9:30 AM - 9:45 AM
[S08-03] Stress relaxation arrested the mainshock rupture of the 2016 Central Tottori earthquake
1. はじめに
大きな地震が起こると余震が引き起こされる。 断層端での大きな静的応力集中により、大きな地震が起こることが予想されるが、実際に大きな地震が発生することはむしろ稀である。 2016年鳥取県中部地震の約10,000個の高精度のメカニズム解を解析して、余震震源に対する本震断層の水平端の位置を約200mの精度で推定することが出来た(Iio et al.,2021)。 その結果、余震は、断層の水平方向の端と延長部ではほとんど発生しないことが分かった。 この観測結果は、本震の前に断層の両端部で応力緩和が起こっていたことにより解釈可能である。 断層端の応力緩和は、本震の破壊を止めるとともに、大きな地震の続発を起こりにくくすると考えられる。
2. 結果と考察
2016年10月21日鳥取県中部地震(Mj6.6)の余震域に、本震発生の翌日早朝から設置を開始した69点の高感度地震計および周辺の高感度定常観測点のデータを用いて、約2か月間に発生した余震の震源とメカニズム解を正確に決定した。それにより、断層の両端付近において、P・T軸とも、推定断層を境に方位が急変していることが分かった。また、断層南端の東側においては正断層型の余震が卓越しており、本震すべりによる正断層型の地震に対するΔCFSが正の領域と良く対応していることも分かった。推定断層を境としたT軸の方位の急変から「真の」断層面の位置を推定した。断層に直交する方向におけるT軸の方位分布を階段関数で近似し、その段差の位置に断層があると見なし、それらの位置を平滑化して断層面を推定した。この断層面を用いて、余震域の両端部付近において、正断層型の余震に対するΔCFSが最も大きくなる断層端の位置を求めた。本震のすべり分布は、InSARやGNSSデーから推定された断層モデル(Meneses‐Gutierrez et al., 2019)を参考にして、矩形すべりの端からtaperをかける単純なものとした。その結果、断層南端の位置を200m程度の精度で推定することが出来た。
断層南端付近におけるP軸の傾斜角の分布と、正断層および本震と同じ横ずれ断層に対するΔCFSの分布を比較により、正断層型の余震の分布が、正断層に対するΔCFSの大きな領域とよく一致している一方、横ずれ断層に対するΔCFSの大きな領域では、横ずれ型の余震は非常に少ないことが分かった。このΔCFSは本震すべりによる応力変化によるものであり、地震前の応力場も考慮すると、本来は、断層端では本震と同様の横ずれ型の余震が圧倒的に起こりやすいはずである。
このことを説明する4つの可能性が考えられる。i) 断層端付近において、その規模に寄らず断層の強度が非常に大きい、ii) 地震前に、本震すべりの起こった領域のみに応力集中が発生していた、iii) 断層端において地震後に非弾性変形が起こった、iv) 地震前に断層端において応力緩和が起こっていた。i)の場合は、一般的には、断層端付近で余震活動が活発になる(例えば、Aki,1979)。ii)として想定されるのは、地震前に本震断層の周辺で非地震性すべりが発生していた場合である。しかし、非地震性すべりが発生していた場合、同じところで地震後に予効すべりが起こることが期待されるが、地殻変動の解析結果からはそのような変動は検知されていないし、予効すべりに伴うことが期待される余震の震源移動も見られていない(Iio et al., 2020)。また、山陰の地震帯は歪集中帯となっており、地震帯直下の下部地殻において数mm/年の非地震性すべりが検知されているが(Nishimura and Takada, 2017)、それによる応力集中は幅広いものとなり、震源断層だけに応力集中を起こすことは出来ない。iii)についても、地殻変動の解析結果では検知されていない。残されるのはiv)であり、断層端において、本震前に非常に長い時間スケールを持った非弾性変形が発生して応力緩和が生じていた可能性が考えられる。山陰の地震帯においては、満点観測網のデータを用いた地震波トモグラフィーにより、大きめの地震の余震域の両端に、系統的に低速度異常域が推定されている。この知見は、山陰の地震帯において、大きな地震の断層両端において、地震前に応力緩和が起こっていた可能性を示唆している。
文献 Iio et al., 2021, Stress relaxation arrested the mainshock rupture of the 2016 Central Tottori earthquake, Communications Earth & Environment DOI:10.1038/s43247-021-00231-6.
