成を受けた。