1:30 PM - 1:45 PM
[S08-23] Stochastic source time functions satisfying the ω−2-model, the cube law, and the GR law
震源時間関数(STF)は, 地震時の断層面上の滑り速度分布を空間積分した時系列である. 多くの震源過程インバージョンの結果がデータベースに集積された結果, STF について以下の経験則が明らかにされている:
経験則1) STF は連続で, 有限の持続時間を持ち, 多くは非負かつ単峰.
経験則2) STF を時間積分したモーメント関数は, 破壊開始からの経過時間の3乗に比例して成長.
経験則3) STF の Fourier 振幅スペクトルは ω⁻²モデルで良く近似される.
経験則4) 最終的なモーメントの出現頻度は Gutenberg-Richter 則に従う.
経験則1については, ごく最近定量化され, STF の8割は単峰, 2割は複峰であることが分かっている [Yin+ 2021 SRL]. この傾向と例外の存在は, 震源過程のモデルが概ね単純でありながら, ある程度の複雑さもまた要求されることを示唆している. また, 個々の事例においては充分滑らかな関数というわけではなく, 多少の擾乱を伴なう時系列であることも明らかである. 経験則2および3については, 古くから知られ, これらを説明する様々な震源モデルが提唱されてきた. しかし古典的な亀裂モデルなどは前述の擾乱を容易に再現できない. 一方で非平面断層などの動力学的モデルは, パラメタ数と計算機負荷の双方に難があり, データを高精度に説明するには不可欠であるものの, 全く別の単純なアプローチもまた, 困難を補い理解に資する可能性がある. 更に経験則4も踏まえると, 現象の細部は割愛するとして, 統計的に経験則を満たす確率論的アプローチが有効であろうと考えられる.
地震にまつわる統計的性質を理解するための確率論的方法として, 確率微分方程式(SDE)によるモデル化が複数試みられてきた. SDE とは, 微分方程式にノイズ項を加えて積分することにより, ランダムさを内包した系をモデル化するものである. 先駆的なものは繰り返し地震の間隔 [Matthews+ BSSA 2002] やスロー地震 [Ide 2008 GRL] について, いずれも長時間を意識したものである. これらは通常の地震イベントの STF をモデル化するものではないが, 地震学における SDE の有効性を示唆している. より短時間の現象としては, 破壊の最中における断層面上の運動方程式に摩擦法則とノイズを導入した事例 [Wu&Chen 2019 arXiv; Wu+ 2019 Chaos] があるが, 残念ながら定常状態を意識したものであり, 地震の開始と停止については度外視されている.
そこで本研究においては, 地震時の STF を SDE に基づいてモデル化し, 経験則1-4を満足することを示す. ただし SDE の性質から必然的に, 確率変数の時系列は, その振幅スペクトルが ω⁻¹ に漸近するブラウン運動である. 従って1つの確率変数の時系列だけでは, 通常の地震についての経験則3を満たすことはできない. そこで, スペクトルが ω⁻¹ に漸近する時系列を2つ用意し, その畳込み積分が STF であると解釈することで, 経験則3を満たすことができる. これを発想の起点として, Bessel 過程と呼ばれる SDE を考える. Bessel 過程の解は必ず非負で, かつパラメタを適切に設定すれば有限持続時間を持つことが数学的に示されているため, 経験則1を満たす上で都合が良い. また, パラメタ如何では持続時間の出現頻度がべき分布で近似され, 従って経験則4も満足する. 残された経験則3については, 本研究の数値計算により統計的に満たされることが明らかになった. 従って, 4つの経験則は全て, 2つの Bessel 過程の畳込み積分によって説明可能である. なお, 2つの Bessel 過程の持続時間は確率によって決まるためそれぞれに異なるが, 両者が大きく異なる場合には経験則3が満たされない. そこで両者の比を2以内(case A)に制限した場合と10以内(case B)に制限した場合を考え, 後者のほうが STF に多様性が生じることが分かった(Figure 1).
最後に, 2つの Bessel 過程の畳込み積分が持つ物理的意味について考察する. Aki&Richards の表現定理から, STF は断層面上の応力降下速度の空間積分と, それに対する断層滑りの自己応答関数の畳込み積分で記述できる. 前者の応力降下速度が Bessel 過程だとすると, 断層全体で積分した滑りと応力の時系列は, 臨界滑り量が最終滑り量の20−50%程度であるような滑り弱化則と等価であることがわかった. 後者については, 今なおその意味が自明ではないが, 少なくとも断層の自己応答が線形弾性体のものではなく, 断層破砕帯などに起因する散乱波などのランダムネスが卓越するものであると予想される.
