日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

[S01] AM-1

2022年10月25日(火) 09:45 〜 11:00 C会場 (8階(820研修室))

座長:蓬田 清(北海道大学大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、野津 厚(港湾空港技術研究所)

10:15 〜 10:30

[S01-03] 斜面における降雨期間中の能動的弾性波モニタリングの試み

*中山 雅之1、川方 裕則1、土井 一生2 (1. 立命館大学、2. 京大防災研)

降雨や融雪による斜面の表層崩壊の機構解明などを目的として,弾性波を利用して地下水の挙動をモニタリングしようとする研究が行われている.例えば,Mainsant et al. (2012) は,過去に崩壊を経験した斜面での表面波の受動的観測をおこない,地震波干渉法を用いて,降雨にともなう斜面崩壊時の弾性波速度変化を調べた.弾性波速度は,主要な崩壊が発生する数日前から次第に低下していき,崩壊直前にはさらなる急激な低下を示した.しかしながら,地震波干渉法は励起源の分布が等方的でないことや季節によって変動することなどが指摘 (e.g.,Stehly et al., 2006) されており,地下水の時空間変化を適切に把握するためには,震源が空間的だけでなく時間的にも安定していることが望ましい.地震学では,例えば弾性波アクロス (e.g., Ikuta et al., 2002) のような時空間的に安定した人工震源を用いた能動的弾性波モニタリングが試みられている.しかしながら,人工震源を用いたモニタリングは長期間同じ場所に設置され,地殻などの主に固結した岩盤を対象に長期モニタリングがおこなわれている.崩壊が予想される斜面や地震後に崩壊した斜面などにおいて短期的あるいは臨時的な観測をおこなうためには,機動的な観測システムが望まれるものの,人工震源を含む機動的な観測システムはほとんど例がなく,斜面表層での観測事例はほぼみられない.さらに,多孔質岩石試料において,試料内の含水量に応じて透過弾性波の伝播特性変化に周波数依存性が生じることが示唆されている (e.g., Müller et al., 2010).もし斜面内部においても透過波の伝播特性に周波数依存性を生じさせるような現象がみられるならば,人工震源からの透過波のスペクトルを安定的にモニタリングすることによって,観測結果の周波数依存性も考慮した解釈が可能になる.そこで,本研究では斜面にて,降雨時を含む期間において人工震源を用いた能動的弾性波モニタリングをおこない透過波のスペクトルの安定性を調べた.
 実斜面に1台の市販の振動スピーカー (以下加振器と呼ぶ) と,約2 m離れた位置に1台の加速度計AC9 (富士セラミックス社製S04SG2),約8 m離れた位置に8台の同種の加速度計AC1-8を設置し多点アレイ観測をおこなった.入力信号として30秒間に10 Hzから310 Hzまで線形に変化するスイープ信号を採用し,ファンクション・ジェネレータ (以下,FG) を用いて加振器にくり返し印加した.なお印加する電圧は人工震源から放射される波が地盤に影響を及ぼさないように微弱なものとした.降雨時を含む2017年3月19日0時から2017年3月22日5時のおよそ3日間,サンプリング周波数51.2 kspsで透過弾性波を連続収録した.当該期間の降水記録は,気象庁の福岡観測点における降水量データを使用した.
 収録波形はジッタにより信号の初期位相が周期的に変化しておりそのままではスタックできなかったため,加速度計AC9で得られた位相変化が震源スペクトルの位相変化に等しいと仮定し,全ての加速度計ACに対して位相補正後スタックした.以降の解析では,AC9において強度が高かった90~300 Hzの帯域の結果のみ議論する.スタック後の各ACのスペクトログラムをAC9でデコンボリューションし,S/N比が2以上となる場合のデータのみを使用して位相成分の時間変化を調べた.
 スタック後のスペクトログラムについて,計測初期の値に対する位相差の時間変化の結果から,震源に一番近いAC8において比較的安定した結果が得られた (図1).このときの速度は430~970 m/sの範囲に求まった.今後は,降雨後の速度の推定および得られた速度について精査する.

謝辞: 本研究は,JSPS科研費JP15H02996と26750315の助成を受けた.また,気象庁の降水量データを利用した.ここに感謝の意を表する.