3:30 PM - 6:00 PM
[S01P-04] A trial application of the real-time tsunami forecasting by means of and adjoint-equation based wavefield estimation
地震発生直後の観測からその地震動や津波を予測する即時予測手法は,断層運動あるいはそれに付随する量を推定もしくはカタログから探索する初期値探索型と,刻一刻と変動する波動場そのものを推定する現況把握型に大きく分類できるだろう.このうち,近年の後者に基づく研究からは,即時予測のためには地震発生時刻における震源パラメタは必ずしも必要とされず,現況さえを正しく把握できれば有効な即時予測ができることが示されつつある.ただし,現在地震波や津波に用いられている最適内挿法は静的な補間法の一種であり,現在時刻のみにおける予測値と観測値の残差を最小化するように設計されている.そのため,波動場の時間発展が間接的にしか評価されず,一定時間区間における観測波形全体を説明する逆問題と比べると,推定に用いられるデータ量が相対的に少ないという欠点があった.本研究ではこの欠点を克服すべく,波動伝播の支配方程式のアジョイント方程式に基づいた,地震発生時にはかぎらない任意時刻における波動場状態の推定法について検討した.
アジョイント方程式に基づく方法は,いわゆる逆伝播法と密接な関係がある.以下では,その導出法の概略を通じてそのことを説明する.本研究では,津波のモデルとして線形浅水波方程式を題材とし,最適制御理論に基づいてアジョイント方程式を導出した.まず,観測される津波記録とその地点における浅水波方程式からの水位の予測値の2乗残差を考える.その残差の現在時刻から一定時間前までの対象時刻までの時間積分値を目的関数と定義し,それを最小化するような対象時刻の波高と積分流速の空間分布を推定する.水位と積分流速に対応するアジョイント変数ともとの浅水波方程式に対する波動場の変分との関数内積の時間積分を評価すると,目的関数の波動場に対する偏微分係数がアジョイント変数の対象時刻の値の符号を反転したものとして得られる,さらに適切な変数変換により,このアジョイント変数が従う微分方程式(アジョイント方程式)は,線形浅水波方程式に一致することが示される. アジョイント方程式は,観測記録とシミュレーションに基づく予測値の残差を等価波源項にもつ.このアジョイント方程式を時間を現在時刻から対象時刻まで逆方向にさかのぼって解くことで,目的関数を最小化させるための情報である偏微分係数が推定できる.この方法に基づく手続きは,観測値と予測値の残差を対象時刻まで逆伝播させた結果を初期水位および流速とし,再び時間の順方向に予測をして観測値と比較をする,ということを繰り返すことに相当する. Furumura and Maeda (2021)は,観測点近傍において最適内挿法を用いて地震波動場を補間しつつ逆伝播させることで震源を効率的にイメージングする方法を提案したが,この方法は,観測点周辺における最適内挿重みをつけた地震波動場の空間平均と観測記録との差の2乗和を最小化するという目的関数を採用したアジョイント法の一種であったと理解できる.
この定式化に基づき,津波波動場を逐次的に推定する数値実験を行なった.25 km間隔の津波計アレイの外側に仮想波源を置いてシミュレーションした結果を仮想観測記録とし,その記録の時間ステップ1秒毎の現在時刻に対して,300秒前の状態をしつつ時間発展させる,という問題を考えた.本来のアジョイント法に基づく推定では,逆伝播と順伝播を一定の時間区間で繰り返すことにより対象時刻における状態を推定するが,ここでは逆伝播を一回行うごとに時間区間全体を1時間ステップ進めるという手続きを行う.このことにより,時間区間のほとんどの情報を繰り返し推定に活用しつつ,地震発生の初期条件や位置を仮定したグリーン関数に頼ることなく,波動場の一定時間前の状況とそこから予測される現況を推定し,さらにはシミュレーションによる将来の状態予測もできる.数値実験からは,初期条件を推定する対象時刻が刻々と変わるにもかかわらず,仮定した波動場が観測されるにつれて,観測点近傍における津波波動場が素早く再現され,本手法の有効性が示唆された.一方,順方向と逆方向シミュレーションを繰り返すうちに,仮想観測点を起源とする高周波振動が発生し数値不安定が発生した.これについては波動場に対してグリッドサイズ5x5のガウシアン平滑化フィルタを適用することで,効果的に不安定を抑えられることが明らかになった.本研究では試みに津波に対して定式化を行なったが,地震波の問題についてもその拡張は容易であると期待される.一方,本研究で提案したような逐次的な現況推定にこの方法を用いるためには,対象時刻を現在時刻からどれだけ前に取るべきか,というチューニングが不可欠である.これは観測点配置や波動場の複雑性によると予想されるため,今後はより現実的な構造での大規模シミュレーションを通じた検証が不可欠となるであろう.
