日本地震学会2022年度秋季大会

講演情報

C会場

一般セッション » S01. 地震の理論・解析法

[S01] PM-1

2022年10月25日(火) 14:00 〜 15:30 C会場 (8階(820研修室))

座長:西田 究(東京大学地震研究所)、小菅 正裕(弘前大学)

14:30 〜 14:45

[S01-13] 日本列島における脈動P波起源P-s変換波の抽出

*加藤 翔太1、西田 究1 (1. 東京大学地震研究所 数理系研究部門)

脈動は0.05-0.3 Hzの帯域で海洋波浪によって励起されるランダムな波動場である (e.g., Nishida, 2017) 。0.1-0.3 Hzの帯域の脈動はsecondary microseismと呼ばれ、波浪の非線形相互作用に伴う圧力変動によって励起される。そのためRayleigh波とP波の励起が卓越することが知られている。脈動は従来地震波形に対するノイズとして扱われてきたが、近年では地震波干渉法によって地球内部構造の推定に用いられるようになった (e.g., Shapiro et al., 2004, Poli et al., 2012) 。地震波干渉法解析では、観測点間の観測波形の相互相関関数を計算することにより、観測点間のグリーン関数を抽出する (Snieder and Larose, 2013) 。しかし、地震波干渉法によって観測点間を伝播する実体波を抽出し地球内部構造を推定する場合、脈動実体波の非一様な波源分布や観測網の配置によっては相互相関関数に見かけ上の波が出現し、グリーン関数の推定において問題となることが知られている (e.g., Pedersen and Colombi, 2018, Li et al., 2020) 。
そこで、本研究では0.1-0.25 Hzでの脈動P波を空間的に局在化したイベントとみなし、レシーバー関数解析手法を適用し、日本列島直下の構造推定を試みた。ここで、脈動P波の波源は地震のように空間的に局在化しているが、震源時間関数は数日スケールで継続的であると仮定し、観測点下の不連続面でのP-s変換波を抽出するため、脈動P波に適した新たなレシーバー関数解析手法を開発した。
解析に用いた観測波形は、防災科学技術研究所の展開する高感度地震観測網Hi-netの北海道を除く687点の上下動・水平動の速度計記録である。解析対象とした脈動P波のイベントは、0.1-0.25 Hzの全球的な脈動P波カタログ (Nishida and Takagi, 2022) から信号/ノイズ比の良いもの6000イベントとした。波源の位置はカタログで仮定した継続時間 (6時間) 内で一定であると仮定した。全観測点の上下動波形記録から1024秒の時間窓を切り出し、脈動P波の走時に沿って足し合わせることによって入射P波を推定し、震源時間関数とみなした。脈動P波の走時の計算には1次元速度構造モデルAK135 (Kennett et al., 1995) と日本列島の3次元速度構造モデル (Nishida et al., 2008) を用いた。各観測点でのレシーバー関数は水平動成分を震源時間関数でデコンボリューションすることで求めた。
この手法の有効性を検証するため、QSEIS (Wang, 1999) を用いて仮想的な脈動P波の波形を計算し同様なレシーバー関数解析を行った。速度構造をAK135とし鉛直方向のシングルフォースによるグリーン関数にランダムな震源時間関数を畳み込むことで仮想的な脈動P波波形を計算した。点震源を1つ置く場合、点震源が空間的に分布している場合の双方について計算を行った。計算の結果、点震源が空間的に分布している場合であっても十分な数の時間窓があれば点震源を1つ置く場合と同様P-s 変換波を確認することができた。
次に、得られたレシーバー関数について深度変換を行った。速度構造AK135を仮定し、深さ200-1000 kmにおけるP-s変換波のPに対する相対走時をtaup toolkit (Crotwell et al., 1999) によって計算し、計算したP-s変換波の相対走時に沿ってレシーバー関数を足し合わせることにより深度方向への変換を行った。波源の領域(北大西洋、北太平洋、南太平洋)ごとに全観測点のレシーバー関数の深度変換を行い重合した結果、共通して410 km不連続面、660 km不連続面に対応するピークを確認できた。さらに、深度変換したレシーバー関数から日本列島の東西断面図を作成したところ、連続的に410 km不連続面、660 km不連続面を確認することができた。今後は、不連続面の空間分布について議論を進める予定である。