大きな地震が起こると余震が引き起こされる。 断層端での大きな静的応力集中により、大きな地震が起こることが予想されるが、実際に大きな地震が発生することはむしろ稀である。 2016年鳥取県中部地震の約10,000個の高精度のメカニズム解を解析して、余震震源に対する本震断層の水平端の位置を約200mの精度で推定することが出来た(Iio et al.,2021)。 その結果、余震は、断層の水平方向の端と延長部ではほとんど発生しないことが分かった。 この観測結果は、本震の前に断層の両端部で応力緩和が起こっていたことにより解釈可能である。 断層端の応力緩和は、本震の破壊を止めるとともに、大きな地震の続発を起こりにくくすると考えられる。
2. 結果と考察
2016年10月21日鳥取県中部地震(Mj6.6)の余震域に、本震発生の翌日早朝から設置を開始した69点の高感度地震計および周辺の高感度定常観測点のデータを用いて、約2か月間に発生した余震の震源とメカニズム解を正確に決定した。それにより、断層の両端付近において、P・T軸とも、推定断層を境に方位が急変していることが分かった。また、断層南端の東側においては正断層型の余震が卓越しており、本震すべりによる正断層型の地震に対するΔCFSが正の領域と良く対応していることも分かった。推定断層を境としたT軸の方位の急変から「真の」断層面の位置を推定した。断層に直交する方向におけるT軸の方位分布を階段関数で近似し、その段差の位置に断層があると見なし、それらの位置を平滑化して断層面を推定した。この断層面を用いて、余震域の両端部付近において、正断層型の余震に対するΔCFSが最も大きくなる断層端の位置を求めた。本震のすべり分布は、InSARやGNSSデーから推定された断層モデル(Meneses‐Gutierrez et al., 2019)を参考にして、矩形すべりの端からtaperをかける単純なものとした。その結果、断層南端の位置を200m程度の精度で推定することが出来た。
断層南端付近におけるP軸の傾斜角の分布と、正断層および本震と同じ横ずれ断層に対するΔCFSの分布を比較により、正断層型の余震の分布が、正断層に対するΔCFSの大きな領域とよく一致している一方、横ずれ断層に対するΔCFSの大きな領域では、横ずれ型の余震は非常に少ないことが分かった。このΔCFSは本震すべりによる応力変化によるものであり、地震前の応力場も考慮すると、本来は、断層端では本震と同様の横ずれ型の余震が圧倒的に起こりやすいはずである。
このことを説明する4つの可能性が考えられる。i) 断層端付近において、その規模に寄らず断層の強度が非常に大きい、ii) 地震前に、本震すべりの起こった領域のみに応力集中が発生していた、iii) 断層端において地震後に非弾性変形が起こった、iv) 地震前に断層端において応力緩和が起こっていた。i)の場合は、一般的には、断層端付近で余震活動が活発になる(例えば、Aki,1979)。ii)として想定されるのは、地震前に本震断層の周辺で非地震性すべりが発生していた場合である。しかし、非地震性すべりが発生していた場合、同じところで地震後に予効すべりが起こることが期待されるが、地殻変動の解析結果からはそのような変動は検知されていないし、予効すべりに伴うことが期待される余震の震源移動も見られていない(Iio et al., 2020)。また、山陰の地震帯は歪集中帯となっており、地震帯直下の下部地殻において数mm/年の非地震性すべりが検知されているが(Nishimura and Takada, 2017)、それによる応力集中は幅広いものとなり、震源断層だけに応力集中を起こすことは出来ない。iii)についても、地殻変動の解析結果では検知されていない。残されるのはiv)であり、断層端において、本震前に非常に長い時間スケールを持った非弾性変形が発生して応力緩和が生じていた可能性が考えられる。山陰の地震帯においては、満点観測網のデータを用いた地震波トモグラフィーにより、大きめの地震の余震域の両端に、系統的に低速度異常域が推定されている。この知見は、山陰の地震帯において、大きな地震の断層両端において、地震前に応力緩和が起こっていた可能性を示唆している。
文献 Iio et al., 2021, Stress relaxation arrested the mainshock rupture of the 2016 Central Tottori earthquake, Communications Earth & Environment DOI:10.1038/s43247-021-00231-6.