2:00 PM - 2:15 PM
[S09-14] Spatio-temporal change in seismicity and waveform correlation of an earthquake swarm at Moriyoshi volcano
背景と目的
群発地震は,本震と呼べる様な最大地震を持たず,非大森則的な地震活動が一定期間継続する現象である.これまでの研究で,群発地震の震源マイグレーションの拡散係数と活動継続時間の間に負の相関があることが判明した (Amezawa et al., 2021).しかし,活動の推移に伴って地震波形がどのように変化するのか系統的に調べた研究は少ない.地震波形の時間変化は群発地震の発生メカニズムが時間的に変化したことに関係する可能性がある.ゆえに,地震活動の推移と地震波形の変化の対応を調べることは重要である.本研究では,地震活動が長期に渡っている例として,発生から10年以上継続している東北日本北部の森吉山での群発地震について,地震波形がどのように変化したかを波形相関に着目して調べた.
震源再決定
近接する地震間の波形相関の時空間変化を調べるためには,高精度に決定された震源位置が必要である.そこで,波形の相互相関データを用いたDouble-Difference法により,震源再決定を行なった.解析には気象庁一元化震源カタログに記載されている2011–2019年に発生したM≧0の地震のうち,群発地震の周囲60 km以内で比較的S/N比の良い16定常観測点の半数以上において,P・S波の観測走時が得られた7213地震を用いた.気象庁検測値に加えて,弘前大学によって実施された臨時観測記録の手動検測値も用いた.さらに,気象庁・Hi-net・東北大学の観測点で記録された地震波形の相互相関係数から相対走時データを作成して用いた.相関は 2–12 Hzの帯域通過フィルタをかけた波形に対し,P・S波の理論走時±1秒の時間窓で計算した.
震源再決定の結果,初期震源数の99%が再決定され,RMS残差は手動検測値では117 msから35 msへ,相対走時データでは 138 msから6 msへ減少した.再決定震源の空間分布から,群発地震の震源は複数の小クラスタに分かれ,水平面内では4 km程度にひろがり,厚さ1–2 kmの東傾斜の面状分布を示すことなど,これまで以上に詳細な特徴が判明した.
波形相関の時空間変化
次に,再決定された震源位置に基づき,近接する地震間の波形相関の時空間変化を調べた.ある地震を起点とし,そこから1年以内に発生した地震が震源距離0.3 km以内に10個以上ある場合,これを地震のグループとした.全ての再決定震源を起点としてグループ化を行い,得られた全てのグループについて,グループの起点とした地震とグループ内の各地震のP・S波形の相互相関係数を求め,その平均をAverage Cross Correlation (ACC) とした.ACCの計算には,S/N比が12 dB以上かつ使用観測点の半数以上でP・S波が記録された波形を使用した.
得られた全ACCの分布は,平均μ=0.39,標準偏差σ=0.11のやや左に歪んだ正規分布となった.今回は,ACC ≧ μ+1.5σ の地震グループを特に波形の類似性が高いグループとし,ACCの時空間変化と地震活動の対応を述べた.森吉山の群発地震はクラスタの南東深さ10 km付近(クラスタ底部)から始まり,約200日間はここから水平・深さ方向に約 1 kmの狭い領域で活動が続いた.この活動では,ACCが高いグループが特に多くみられた.その後,地震活動の中心が北東へ移動し,約500日後には複数のバースト的な活動を伴いつつ活動中心は南西へ移動した.約 1500日後になるとクラスタサイズがほぼ確定し,活動が比較的低調になった.これらの活動移行期と停滞期についてのACCは活動初期に比べて全体的に低く,波形の類似性が高いグループはほとんどみられなかった.
議論
森吉山における群発地震の初期の活動が比較的狭い領域内に限られていることは既知であったが,本研究により,その初期の活動においてのみ地震波形が互いに類似していることが判明した.このことから,活動初期においては近接する位置での同じような断層運動で地震が起きたことが示唆される.しかし,その後の活動では,クラスタのほとんどの領域で,震源が近接していてもACCは低い.その理由として,近接していても断層運動の仕方が微妙に異なること,震源周辺の不均質が非常に強くて震源位置の僅かな違いにより波形が異なることの,一方または両方が考えられる.これらの原因が群発地震活動にあるのか,元々存在したのかは,今回の結果だけでは判然としないが,森吉山の群発地震の時空間発展が単純ではなかったことを考慮すると,群発地震域は群発地震以前から不均質な状態であった可能性がある.
謝辞
気象庁一元化震源カタログ,気象庁・防災科学技術研究所Hi-net・東北大学の観測点で観測された地震波形記録を使用しました.記して謝意を表します.
