日本地震学会2022年度秋季大会

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C会場

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

[S01] AM-1

2022年10月25日(火) 09:45 〜 11:00 C会場 (8階(820研修室))

座長:蓬田 清(北海道大学大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、野津 厚(港湾空港技術研究所)

10:30 〜 10:45

[S01-04] ワッサースタイン計量を用いた地震波センブランス解析の試み

*奈良 樹1、後藤 浩之2 (1. 京都大学大学院、2. 京都大学防災研究所)

地震波形の類似度評価は地震学および地震工学における重要な要素の一つである.例えば,センブランス解析,震源インバージョンなどでは,地震波形の類似度評価が必要となる.現在,地震波形の類似度評価の指標として波形やその包絡線の平均二乗誤差を使用することが一般的であるが,近年になって最適輸送理論の一つであるワッサースタイン計量W22を適用することが提唱されている.そこで,本研究ではW22を用いてセンブランス解析を行い,従来手法との比較を行った.
 センブランス解析とは,地震計アレイにおける観測波形の走時差と地震計間距離から波群の伝播速度と到来方向を推定する解析手法をいう.解析過程において,波形の類似度を評価する必要があるが,その指標として平均二乗誤差と等価なセンブランス係数Seを用いるのが一般的となっている.ここで,W22Seの性質の違いを考察するため,同一波形の時間ずれ(図1)に対するW22, Seの挙動をそれぞれ示す(図2, 図3).ともに類似度の最大点は時間ずれ0[s]となっているが,Seは時間ずれに対して細かく振動し,局所解が複数出現している.一方,W22は時間ずれに対して凸性を示し,類似度の最大点を大域的に判断できることが分かる.
 本研究では,2018年6月18日7時58分に発生した大阪府北部の地震を対象とし,大阪市福島区にある地震計アレイで観測された速度波形のUD成分を用いて,実体波に対するセンブランス解析を行った.解析結果の見方を図4に示し,解析結果を図5に示す.P波・S波の到達時にはW22Seともに北東方向に解が出現しており.地震計アレイから見て震源である高槻市が北東方向であることを踏まえると,整合性の取れた結果といえる.また,W22の方が局所解が少ない傾向にあり,解析解の特徴を大域的に捉えられるということが分かる.

<参考文献>
・Bjorn Engquist and Brittany D Froese. Application of the wasserstein metric to seismic signals. arXiv preprint arXiv:1311.4581, 2013.
・Bjorn Engquist and Yunan Yang. Optimal transport based seismic inversion: Beyond cycle skipping. arXiv preprint arXiv:2002.00031, 2020.
・水上昌信,鍬田泰子,後藤浩之,福島康宏.大阪平野における高密度地震観測システムの構築.土木学会関西支部年次学術講演会講演概要集,2018.