アジョイント方程式に基づく方法は,いわゆる逆伝播法と密接な関係がある.以下では,その導出法の概略を通じてそのことを説明する.本研究では,津波のモデルとして線形浅水波方程式を題材とし,最適制御理論に基づいてアジョイント方程式を導出した.まず,観測される津波記録とその地点における浅水波方程式からの水位の予測値の2乗残差を考える.その残差の現在時刻から一定時間前までの対象時刻までの時間積分値を目的関数と定義し,それを最小化するような対象時刻の波高と積分流速の空間分布を推定する.水位と積分流速に対応するアジョイント変数ともとの浅水波方程式に対する波動場の変分との関数内積の時間積分を評価すると,目的関数の波動場に対する偏微分係数がアジョイント変数の対象時刻の値の符号を反転したものとして得られる,さらに適切な変数変換により,このアジョイント変数が従う微分方程式(アジョイント方程式)は,線形浅水波方程式に一致することが示される. アジョイント方程式は,観測記録とシミュレーションに基づく予測値の残差を等価波源項にもつ.このアジョイント方程式を時間を現在時刻から対象時刻まで逆方向にさかのぼって解くことで,目的関数を最小化させるための情報である偏微分係数が推定できる.この方法に基づく手続きは,観測値と予測値の残差を対象時刻まで逆伝播させた結果を初期水位および流速とし,再び時間の順方向に予測をして観測値と比較をする,ということを繰り返すことに相当する. Furumura and Maeda (2021)は,観測点近傍において最適内挿法を用いて地震波動場を補間しつつ逆伝播させることで震源を効率的にイメージングする方法を提案したが,この方法は,観測点周辺における最適内挿重みをつけた地震波動場の空間平均と観測記録との差の2乗和を最小化するという目的関数を採用したアジョイント法の一種であったと理解できる.
この定式化に基づき,津波波動場を逐次的に推定する数値実験を行なった.25 km間隔の津波計アレイの外側に仮想波源を置いてシミュレーションした結果を仮想観測記録とし,その記録の時間ステップ1秒毎の現在時刻に対して,300秒前の状態をしつつ時間発展させる,という問題を考えた.本来のアジョイント法に基づく推定では,逆伝播と順伝播を一定の時間区間で繰り返すことにより対象時刻における状態を推定するが,ここでは逆伝播を一回行うごとに時間区間全体を1時間ステップ進めるという手続きを行う.このことにより,時間区間のほとんどの情報を繰り返し推定に活用しつつ,地震発生の初期条件や位置を仮定したグリーン関数に頼ることなく,波動場の一定時間前の状況とそこから予測される現況を推定し,さらにはシミュレーションによる将来の状態予測もできる.数値実験からは,初期条件を推定する対象時刻が刻々と変わるにもかかわらず,仮定した波動場が観測されるにつれて,観測点近傍における津波波動場が素早く再現され,本手法の有効性が示唆された.一方,順方向と逆方向シミュレーションを繰り返すうちに,仮想観測点を起源とする高周波振動が発生し数値不安定が発生した.これについては波動場に対してグリッドサイズ5x5のガウシアン平滑化フィルタを適用することで,効果的に不安定を抑えられることが明らかになった.本研究では試みに津波に対して定式化を行なったが,地震波の問題についてもその拡張は容易であると期待される.一方,本研究で提案したような逐次的な現況推定にこの方法を用いるためには,対象時刻を現在時刻からどれだけ前に取るべきか,というチューニングが不可欠である.これは観測点配置や波動場の複雑性によると予想されるため,今後はより現実的な構造での大規模シミュレーションを通じた検証が不可欠となるであろう.