経験則1) STF は連続で, 有限の持続時間を持ち, 多くは非負かつ単峰.
経験則2) STF を時間積分したモーメント関数は, 破壊開始からの経過時間の3乗に比例して成長.
経験則3) STF の Fourier 振幅スペクトルは ω⁻²モデルで良く近似される.
経験則4) 最終的なモーメントの出現頻度は Gutenberg-Richter 則に従う.
経験則1については, ごく最近定量化され, STF の8割は単峰, 2割は複峰であることが分かっている [Yin+ 2021 SRL]. この傾向と例外の存在は, 震源過程のモデルが概ね単純でありながら, ある程度の複雑さもまた要求されることを示唆している. また, 個々の事例においては充分滑らかな関数というわけではなく, 多少の擾乱を伴なう時系列であることも明らかである. 経験則2および3については, 古くから知られ, これらを説明する様々な震源モデルが提唱されてきた. しかし古典的な亀裂モデルなどは前述の擾乱を容易に再現できない. 一方で非平面断層などの動力学的モデルは, パラメタ数と計算機負荷の双方に難があり, データを高精度に説明するには不可欠であるものの, 全く別の単純なアプローチもまた, 困難を補い理解に資する可能性がある. 更に経験則4も踏まえると, 現象の細部は割愛するとして, 統計的に経験則を満たす確率論的アプローチが有効であろうと考えられる.
地震にまつわる統計的性質を理解するための確率論的方法として, 確率微分方程式(SDE)によるモデル化が複数試みられてきた. SDE とは, 微分方程式にノイズ項を加えて積分することにより, ランダムさを内包した系をモデル化するものである. 先駆的なものは繰り返し地震の間隔 [Matthews+ BSSA 2002] やスロー地震 [Ide 2008 GRL] について, いずれも長時間を意識したものである. これらは通常の地震イベントの STF をモデル化するものではないが, 地震学における SDE の有効性を示唆している. より短時間の現象としては, 破壊の最中における断層面上の運動方程式に摩擦法則とノイズを導入した事例 [Wu&Chen 2019 arXiv; Wu+ 2019 Chaos] があるが, 残念ながら定常状態を意識したものであり, 地震の開始と停止については度外視されている.
そこで本研究においては, 地震時の STF を SDE に基づいてモデル化し, 経験則1-4を満足することを示す. ただし SDE の性質から必然的に, 確率変数の時系列は, その振幅スペクトルが ω⁻¹ に漸近するブラウン運動である. 従って1つの確率変数の時系列だけでは, 通常の地震についての経験則3を満たすことはできない. そこで, スペクトルが ω⁻¹ に漸近する時系列を2つ用意し, その畳込み積分が STF であると解釈することで, 経験則3を満たすことができる. これを発想の起点として, Bessel 過程と呼ばれる SDE を考える. Bessel 過程の解は必ず非負で, かつパラメタを適切に設定すれば有限持続時間を持つことが数学的に示されているため, 経験則1を満たす上で都合が良い. また, パラメタ如何では持続時間の出現頻度がべき分布で近似され, 従って経験則4も満足する. 残された経験則3については, 本研究の数値計算により統計的に満たされることが明らかになった. 従って, 4つの経験則は全て, 2つの Bessel 過程の畳込み積分によって説明可能である. なお, 2つの Bessel 過程の持続時間は確率によって決まるためそれぞれに異なるが, 両者が大きく異なる場合には経験則3が満たされない. そこで両者の比を2以内(case A)に制限した場合と10以内(case B)に制限した場合を考え, 後者のほうが STF に多様性が生じることが分かった(Figure 1).
最後に, 2つの Bessel 過程の畳込み積分が持つ物理的意味について考察する. Aki&Richards の表現定理から, STF は断層面上の応力降下速度の空間積分と, それに対する断層滑りの自己応答関数の畳込み積分で記述できる. 前者の応力降下速度が Bessel 過程だとすると, 断層全体で積分した滑りと応力の時系列は, 臨界滑り量が最終滑り量の20−50%程度であるような滑り弱化則と等価であることがわかった. 後者については, 今なおその意味が自明ではないが, 少なくとも断層の自己応答が線形弾性体のものではなく, 断層破砕帯などに起因する散乱波などのランダムネスが卓越するものであると予想される.