群発地震は,本震と呼べる様な最大地震を持たず,非大森則的な地震活動が一定期間継続する現象である.これまでの研究で,群発地震の震源マイグレーションの拡散係数と活動継続時間の間に負の相関があることが判明した (Amezawa et al., 2021).しかし,活動の推移に伴って地震波形がどのように変化するのか系統的に調べた研究は少ない.地震波形の時間変化は群発地震の発生メカニズムが時間的に変化したことに関係する可能性がある.ゆえに,地震活動の推移と地震波形の変化の対応を調べることは重要である.本研究では,地震活動が長期に渡っている例として,発生から10年以上継続している東北日本北部の森吉山での群発地震について,地震波形がどのように変化したかを波形相関に着目して調べた.
震源再決定
近接する地震間の波形相関の時空間変化を調べるためには,高精度に決定された震源位置が必要である.そこで,波形の相互相関データを用いたDouble-Difference法により,震源再決定を行なった.解析には気象庁一元化震源カタログに記載されている2011–2019年に発生したM≧0の地震のうち,群発地震の周囲60 km以内で比較的S/N比の良い16定常観測点の半数以上において,P・S波の観測走時が得られた7213地震を用いた.気象庁検測値に加えて,弘前大学によって実施された臨時観測記録の手動検測値も用いた.さらに,気象庁・Hi-net・東北大学の観測点で記録された地震波形の相互相関係数から相対走時データを作成して用いた.相関は 2–12 Hzの帯域通過フィルタをかけた波形に対し,P・S波の理論走時±1秒の時間窓で計算した.
震源再決定の結果,初期震源数の99%が再決定され,RMS残差は手動検測値では117 msから35 msへ,相対走時データでは 138 msから6 msへ減少した.再決定震源の空間分布から,群発地震の震源は複数の小クラスタに分かれ,水平面内では4 km程度にひろがり,厚さ1–2 kmの東傾斜の面状分布を示すことなど,これまで以上に詳細な特徴が判明した.
波形相関の時空間変化
次に,再決定された震源位置に基づき,近接する地震間の波形相関の時空間変化を調べた.ある地震を起点とし,そこから1年以内に発生した地震が震源距離0.3 km以内に10個以上ある場合,これを地震のグループとした.全ての再決定震源を起点としてグループ化を行い,得られた全てのグループについて,グループの起点とした地震とグループ内の各地震のP・S波形の相互相関係数を求め,その平均をAverage Cross Correlation (ACC) とした.ACCの計算には,S/N比が12 dB以上かつ使用観測点の半数以上でP・S波が記録された波形を使用した.
得られた全ACCの分布は,平均μ=0.39,標準偏差σ=0.11のやや左に歪んだ正規分布となった.今回は,ACC ≧ μ+1.5σ の地震グループを特に波形の類似性が高いグループとし,ACCの時空間変化と地震活動の対応を述べた.森吉山の群発地震はクラスタの南東深さ10 km付近(クラスタ底部)から始まり,約200日間はここから水平・深さ方向に約 1 kmの狭い領域で活動が続いた.この活動では,ACCが高いグループが特に多くみられた.その後,地震活動の中心が北東へ移動し,約500日後には複数のバースト的な活動を伴いつつ活動中心は南西へ移動した.約 1500日後になるとクラスタサイズがほぼ確定し,活動が比較的低調になった.これらの活動移行期と停滞期についてのACCは活動初期に比べて全体的に低く,波形の類似性が高いグループはほとんどみられなかった.
議論
森吉山における群発地震の初期の活動が比較的狭い領域内に限られていることは既知であったが,本研究により,その初期の活動においてのみ地震波形が互いに類似していることが判明した.このことから,活動初期においては近接する位置での同じような断層運動で地震が起きたことが示唆される.しかし,その後の活動では,クラスタのほとんどの領域で,震源が近接していてもACCは低い.その理由として,近接していても断層運動の仕方が微妙に異なること,震源周辺の不均質が非常に強くて震源位置の僅かな違いにより波形が異なることの,一方または両方が考えられる.これらの原因が群発地震活動にあるのか,元々存在したのかは,今回の結果だけでは判然としないが,森吉山の群発地震の時空間発展が単純ではなかったことを考慮すると,群発地震域は群発地震以前から不均質な状態であった可能性がある.
謝辞
気象庁一元化震源カタログ,気象庁・防災科学技術研究所Hi-net・東北大学の観測点で観測された地震波形記録を使用しました.記して謝意を表します.